ハイネとシルフィ 2
シルフィがポコポコどんぐりを投げてくる。魔力の操作が上手くいかず見失ったわけでもないのにどんぐりを2、3個投げては拾い集めてを繰り返してくる。
ほどなく森の奥に入ったところに大きな切り株の周りに椅子に見立てた丸太がいくつか置いてあった。
この辺はそんなに離れたところではないし、このような場所は見たことがない。いや、なかったはずだ。
「お茶も用意できますの。シルフィ」
「おれはぁ、執事じゃねぇぜ」
シルフィはピューンと飛んで行った。
「お掛けになられて」
「失礼します」
ハイネはヨシローのあとに座り
「ちゃんと、自己紹介しますわね」
「わたしは、水の精霊ハイネ。ローレライをご存知?」
ヨシローは首を横に振った。
「あなたが川の流れを元に戻していただいたおかげでここの自然や生態系に及ぼす災いから救っていただきましたのです。わたしも精霊としての特性上清流の恩恵は欠かせません。その感謝の意だと思っていただけたら」
どこかへ飛んで行ったシルフィが戻って来た。
「風のシルフィだぜ」
目の前にウツボカズラをコップにしたお茶が置かれた。
「毒じゃぁねぇぜ」
「人が口にするお茶と呼ばれるものと同じ味ですから、安心してくださいね」
ヨシローは一口つけてお茶であることを確信した。ということは原料は茶葉ではないということか。
「お茶ですね」
続けて
「ここはどこなんですか?」
「ここはここではない別の空間です」
包み隠さず話しますよという姿勢でハイネが説明した。
空間の歪みといわれる場所で時間の流れが元の空間と違うとのことだ。
「たとえば元のいた場所では一時間過ごすところがこちらではおよそ一年をきるくらいなのです」
「ここに一時間いたら元の場所に帰るとー」
難しく考えるのは苦手だ。計算がいるような気がするが得意ではない。
「大丈夫だぜぇ。ここで小一時間だべったところで、元に戻りゃぁ何もなかったぁくらいだぁな」
シルフィがどんぐりを投げようとした。思わず構えてしまった。一瞬二人を見失うとこだった。緊張感が解けない。
「あなたほどの魔力を持っているなら精霊のみならず姿が見れるし、高い知能を持つ魔獣とも会話ができるはずなのですが」
「人間は魔力が乏しいからなぁ。向こうのでっけぇ国で魔法を教えてたがなぁ。なっちゃぁいねぇがよぉ」
ヨシローは自分が魔力が高いことに疑念を抱く。
「この空間の歪みだってなぁ、ある程度高い魔力がねぇと存在を維持できねぇんだけどよぉ」
空間の歪みは一箇所に留まらず浮遊するかのようにオルステラ中を彷徨っているそうだ。
「え、元の空間に戻ったら別の知らない土地だったなんて事になるんじゃ」
「正解だぜぇ」
「今ところ、その心配はありません。多分にあなたの高い魔力量の影響で移動する気配がないのです」
ハイネがシルフィの頭をコチンと叩いた。
元の場所への帰還に不安が残るが、
「魔法なんて教わったことも使ったこともないし。魔力を持っている感覚も自分にはないです」
シルフィはやれやれとポーズをとった。
「魔族であれ、亜人であれ、ヒト族であれ魔力は多かれ少なかれ持っていますよ。魔力を魔法として使えるかどうかに別れるだけなのです」
「てめぇは不器用そうだなぁ」
シルフィがハイネのげんこつを必死にくい止めている。
「ヨシローさん」
ハイネがじっとヨシローの目を覗き込む。
「魔法使ってみませんか?」
「おい、マジかよぉ」
シルフィがハイネのほっぺたをペシペシ叩く。
ヨシローは森の中にいた。元の場所に戻ってこれたのだ。急なお誘いだったから返事があやふやだったが、約束はしなかった。もしかしたら空間の歪みが明日移動してなくなってるかもしれないからだ。不思議な体験をしたものだと空を見上げると太陽の位置は先程の不思議な体験した時間をざっくり切り取ったかのように時間は流れていなかった。
次の日、ヨシローは職場復帰を果たした。修道女は仕事に戻るのは当たり前。休んだ分も働くようにと、いつも通りに接してくれる。
子供達はびっくりしていた。口をぽかーんと開けて、普段通り働くヨシローを見ていた。
変化が現れたのは森へ入ったときに起こった。まだ靄がかかる時間帯だが場所を特定せずとも気付けば空間の歪みに足を踏み入れていた。
シルフィに最初に会ったので挨拶をした。
「何がそうさせるのかはわかんねぇがよぉ。しっかりやんなよぉ」
シルフィはピューンと飛んで行った。
しばらく進むとハイネが見えた。ハイネはヨシローを確認すると、衣のスカートの部分をつまみ上げかるくお辞儀した。
「よくおいでくださいました」
いつも通りに歩けばここに行き着いたから選択権はなかったのだ。
「よろしくお願いします」
仕事に支障はでないはず、厳しい修行は勘弁してもらいたいのだが、魔法を習得するにはいったいどんなことをするのだろうか。
「ローレライの種族は水を司る精霊です。わたしが教えられるのは水系統になります」
そう言って水場に案内された。ヒヤッとした空気と朝霧に包まれて視界は悪いが、呼吸をすると澄んだ空気が全身に沁み渡り身体の中の不純物が洗い流される気分になった。




