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不器用な別れ

 眩しい陽射しの中に二人はいた。

「あれ、ウンディーネ様」

リタが陽射しを手で覆いながら元の世界に戻ってきたのを感じとった。


「また会えるさ」

ヨシローは思い当たるように呟いた。


 ヨシローは太陽の位置を示しながら、それほど時間が経ってないことをリタに告げた。

「不思議な気分です。丸一日はいた感じがします」


「でも、事実なんだよ」

リタは自身の傷や腫れた目が治癒されていることに頷いた。


 その夜

「にいちゃん。酒飲めたのかよ」

「故郷の水は飲めなくて。だから小さい頃から子供は皆薄いお酒を水代わりに飲んでたよ」

酒場の主人は、ふーん。土地柄ってやつかね。みたいなことを言って

「豆の煎ったやつだ」

そう言ってヨシローに出した。


ヨシローが目を丸くして見上げると

「あんがとよ。まあ、感謝してんだよ。リタもみなしごでよ、ほんとなら里のみんなでちゃんと食わせてやらなきゃいけねえのによ、生まれつきよえーからみんな突き放しちまったんだ。弱肉強食ってあんだろ。そういうことだ。なんにもできねえやつは置いてかれる。ここじゃ何かしら生活の糧を持たねえと暮らしていけねえ。これでリタのやつもこの里で仲間外れにされなくてすむ。にいちゃんのおかげだよ」


「しばらくリタをここに住まわせてやってもらえるかな」

「まあ、狩りの成果が続けばな。行くのかい?」


ヨシローは頷いた。

「クナトだっけ?三柱信仰だろ?俺はあんま好きじゃねえがな」

酒場の主人は店の看板を下ろした。閉店には早過ぎる。


「今日はにいちゃんにこの時間をくれてやる。静かに飲みたいだろ。あ、俺がうるさいか?」

「詳しいんですか?」

「酒場だぜ。隣の噂くらい入ってくる。ガセかはどうか知らん。まあ、昔からある兄弟の神様なんだがよ。今の教会の偉いさんが三人のうち一人だけが唯一の信仰だって、あとの二人を信仰の対象から切り捨てたのさ。兄弟の神なのにな。俺には理解できねえ」


「人間のエゴですかね」

「さあな。どんな神かは知らん。信仰に値しねえ本当に悪い神なのかもしらん。人間が通貨ってのを流通させたんだ。多少の格差社会が生まれる一因になったさ。俺は金がらみとみるね」

「神様で商売。ですか?」

「すっげえ教会建てるんだとよ」


「で、にいちゃん。どうやってリタに別れを告げるんだい?めっちゃ懐いてんぞ」

ヨシローがお酒を飲む理由はそこだった。


村を出るときも、サンテールを出るときもここまでやり切った感があったからという思いはあった。だがリタとはちゃんとした区切りはない。だから答えを見つけられないでいる。


 別れる言葉もきっかけも見つからないまま時間だけが過ぎた。

「ご主人様!」

リタがウリボーを追いかけて剣を振った。ヨシローはタヌキと野うさぎと並んで観戦していた。


ウリボーが逃げ切り茂みに身を潜めると母親のイノシシが突進してきた。

なんだかんだとあったがようやく母イノシシを撃退した。

「ご主人様」

リタがついにやり遂げたという顔で泣き出した。


「一勝三十八敗」

褒め言葉にはならなかったが、リタの頭を撫でて一緒に喜んだ。

「でも、あんまり仲良くなり過ぎると狩るものがなくなってしまうよ」

ダメ出しのつもりで言ったが、タヌキも野うさぎも短い前脚で万歳三唱していた。


「リタ。僕は旅を続けるよ。里の人たちもリタのことは仲間だと思ってくれてるから、もう大丈夫」

「ご主人?」

「リタ」

「ご主人様」


 翌朝、ヨシローは旅立った。


 リタは部屋で一人泣いていた。

酒場の主人は腕を組みながらやれやれといった感じで

「いつまで泣いてんだ。店手伝うか狩りに行ってこい。当然わかってたことだろうが」


リタは嗚咽を吐きながら剣と罠の仕掛けが入った道具箱を持って部屋を出て行った。

夕方には戻ってきたが収穫はゼロだった。


「リタ。こっち座んな」

パンとミルクを出して酒場の主人が手招きした。

リタはおずおずとテーブルにつきしょんぼりとパンを齧った。

「いいか。旅のにいちゃんはもっと危険なことをしてきたんだ。お前がおんなじことできるかっていや無理なことだろう。だからにいちゃんは置いて行ったんだ。泣くな。リタはできることして里で生きろ」


「ご主人様を追いかけたい」

鼻をすすりながら思いを告げた。

「バカタレ。お前の足じゃ追いつけねえよ。クナっ、いや、お前が辿り着いたと思ったらにいちゃんは次の旅に出ちまってるだろうよ。永遠に追いつきっこねえよ。自覚はあんじゃねえのかよ」


リタはコクンと頷いた。

「この話しは今日でお終いだ。酷なことだがお前は足手まといだ。今日の狩りの成果を見ろ。それじゃ生きてけねえ」


リタは何も言い返せず、目をぐしぐし拭きながら部屋に戻った。


酒場の主人は黙って食事の片付けをしながら言葉の重みに疲れてしまった。


 ヨシローは遠目で湖の側にある教会を確認した。あれがクナトだ。


ずいぶん立派な城壁に関所があり、外からやって来たものは全て列に並んで検問を受けた。

「観光ですか?入信ですか?」

同じような旅の連中も資材を運ぶ業者も同じ質問を受けていた。

ヨシローもサンテールで作った身分証を提示して質問を受けた。もちろん観光で関所は通過した。








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