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幽霊船 2

「そうだ。貴方の名前、聞いてませんね」

白骨の表情が感情を読みにくいので、失礼だったかなと思い

「申し訳ありません。僕はヨシローと申します」

サクランは顎骨をカタカタと震わせた。笑っているようだがホラーにしか見えない。

「気にしないでいいですよ。ヨシローさん」


「港には立ち寄らないんですか?」

「私が?」

ああ。いらないことを言ってしまった。町にガイコツが降り立ったら衝撃すぎる。反省しなければ。


「降りれないんですよ。呪いです。見ててください」

と言うと、サクランは甲板からヒョイっと港に飛び降りた。ヨシローは結構な高さだぞ、とサクランを追いかけて船から身を乗り出した。

「ただいま」

ヨシローの隣にサクランは降り立った。


港に飛び降りたサクランが甲板の上に降り立った。

ヨシローは一部始終をしっかりと自分の目で見た。


「私、この世界でいう魔族とやらでもないんです。実をいうと、異世界から来まして」

「異世界?」


「確かに私は、自分と同じような骨だけの様々な生き物のいる世界で生活していました。オルテラス大陸も骨に筋肉や臓物がついて生きている生態系なんて八百年前は知りませんでした」

「だから異世界…」

「はい。八百年前、光に包まれました。光から解放されるとここにいました。八百年の間に何人かのこの世界の方とお話ししたことがあります。私の分身であるこの子たちを色々な町に放して情報を得た上で、私は別の世界線に転移したのだと確信しました」


「大変だったでしょう」

「どうですかね。この船から出られない理由もわかりませんが、この船と共に彷徨っているからこうして長生きしてるかもしれないですね」


 トテトテと走るサクランの分身が集まってきた。耳元までよじ登ると何か囁いている。

「どうかしました?」

「ええ。どうやらもうひとりお客さんがいるようで」


サクランは外套の中から右腕を突き出した。

「この子たちは私の指から作り出した子でして、感覚を各々に切り離してるので、個々に自我を持って行動します」

親指、人差し指、中指がなかった。


「ふざけんじゃねえ。意味わかんねえよ」

物影から出てきたのは、見た目小柄な男の子だった。

「絶対おかしいだろ。幽霊船とガイコツの組み合わせなんて。ふつうならセットもんじゃねえか」

サクランは笑っていた。


「君は?」

ヨシローが間を取り持つよう話しかけた。

「俺はハリマン。義賊だ」

自信を持って自己紹介するハリマンに、ヨシローとサクランは一度目を合わせて再びハリマンの方を見た。


「いや、今はまだしがない盗っ人だけど、な」

身なりはそれなりにきちんとしていて精悍な顔つきをしていた。形から入るタイプなのだろうか。

「貴方とも仲良くなれそうだ」

サクランがまた顎骨をカタカタ震わせた。


「盗み聞きしたかったわけじゃねえからな。タイミングを計ってだんだからな」

ハリマンが弁明する足元をサクランの分身がちょこちょこ走り回っていた。


「こいつらかわいいのはわかったから、引き取ってくれ。隠れてる意味がねえよ」

三人は笑った。確かに可愛らしいフォルムをしている。


「港でボーっと座ってたアンタをカモだと思ってちょっとスってやろうと思ったらよ。なんか階段昇るみたいに上がって行ったから、あとをつけたんだ。そしたらすげえでっかい船じゃないか。まったく見えてなかったよ。どうなってんだと思って身を潜めてたのさ」

ヨシローはきょとんとしていた。

「ええ。ヨシローさん、貴方バッチリ黄昏てました」

三人はまた笑い合った。ヨシローは恥ずかしそうにした。

「初めて海を見たもので」


「話しの続きですが、この子たち結構な私の魔力を持たせてるのでそこそこ強いんです」

親指は力自慢で荷物の運搬役。人差し指は器用で扉の開錠など。中指は好戦的で情報収集や探索が得意という性格を持たせてるそうだ。

町に停泊すると分身は特性を活かして町中に繰り出して情報や食糧、必要なら物資をかき集めてくる。

なぜか分身は船の外に出られるのだ。


 幽霊船の帆が揺らめき始めた。

「やや。船が港を離れるようです。今日は自己紹介で終わりましたね。またいつ会えるかわかりませんが楽しかったです」

「出航するんですね」

「はい。彷徨える幽霊船は気分屋です。中つ海をぐるぐる航海して色んな港に向かいます。そろそろ降りないと戻れませんよ」


「おい、この船に財宝はないのかよ」

ハリマンが叫んだ。

「ありますよ。私には無用なので下の船倉に眠ってますが」

「なら、俺は残るぜ。兄貴はどうよ?」

ハリマンはやる気になった。


「兄貴?」

「ヨシローさん。懐かれましたね」

ヨシローは困惑したが、孤児院時代を思い出して悪くないと思った。


「僕も根無草なんで、路銀が欲しいなと思ってたんです。次の港までなら同行させてもらいたいです」

「兄貴。文無しかよ。相手間違っちまった」

三人は笑った。


「こんな楽しい旅はいつぶりでしょう。ワクワクが止まりません。ですが、ひとつ懸念があります。貴方達の食糧問題です。骨、食べませんよね」

「俺、ひとっ走りしてくるよ。船がいなくなると困るから、兄貴は港に出て待っててくれ」

ヨシローは頷いた。


「有り金全部はたいてくる。財宝はすんげえあるんだろうな。ホネの兄貴?」

「昔の金貨の山があります。貨幣価値もあるでしょう」

サクランが言うなり、ハリマンは走って行った。

「嬉しいなあ。今あだ名つけられました」

サクランの口角が上がった。ヨシローはそれを見て驚いた。




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