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ダンジョンアタック 5

 ダンジョンボスの情報は間違いないだろう。目の前には部屋の奥から生えてるように胴体と馬鹿でかい右腕を今にも振り落とそうとする三つ目の怪物がいた。左腕はない。


ひとつの目の中に瞳孔が二つある。全部で六つの瞳孔をギョロギョロさせ獲物を確認している。鼻はない。歯のない大きな口がゆっくり息を吸っている。怪物の肺にたくさん空気を溜め込んで一気に放つ雄叫びが部屋中にビリビリと反響した。確かにうるさい。

ヨシローは耳を塞ぎ耐えた。必ずこの後に麻痺するはず。


(邪神様。貴方の加護を頼りにしてます!)

祈る気持ちでヨシローは怪物の左腕側に走った。

当たりだ。邪神様の加護は状態異常耐性だ。


怪物は右腕を叩きつけた。やはり届いてない。が届きそうでもある。

そして闇の中にある天井から無数の岩盤が落ちてくる。この間は動けない。落盤が止むのを待つだけだった。


 落盤の雨が終わる頃。怪物は身体を捻るように左腕側の死角を狭めていた。

セーフエリアはないということだ。

1ターン目が終わる。


 ボスの雄叫びに怯まず距離を詰める。できることをするしかない。ビリッときた。だが麻痺して動けなくなるほどではない。このタイミングで攻撃に転ずるしかないだろう。


地面を叩き割る右腕の攻撃は単調で大振りに上下に振るか横殴りに払うかのどちらかでモーションを確認すれば対処がしやすい。


何度も接近を試みて一撃を加えては離脱を繰り返す。天井からの落盤の雨は水撃で壊すのは容易いが無傷ではいられない。


防御と回避と反撃の比率が次第に反撃の機会が増してきた。

遂に喉元まで距離を詰めることができた。ヨシローが弧を描くようにボスの顎下で剣閃を見舞った。


「どうだ」

手応えはあった。人間なら急所である頚動脈にまで達した。


 ボスはガクンとうなだれるように頭を地につけた。目玉もひとつ斬った。大なり小なりの斬り傷を負わせて幾つかの手応えを感じながらも、この怪物は息絶えない。


ボスはまだ動く。無理矢理首を傾け雄叫びをあげようとする。喉を深く斬ったのだ。雄叫びは出せないだろう。ヨシローもどこを攻めれば有効なのか疑念を抱えてしまい剣先が鈍りつつあった。


水魔法はもちろん効果はない。物理は斬ることはできる。麻痺の雄叫びに耐性があるヨシローなら相手の懐に入ることができれば攻撃が届く。しかしこれだけ深く斬りつけても血を流さないし動きも止まらない。

この怪物は淡々とワンパターンな攻撃を繰り返す。


 ボスは枯れたような雄叫びをあげ腕を振り上げた。

ヨシローも逃げ場のない立ち位置で心が揺らいだ。

ハンマーのように振り降ろす巨大な右腕は自分の頭ごとヨシローを叩き潰した。


 扉の外。指揮官はチェスのような盤上遊戯を楽しみながら

「ソロの冒険者。頑張ってるじゃないか」

「時間的にですか。最長の記録保持者は何組もいましたが」

「ソロで頑張っている。ということを賞賛している。参謀の火魔法使いなら勝ち筋があると言ういい訳には辟易していたのだ。今ある駒で勝ち筋を導き出すのが参謀の仕事だと思うのだが」

「左様で」

隅にいた参謀の男はコソコソと人を払いのけ姿を消した。


「扉が閉まれば中の様子は一切わからん。音も振動も何もかもが遮断される。魔疽とは不思議なものよ」


「次のダンジョン攻略の募集はどうしますか?一度取り止めますか?」

「かまわん。集まり次第ダンジョンに通せ。騎士団はこれ以上犠牲は出さん。報酬を受け取ってお前たちも早く故国に帰りたいだろう」


「指揮官は、あのソロには期待されてなかったのですか?」

「それがどうした。二手三手先を読むのは当然のことだろう。奮闘してるかもだが、所詮はソロ。あんな怪物に太刀打ちできる顔ではなかったがな。それに参謀が絶対譲らない火魔法使いの案も見捨てたわけではないからな」


「あ、これ」

盤上遊戯は指揮官が負けた。


 ダンジョンを支配していた怪物はピクリとも動かない。自分の頭を原型がわからなくなるほどの力で叩き潰して絶命した。

(胴から下がない。まるで未完成の生物みたいだ)

怪物の上で疲れたように座り込んだヨシローは、怪物の背後にある台座の上に光る「深紅の宝珠」を見つけた。


扉は開かない。ボスを倒した条件では、まだ扉の向こうの騎士団には知られてないということだろう。ならば、あの深紅の宝珠を手にしてダンジョンクリアの条件を満たすと考えればどうだろうか。

扉が開くのはまずい。


 しかし、どこにも隠し通路は見当たらず、やはり扉を開けて騎士団をだし抜かなければならない。いや、一戦交える覚悟がいるだろうか。


もうひとつの懸念。深紅の宝珠は紅竜の真眼で間違いないのだろうか。


途方に暮れている場合ではないのだ。ヨシローは立ち上がった。

「よくやった。お前の頑張りに報い、われ戦神アーベンの名のもとに紅竜の真眼はお前にくれてやろう」

どこから声がするのかわからないが、ヨシローに語りかける男の声がする。

「では約束を果たして貰おう」


 ヨシローは台座の紅く光る玉を手にすると眩い光に包まれた。


光が鈍く明るさを失い、ヨシローの手には紅竜の真眼があった。と同時に地上に出ていた。

(確かここは、女神様の祠が近くに)

空には無数のイナゴが飛んでいた。




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