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クナト壊滅

 うつろな片目が開いていた。何かを見たいわけではない。意識も朦朧として何も考えていなかった。



 クナトと呼ばれるよりもはるか太古の物語。

三人の神がこの地に三本の柱を建て結界を張った。

結界の中へ導かれた人間たちは小さな集落をつくり生活をするようになった。生活の中で神への忠義は忘れなかった。ただ祈り、育てた食物を少し供物としてお供えし、感謝した。

三柱はどれも分け隔てなく同様に信仰した。


やがて遠くの地に住む人間と交易を行うようになった。物々交換は次第に金銭を介して行うようになった。時代が流れると略奪や侵略をされたり行なったりするようになった。

結果豊かになり、集落は都市へ、国になろうとした。そして信仰は薄れ捻じ曲がり、人の心を支配した。


「信仰を失った我々三兄弟では、この土地に繁栄をもたらすことができなくなった。だが我々はこの土地も人間も愛してやまないのだ。ありがとう」

邪神ナハトはヨシローを讃えた。


ヨシローは、耳を削がれ聴こえていなかった。


「ヨシロー。よく頑張りました。女神である我モルーの名において慈愛の息吹きを」

柔らかい光と共に優しい風が吹いた。


「お前の働き見せてもらった。戦神アーベンの名において約束を違わなかったこと深く感謝する。お前の旅に加護があらんことを祈る。往け」



 星が見える。空が綺麗だ。

ヨシローは起き上がった。足のつま先に力が入る。目の前に両手が見える。握って開いて、感覚がある。片目を交互に閉じてみる。ちゃんと目玉も視覚も戻っている。


立ち上がり、折れた剣を拾った。ないよりマシか。鞘にしまい。女神像の無事を確認した。辺り一面災害の痕跡を残し荒涼とした光景を目の当たりにした。


カバンも無事だ。中の紅竜の真眼も他の持ち物も無事だ。

三柱様によって命を助けられたのを実感した。


(クナトは…)

ヨシローは女神像に祈りを捧げてクナトに向かうことにした。新しく造った女神の祠が途中あるはずだ。


蝗害の軌跡はクナトに向かって破壊の痕跡を残していた。こいつらはどこに向かって行ったのだろうか。

イナゴの大群の中に、普通じゃ考えられない大きさのものもいた。鉄の塊のようなものもいた。触れただけで切り裂き粗く削りながら跳ねるのもいた。

すべてが現実にあったと実感した。


 新しい女神様の祠だった場所。瓦礫と化していた。タバコのシスターはきっとこの辺りで絶命したのだろう。足元にタバコケースとボロ布と化した修道服が落ちていた。

人間は肉も血も骨も残さず喰い漁ったということが窺えた。


タバコのシスターはこのつくりものの女神像に祈っていたのだろうか。


ヨシローは申し訳ないと思いながらボロの修道服をいただいた。今ほどまでヨシローは全裸だった。

神様は身体を修復し回復してくれたが、着ていた服までは直してくれていなかった。


黒いボロ布を腰に巻き、帯剣している剣は折れていて、カバンを肩から掛けているだけの男がクナト市内に立っていた。ヨシローのことだ。

元々ここがなんだったかすらわからないくらい破壊の限りが行われていた。

大きな教会がもう少しでできたであろうが瓦礫の山と変わり果てていた。


 たった一日でクナトは消滅した。

神罰が降ったかにみえるこの光景は、実は神罰ではなくこのような厄災から守るために三柱様がはるか昔から結界を張ってくれていたのだ。

のちの人たちはクナトを見てどう語り継ぐかは知らないところだが、もしかしたらクナトから何か教訓を学ぶかもしれない。


 ヨシローは街中をくまなく見て歩いた。人も含め生きるものは全て消えていた。

親切に宿を貸してくれた古くからの三柱様を崇めていた老人も例外ではなかった。老人の純粋な小さき信仰心がヨシローを三柱の神々に引き合わせてくれたのかもしれない。

老人の宿に石を積み上げ、祈りを捧げた。

(三柱様のおかげで生き残れました。おじいさんの正しい信仰心のおかげです)


 街でいくつかの仕立て屋などの店の跡地から、旅人っぽい服を調達できた。

武器屋の方では全て瓦礫の下敷きになり、新しい武器は調達できなかった。

ヨシローの手持ちは金貨三枚のみだ。次の街までは折れた剣で行くしかないようだ。


 ダンジョンは逃げ場のない一本道だった。きっと壊滅しただろう。

なにかやるせない気持ちではあったが。紅竜の真眼は渡せないため、ダンジョンの無事は見送ることにした。


 老人の宿で出された魚を思い出した。海のある港町に行こう。新しい剣を調達しよう。

ヨシローの旅は再開した。


山から振り返って見下ろすクナトはただの石の藻屑のように見えた。

いくつかの山を越え小さな杣の家で一夜を過ごし、ひたすらに歩いた。


たくさんの明かりが灯る町にようやくたどり着いた。

酒場から明かりが漏れていたので寄らせてもらおうとした。

目の前を子犬ほどの大きさの子犬ではない何かが走っていった。

魔獣だろうか。トテトテと走って行った。


クナトの件もあって疲労は溜まっていた。被害がなければ見逃して身体を休めたかった。

それとフィムとの取り引きだ。ケルンのために必要な紅竜の真眼を手に入れた。







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