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ハイネとシルフィ 3

「よろしくやってんなぁ」

シルフィが空から舞い降りてきた。

「シルフィ。久しぶり」

もうどれくらい会わなかっただろうか。懐かしいと言えるくらいの月日が経っていた。もちろん空間の歪みの中だからそれほどの時間は経ってないのだろうけど。そして歪みの世界で毎日少しづつ過ごしてわかったことがある。長い時間は過ごせないのだ。


「もしかして、元の世界に影響するほど歪みの世界の中にヒトはいられないのかもしれませんね」

歪みの世界で費やした人生の一部を元の世界に換算することはヒトの短い一生に大きな問題を包括しまうのだそうだ。ハイネもヨシロー以外の人間を歪みの中に招いたことがないので初めての経験だった。

確かにヒトが存在できる世界ではないだろう。あまりにも静かで美しい世界で気が狂いそうだったからだ。


「おいおい、ヒトの食べ物じゃねぇか」

昨日食べ損ねたパンを一つ、後で食べようと布に包んで持って来たのだ。シルフィが包みの隙間から匂いを嗅ぎだし言い当てた。

「口に合いそうなら食べる?」

布を広げて差し出した。

「おれはよぉ、グルメだぜぇ」

そう言ってパンをひとちぎり、といってもシルフィの体の大きさならかなりデカいサイズになるのだが。

「北の方に裕福そうな貴族がいてよぉ、その国のパンはめちゃうめぇぜ。てめぇも旅することがあればよぉ、その土地のうめぇもんはいただくにかぎるぜ」

親指、人差し指とペロッと舐めながらシルフィが腹を満たすと

「ハイネに教わったもん 見せてみろよ」


ヨシローはひとつうなづいて、右手を前にかざした。瞬間少し離れた岩が崩れた。

「なんだぁ、水鉄砲かよぉ」

「もう少し威力を上げれるよ」

「そんだけかぁ」

「形状を変えて切ることもできるようになったよ」

シルフィは腕を組み一呼吸おいて

「岩をよぉ、切れるのか?」

「切ったことはない」

「ヒトは?」

「使ったことない」


「ヨシローよぉ、てめぇには性格的に不向きだと思うぜ。

内なる魔力を感じるようになったよなぁ。魔力の扱い方を覚えたよなぁ。魔力に水の性質を取り入れる技術を身につけたよなぁ。

それでもよぉ、てめぇ村じゃぁゴロツキに遊ばれてるじゃぁねぇか」

言葉のひとつひとつが痛い。ヨシローはシルフィの前でシルフィより小さくなった気がした。

「ハイネはよぉ、てめぇの力にはなってねぇのかよ」

シルフィはピューンと飛んで行った。


「ハイネ。ごめん」

「どうかしました?」

ヨシローは正座していた。ハイネは落ち込んでるヨシローを見て驚いた。


「シルフィなりに優しい気遣いなんです。あなたが正しく必要な時にわたしの教えた魔法を使ってくれたらいいのですから」

「間違いが起きたら」

「次は正しく使ってくれたらいいのです。そして必要な時に正しい魔法へと今度はあなたの力で発展させてください。水は形を選ばすどんな形にもかたちを変えてみせますから」


「邪魔するぜ」

「シルフィ?」

今は元の世界の夜更け。風のように窓の隙間からシルフィは入り込んで、ヨシローのベッドの上に座り込んだ。

「今朝のことはよぉ、忘れてくれ」

「ハイネに怒られた?」

どんぐりが額に命中した。

「ヨシローはよぉ、攻撃的な魔法よりも防御とか補助的な魔法の方が向いてんじゃぁねぇかって話だぜぇ。まぁ、てめぇが一皮剥けりゃぁいいだけのことなんだけどよぉ」


「とりあえずよぉ。おもて出ろ」

修道院には子供達も修道女達も住んでいる。起こさないよう静かにこっそり抜け出した。


「自由のねぇ生活してんなぁ」

シルフィのあとをしばらくついて行くと

「ここらでいいだろう。レッスンしてやらぁ」


「客観的に全体を捉えろ。思考は止めるな。どんな状況でも選択肢はある。大事な局面で選択肢を一つ選んだら覚悟を決めろ」

四方八方からどんぐりが弾丸のようにヨシローめがけて飛んできた。どんぐりの被弾によって倒れるヨシローの上にシルフィが腰掛けてどんぐりを手の中でコロコロと遊ばせ

「風の流れ、空気の淀み、匂いはどんな状況下でもヨシローに味方するぜぇ。覚えて損はねぇぜ」


「ところでよぉ、ハイネは水鉄砲なんか使わねぇぜ。なんて名だ?」

「いや、ただこうしろああしろと手ほどきを受けただけで」

「そういうことかよぉ。人間は技に名前をつけて叫ぶのが好きだからなぁ」

「ちなみにシルフィの魔法は?」

「行雲流水。まぁ、風を感じろってことだぜ」

「行雲流水」


「ちなみによぉ、人間が唱える魔法とおれたちがよぉ、ヨシローに授けた魔法はよぉ根本的に違うワケだからよぉ、なるべくならその」

「人間の使う魔法は学ばない。でいい?」

「まぁ、なんだ。ヒトの術式ってのがよう、おれたちには理解し難いんだぜ。あれで魔法が発動する意味がわかんねぇんだよ」


「客観的的に全体を捉えろ、ってセリフのくだり。

シルフィの〜よぉって語尾なくてさ。普通に喋れるんだって思った」

シルフィの折れたとんがり帽子がピンと逆立った。

「てめぇの額によぉ。どんぐりがめりこむぜ」










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