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幽霊船 3

 幽霊船のタラップが上がろうとしている。ハリマンが荷物袋を担ぎながら走ってくるのが見えた。


「兄貴!」

ヨシローが投げ出された荷物を受け取り、手を伸ばした。盗賊を名乗るだけあって身のこなしに目を見張るものがあった。高くジャンプし、ヨシローの手をしっかり握った。

「すごいね。今の跳躍力」

「へへへ」


 荷物を甲板に下ろすと、日持ちのいい干し肉などがたくさん入ってた。

「ずいぶん、気前がいいですね」

「有り金全部はたくって言ったでしょ。まぁ、半分は盗んだ」

「ハリマンさんは豪快ですね」

サクランが顎骨を震わした。


「水は備蓄があります。必要なら煮沸すればさらに用意できる量もありますので」

「さすがホネの兄貴」


「あー、僕は何もしていません。すいません」

「兄貴はいいって。見た目ただの町人じゃん。冒険の心得は俺に任せてよ」

ハリマンがヨシローの肩を叩く。

「ヨシローさんは剣をお持ちなので、そっちの方で期待してます」

サクランはヨシローの魔力の高さから実力のある冒険者と見抜いていたが、ここはハリマンに合わせた。

「はい。必要とされたら頑張ります」


「財宝はお二人でお分けください。ハリマンさんに配分は任せます」

「マジかよ。ホネの兄貴」

ヨシローも頷いた。


「船室は上の階にあるのを好きなように使ってください。下の方の階は多少ガタがきていて床が抜けます」

「「ありがとう」」


 船はどこかしら軋みながら怪しく静かに波間を漂っていた。

月明かりが異様に不気味な雰囲気を醸し出す。


「この船は次はどこに行きそうですか?」

「そうですねえ。パターン的には丁度対岸の街に行くかもですね。もちろん真っ直ぐには行かないんですが。」

「対岸?一ヶ月くらいかよ。でも内陸沿いに周ったら半年はかかるくらいじゃないか」

「いい勘してますね。ですが、対岸の街は砂漠を越えます」


「砂漠で降りるんですか?それならその次の港町まで一緒にいさせてもらおうかな」

ヨシローは水の補給が困難なところは苦手だった。

「いいえ。この幽霊船は砂漠を越えて街まで行きます」

「砂漠すら航れるのかよ。最高だな」


「そろそろ休みましょうか。船内に人魂が漂ってますが、無害なので気にせず静養してください」

「人魂って!」

ハリマンがサクラン以外は誰もいないと言っていたことを指摘した。

「ええ。人畜無害ですし、灯りと思っていただければ慣れます。だからこの船には私ひとりなのです」

サクランは口角を上げた。


 淡い緑の炎がゆらゆらと漂っていた。軽く息を吹きかけると炎を揺らめかせ風に流されていった。

「人魂だ」

ただゆらゆらと彷徨う存在。魔力のなんらかのカタチでもなく、熱くも何かに燃え移ることもなくそこにいる。

確かに灯りに丁度良かった。


「おはようございます。ヨシローさんはいつも早いんですか」

朝靄の中でサクランが声をかけてきた。

「そうですね。習慣です。」


海上の朝は霧がかって視界が悪いそうだ。陽が昇るにつれ靄は晴れてくるそうなので一緒に待つことにした。サクランは基本的に睡眠は取らない種族だそうだ。サクランが無口な性格でなくてよかった。黙って側に立たれていたらシチュエーションによってはホラーな展開になっていたところだ。


「ハリマンを起こしてくるよ。一緒に飯にしよう」

「いいですね」


 何日か航海をして

「ハリマンさんは財宝の部屋にはまだ行かれないんですか?」

「それなんだけど、みんなで行かないか」

寄ってくる人魂を払いのけハリマンは言う。

「怖いですもんね」

サクランが口角を上げた。

「ホネの兄貴と人魂が絵になり過ぎる!こえーよ」


 ドーン!船体に何かぶつかったようだ。水飛沫を上げた幽霊船は右に左に大きく揺れたが元の通りに航海をつづけた。

「なんでしょう?クジラが衝突でもしましたかね」

サクランはたまにあると言うが、二人は落ち着いていられなかった。


「大丈夫かよ。沈んだりしないか?」

ハリマンがマストにしがみつきながら確認をした。

「大丈夫です。すでに穴はあります。不思議でしょ」


「サクランさん。今まで襲われたことは?」

「もちろんあります。万物は魔力を持ってます。幽霊船に気づいて海洋の大型生物が間違って襲ってきたことはいくらでもありました」

サクランは顎骨を震わしながら大丈夫と念を押す。


「どうやって切り抜けてきたんだ」

ハリマンはサクランの分身と固まって震えた。

「もちろん戦いましたよ。でも今回は三人で対処できます。余裕でしょう」

サクランの口角は上がりっぱなしだ。


サクランの分身がどこからか馬の大腿骨を持って来てぶんぶんと振り回した。

「この子も戦うんですよ」

と分身の親指を撫でた。


「頼もしいな。名前は?」

ハリマンが分身をつついて遊んだ。

「えー。ヨシローさん、よかったら名前つけてあげてください」

「おっ、兄貴のネーミングセンス」


「あー、えっと。トンカチ」

ヨシローが分身と同じ目線くらいにしゃがんで言ってみた。後ろでハリマンは顔を押さえてその壊滅的なセンスに絶望していた。


「楽しいですねー」

サクランは喜んでいたが、分身は自分ではなく武器として手にした馬の大腿骨に名付けられたみたいで不服そうに両手を振った。





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