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アルヘイム

「クレイ!」

森中にヨシローの声が響き渡る。

崖を降りてくるのに時間がかかった。急いでクレイを見つけないと。心配をよそに、やぶの中からクレイの弓が大きく揺れていた。


「あいつは?」

手を貸して起こすとクレイは激痛にむせた。

「大丈夫。息の根は止めた」

「やるな」


クレイの背をさすり呼吸を整えてあげた。

「クレイ。弓」

折れた弓を見つめて

「また作ればいいさ」


 クレイは落ちる瞬間、風魔法「フルリール」という物理攻撃を緩和する力を身に纏い、落下の衝撃をやわらげたそうだ。


 アルヘイムに戻る頃に他のエルフたちは騒がしかったが鎮火には迅速的に対処したらしく、被害はほぼ無かった。


「ヨシロー。あいつの身体の一部をよこせ。長に

報告に行く」

ヨシローは最初に切断したタイニィフレイムの腕を渡した。


長、フレイヤ様。魔族が求婚するほどの方。エルフは見る者全てが美しい容姿だ。いったいどれほどの絶世を誇るのだろうか。


「ヨシロー?」

クレイが顔を覗き込んでいた。

「早いね」

「何言ってんだ」

あたりは暗くなりかけていた。どれだけ妄想していたのだろう。


「なんだ。長に会いたかったか?」

見透かされて赤面した。


「平和なもんだろ」

暮れゆく中、エルフたちは自然の中で生活をしていた。

「エルフは女しかいないからな」

そういえば、男がいない。


 稀に男のエルフが生まれるらしいが、恋愛感情も生殖行為も希薄なため、子を成すことに一切の未練がないそうだ。だが、稀に里を抜けしばらくして子供を連れて戻ってくることがあるらしい。が、千年、二千年と生きるエルフたちの歴史の中で一度あるかないかだそうだ。そして決まって女児を連れてくる。


「魔族が勝利の剣と言ってましたが」

「大きな声で言えないが。エルフの宝だよ。男児がうまれたときエルフの王となるために授けられる宝剣だよ。その剣で悪しき巨人族を倒しエルフを導いたとされる言い伝えさ」


 クレイの住まいに辿り着くと、二人とも力が抜けその場に座り込んだ。


「ヨシロー。あらためて礼を言う」

二人は笑顔を交わした。

「長は忌み子の俺を追い出したりはしなかった。ただ他のエルフたちも俺も距離の取り方がわからなかったんだ。何百年と生きてきて迫害なんて一度もなかったのにな」


「僕には肌や髪色だけで仲間じゃないと思う感覚はないですね」

「ありがとう。俺みたいな色違いは異質なんだよ。だが長だけが俺を美しいエルフだと言ってくれたんだ。だから俺はエルフの里にいるし、長のために戦うことを決めたんだ」


「身体は痛むか?」

「はい。今晩も泊めてもらえると助かります」


 寝床を譲ってくれた。

「クレイだってどこか折れたんじゃ」

「腕にヒビいったくらいだ。お互い満身創痍だ。仲良くしてやろう」


ヨシローに跨ると上を脱ぎはじめた。

「クレイ?」

「お前は英雄だよ。俺一人じゃアレは無理だった」


「クレイ?」

「邪険にするなよ。長寿のエルフがこんな気持ちになるのは一生に一度あるかないかなんだ」


「クレイ?」

「灯りは消してやろう」


あー。


翌朝、ヨシローは旅立つ支度をしていた。赤面したまま振り返るとクレイは笑いを堪えていた。


「珍しいね。ゆっくりしてるなんて」

「くっくっ。腰が抜けてるからな」

クレイはシーツに包まったまま半身を起こした。


「ここで見送るよ」

「クレイ。ありがとう」


 神脈を辿って流れるエルフの里。いつかこの地を離れて別の神脈の地で集落を築くのだろう。その土地の豊穣を祈りその土地の自然の恵みの恩恵に預かり静かに暮らす。そこで一人の戦士と出会った。

ヨシローは振り向いてアルヘイムがある方を見た。


 ずいぶん歩いたが灯りが見えた。獣人の里だろうか。野営にも慣れたもんだ。安全な旅ができた。着いたら足を伸ばして休める宿をとろう。


「こんばんは」

里の入口で座り込んでいる子供に声をかけた。

ビクッとして子供は走って逃げた。

(泣いてたな)

ヨシローはすんなり里に入っていいものか躊躇した。


 獣人の里。言葉が通じるだろうか。仕方ない。とりあえず里の中を歩かせてもらおう。出会った人に話しかければいい。決心した。


一番明るい光が漏れている建物に向かった。きっと酒場みたいなところだろう。

意を決して扉をくぐることにした。一息ついて扉に向かった。


扉から先程の子供が飛んできた。飛んできたというより乱暴に投げ飛ばされてヨシローの足元に転がってきた。


建物から出てきたのは獣人の大男だった。ベースは服を着た人間と変わらない。耳が動物のものと尻尾があった。

ここは酒場だろう。エールを片手に大男は怒鳴った。

「馬鹿野郎が、外を見張ってろと言っただろうが!」


子供は土にまみれて泣き叫んだ。

大男の後ろから別の獣人がなだめるように

「おいおい、子供に当番させちゃ里長にどやされるで」

「あんくらいの歳になったら里の仕事の一つや二つ手伝わさねえでどうする」

獣人たちがジロリとヨシローを見た。


「言わんこっちゃねえ」

頭を掻いて大男はエールを長い警杖に持ち換え

「余所者。だよな。何の用だ」


「クナト。に向かう途中で立ち寄った。一晩泊まりたい」

ヨシローは子供を起こし土を払ってあげた。


「酒場の二階が宿もやってる。そこに泊まりな」

大男はそう言って外に出て行った。

ヨシローは大男を目で追いかけたが

「大丈夫?ウチに帰れる?」


子供は嗚咽が止まらない。

「旅のひと。その子、家無しなんだよ」

大男を止めに入った獣人は言うなり酒場に戻った。




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