表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/102

三柱信仰

 宗教都市クナト。はるか昔からの土着の三兄弟の神を信仰の対象としてきた。三柱信仰を都市の政治の中枢に置き都市の開発、観光資源として盛えてきた。


しかし、ヨシローの目の前に突きつけられた光景は少し違って見えた。心のすみに引っかかる違和感だ。

外からやって来る聖地巡礼の観光客、新しくここで商いをするもの、さらにはるか遠くから新しい教会を建てるために資材を搬入する業者で賑やかだった。


違和感とは三柱というわりに実は信仰の対象とされていたのは一人の神だった。


 換金所。残りのサンテール通貨を全てクナトでの流通銀貨に換えた。多分切り詰めて三日分はあるだろう。

「旅人さん。教会が発行する免罪符はいかがですか」

振り向くと修道服に身を包んだ老婆が立っていた。

周りを見渡すと何人かの同じような修道女が他の人たちにも声をかけて回っていた。


「人は生まれながらにして罪を背負っています。三柱教では、これまでの行いを免罪符をもって赦しの…」

「ばあちゃん。俺はここに来るまでに盗みの罪を散々犯してきた。なんだこの仕打ちは!」

言葉を遮ってゴロツキ風の男が取り押さえられながら叫んだ。連行される最後に


「三柱教の教えの一つは生まれた罪を赦すという教義です。さらに積み重ねた罪は法に裁かれなくてはいけません」

あっけに取られたが、この一部始終を見届けたあとすぐにその場を離れた。


強制的な購入ではないだろうが、あんな修道女が入れ替わり立ち替わりやってきたら、正直面倒だ。


 少し離れてから宿を探すことにした。老人がやっている小さな宿に入った。

「しばらく滞在したいのですが…」

「宿はやってない」


ヨシローは外に出て建物を見上げた。そしてまた中に入り

「宿の看板がかかってますよね。満室ですか?」

「営業許可が取れなんだ。だから断らなくてはならん」

「許可。ですか?」

「観光地だかんな。教会の許可がいるんだけど、更新がダメになった」


どうやら宿を営業するためには許可という名のお布施がいるらしい。老人一人でやっているため、観光地らしい贅沢なサービスや食事が提供できないでいた。

そしてもう一つの理由が

「古い三柱教の信者ってだけで、だんだん規制が厳しくなってな」


「ぜひ、ここに泊めさせていただきたいです。表向きはおじいさんの遠縁ってことで。ちゃんと宿代は支払います」

老人も収入源が絶たれたことには困っていたようで頷いてくれた。

「ホントに飯もしょぼいし、部屋の窓から新しい教会なんて見えんぞ」

ヨシローは頷いた。

「三柱信仰のこと、教えてくれませんか?街で尋ねると入信させられそうで」

「まったく、今の司教になってからは金と信者のことばかりしか頭にない。昔は信仰はもっと自由だったんじゃがな」


 はるか昔。三兄弟の神がこの地に聖なる結界を張り土地に住む人間に平和と繁栄を約束した。

一の柱、邪神様。外からの疫病や厄災から身を守る結界。

二の柱、戦神様。いかなる侵略からも土地を守る結界。

三の柱、女神様。家族と健康を守る結界。

三柱神への信仰と引き換えにクナトの土地に恩寵をもたらす。これが始まりだった。


 時代は移り変わり、その教えも少しずつ解釈の仕方が多様化し変わってしまった。

「邪神様はその名から、死者や亡霊を従える神として蔑まれ見捨てられました。女神様は薬の効能の発達や都市のインフラ整備により格段に健康寿命が伸びました。女神様は今でも小さな祠に祀られていますが信仰心はほぼないに等しくという有り様です」

「では、クナトの国教は戦神様だけということですね」


老人はうつむいて

「嘆かわしい。みっつの柱が揃ってこの土地に繁栄を約束したことを忘れおって。戦神様を担いで他国に侵略するつもりか?わしは改宗なぞせん。三柱様たちはとても仲の良い兄弟だったというのに」


「三柱様はそれぞれ別の地に祀られているのですか?」

「そうじゃ。結界の役目を果たすため一つどころではなく三拠点でおわせになられる」


「ぜひ、三柱様を回ってみたいですね。場所は遠いのですか?」

「!。いやいや若者の足なら三日とかからんじゃろて。それでこそが聖地巡礼というものじゃ」


「気になったのは邪神様ですね。今でも祠の跡はありますか?」

「邪神様は。ちと難しいかの。跡地は無くなっとるが

明日足を運ぶなら目印を教えよう」


「女神様は新しく小さな祠を作って、そこに新たに女神像を奉っておる。行くのはいいが本来女神様は別の地に祀られておったのじゃ。そこに行くとええ。まだ祠は残っとる」

「なにからなにまでありがとうございます」


「さあ、客人。飯にしよう。部屋は二階の好きな部屋を使いなさい。荷物を置いて来たらまた降りて来なさい」

食事は魚の干物だった。営業の予定は無かったのだ。期待してはいけない。噛むほどに味が増して美味だった。

ヨシローは知らなかった。今まで海産物を食べたことがなかった。もちろん海を知らない。


「この魚。見たことないですね。どこで釣れるのですか?」

「アジと、ちっちゃいのはイワシかな。まあ、海のある他所の国との交易品じゃ」


 海。想像してもはるかに上をいく現実に広がる世界。旅をして知らない土地に思いを馳せるのは楽しいものだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ