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新しい剣

「あの、ご主人様」

リタはおどおどしながら手を震わせていた。

「ご主人様じゃないよ」

ヨシローはリタに背を向け水面を覗き込んで言った。


ヨシローの毛先にハサミを入れるが怖くなって手を引っ込めた。ヨシローは笑って

「大丈夫。失敗したって髪は伸びてくるから」


「うん。すっきりした。ありがとう」

ガタガタな仕上がりになったが、流血は免れた。

リタは力が抜けひざまづいた。


「リタも切ってあげようか?」

リタを川辺に座らせて、長く跳ね上がった髪を切ってあげた。肩下くらいまで残して軽い感じになるように梳いて毛先を揃えた。後ろ髪で隠れていたがちゃんと尻尾がくりんと立ち上がって可愛らしかった。


「どうかな?」

「なんか恥ずかしいです。でも軽い。です」

前髪をつまんで顔を隠そうとする仕草が微笑ましく思えた。それにしても梳いただけでずいぶん多量の毛玉ができたもんだ。


 里に帰ると鍛冶屋に寄った。

「にいちゃん。できたよ」

注文した剣ができあがった。袋にはしっかり詰まったサンテール通貨を渡して剣を受け取った。


「握ってみて」

リタに剣を渡すと

「思ったより軽い」


「ピローソードだな」

鍛冶屋が答えた。

「?」

二人で鍛冶屋の説明に耳を傾けた。

「にいちゃんの注文通り軽量したスモールソードだよ。間違ったもんは作っちゃいねえ」

鍛冶屋は通貨を後ろに隠して答えた。


「リタ。握ってみて。調整してもらうから」

「…いただけません。こんな高いの、」


「いいんだよ。この先サンテール通貨が使えるかわからないから、持って歩くと無用なだけなんだ」


 スモールソード。レイピアのように刺突型でこれよりも短く軽い。小柄なリタにはちょうどいいサイズだろう。

鍛冶屋に見てもらってグリップの調整をしてもらった。リタは剣を抱えて店を出た。


「にいちゃん。他のヤツも言ってたから言うけどよ。偽善だぜそれ」

「そうですね。あの子がこの里で暮らしていけるための力をなにか身につければいいかなと。思いあがりですね」

「ふん、まあ狩りができるってのはありがたいやな」

「覚えはいいと思います。獣人らしい身体能力の高さは人間を超えてますし、正確に急所が刺せるから毛皮も期待できると思いますよ」

「ちっ。商売上手なんはにいちゃんの方だな」


 店から出るとリタが心配そうに見つめてきた。

「明日、肩慣らしをしよう」

申し訳なさそうにリタはついてきた。


 翌日、狩り場にしている場所で剣を構えさせた。

何度も素振りをさせ、足の位置や色々な角度からの剣筋を矯正しながら

「このタイプはね、突きに威力を特化した剣だから獲物に突進するリタに合うと思うんだけど」


リタの踏み込みのよさと初速の速さには感心するものがあった。リタさえ戸惑わなければ一気に距離を詰め一撃を見舞うスタイルができるだろう。


「ご主人!さ、ま」

タヌキに弾き飛ばされたリタが助けを請う。


「どうかな、扱えそう?」

「ご主人様。そう見えますか?」

リタを前脚でポカポカしている野うさぎとそばで太々しく寝そべっているタヌキは完全にリタを小バカにしていた。


「僕も最初から生き物を仕留めるなんてできなかったし、命を獲ることに気が咎めたよ。でも僕はちゃんとその命をいただいていたし、素材として生活の中に使われているのを知っている。だけど、めぐり合わせで今僕は剣を握っているんだ」


リタには難しいかもしれない。

「僕は魔族や魔獣とも戦ったし、人を殺めてる。リタは自然から生きるために少しだけ生命を糧として頂かせてもらえばいい」


「よくわかりませんが、生きるためにご主人様は剣を与えてくれたのですよね」

「リタは賢いな」

リタの前で目線を合わせて微笑んだ。


 森の気配が変わった。小動物も逃げ出し二人だけになった。リタも異変に気付いた。

「ご主人様。不思議な感覚がします」

「リタも気付いた?」


周囲を警戒するようにリタが震え出した。

ヨシローは知っていた。この感覚を。

「多分、大丈夫なやつだ」


風景が歪むとそこは夜だった。

「空間の歪みだ」


「ご主人様。夜です。まだ日が暮れる時間じゃないです。それに、場所が変わってます」

雰囲気は空間の歪みと同じだが、こんな場所は知らない。違う空間の歪みだろうか。


「大丈夫。ここは精霊たちが住む、ちょっと違った世界だから。ちょっと待ってて」

ヨシローは行雲流水を展開した。一瞬リタはビクッとした。


「ちょっとまずいかもしれない」

リタはその言葉に怯えた。


「リタ。その剣は守るための剣でもあるんだよ。何かあったらリタは勇気を持って剣を抜かなければならない。覚えておいて」

リタはコクンと頷いて剣を抱きしめた。


「ちょっと近くまで歩こう」

ヨシローはリタの手を引いて泉のほとりを歩き始めた。すると茂みに潜んでいた火垂がいっせいにゆらゆらと飛び交った。


「きれい」

飛び交う火垂も水面に映る光も幻想的で美しかった。今気づいたが満天の星空がリタの心を掴んでしまった。


「ここで待ってて」

ヨシローは剣を抜くと泉に向かって立ち尽くした。


リタは黙ってヨシローの背中を見つめた。

しばらくして、泉の中から大きな蛇が姿を現した。

「敵意はない。剣を納めてくれ」

白く立派な鱗を持つ大蛇が喋った。













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