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クレイ 2

「客人をもてなす広さはないが、適当にくつろいでくれ」

木で枠を作って大きめの葉っぱを隙間なく重ねて屋根と壁に仕立て上げていた。床も雑に木を組んで藁を敷き詰めた、本当に寝るだけの狭い空間だった。


「エルフは自然に同調した生活をするのですね」

「ははっ。原始的だろ。エルフは基本流れものなんだ。移動しては定住を繰り返すから、定住すればそこをアルヘイムと名づける。性格によるが簡素な住まいに造りが偏ってしまうのさ」


アルヘイムの情報がなかったのはそのせいだろうか。

「エルフはな。神脈の豊かな地を求めて絶えず移動している。少し神脈の恩恵をいただいたら別の神脈に移動するんだよ。人間にも山窩とか遊牧民とかあるって知ってるぞ。似たようなもんか?」


「神脈ですか?」

「人間も霊脈とか竜脈とか言ってるのを聞いたことがあるぞ。そんな感じだ」


 陽が沈んできた。問題が発生した。

「まずいですよね」

ヨシローはたじろぎながら言った。

「何モジモジしている?」

寝床が一つ。床に自分が寝るにしても、これは。近い。天井が低く感じるせいか意識せざるを得ない。


「俺たちは寿命が千年、二千年と長い。恋愛感情や生殖行為が人間と比べかなり欠如している。俺は気にしないが」

「僕は気にします」


クレイは笑った。

「確かにそうか。実を言うと男の隣で寝るのは初めてだ。俺の一生で限りなくゼロに近い機会だな」

ヨシローは赤面してシーツを被った。


 朝目覚めると、なんか悶々とした。隣の寝床にはまだクレイが寝ていた。寝顔さえも美しく、エルフに恐怖した。


「ついて来い」

「目隠しはいいんですか?」

クレイは笑った。

「大事な客人になったんだ。いいだろう」


アルヘイムの集落の中心に近づいた。やはり違和感があった。他のエルフたちは住居が固まってあった。共同生活をしている。そんな感じがした。

なにより驚いたのが、他のエルフたちは全員金髪の白い肌だった。もちろん美しい顔立ちと体型、とんがった耳をしていた。


「ははっ、あれがエルフだ。俺が一人離れて暮らしている理由だ」

美しく煌めく金の長い髪が風に揺れるだけで目が離せなくなるほど見惚れてしまう。

短く切った銀髪を掻きながら

「人間の美の価値基準はわからん。そこで鼻の下を伸ばしてくれていいから動くなよ。長に狩りの許可を取ってくる」


金髪のエルフたちがヨシローに気づくも皆興味を示さなかった。


「許可が出た。ヨシロー、期待してるぞ」

ヨシローは鼻の下を隠してクレイについて行った。


「俺の母は金髪で白い肌だった。今も生きているが、俺を産んだあと会ってないな。俺は忌み子として扱われた。独りでは生きていけなかったから戦士として生計を立てている。長のことは命に替えても守り抜くし、アルヘイムの皆んなも好きだ。自分を恨んだことは一度もない。ただそれは俺の一方的な思いだ。皆んなが俺をどう思っているかは知らん。お前は察しただろうが、本音は誰の口からも語られていない」


クレイは飯を食いながら語った。

「ヨシローの干し肉は美味いな。作り方を教えてくれ」

ヨシローは干し肉をもう一つ差し出した。


「俺の名前。どういう意味か知ってるか?泥だとよ」


その日、鹿を一頭とキジを三羽仕留めた。

「人間の魔法も便利だな」

日が暮れる前に今日の狩りは終了した。


 翌日も狩りは続いた。

イノシシを追い立て、仕留める。はずが、逃げられた。

「今日は猪鍋が食いたいなぁ」

クレイが遠くで茶化してくる。ヨシローは弓を確認する。矢を確認する。だが言い訳になりそうな材料は見つからなかった。


「意外と難しいですね」

クレイに弓矢を返した。

「おいおい、矢が余ってるじゃないか。使い切っていいんだぜ。諦めるなよ」


クレイは預かった弓をいきなりつがえた。放った矢は一本の木に命中した。すかさず、しゃがんで第二の矢を放った。一本目と同じ場所に命中した。

「な。百本矢があったら一本も外さないぜ」

ヨシローは拍手した。弓は不向きだと自認した。


「神脈の恩恵を少しもらうんでしたね。どんな影響があるんですか?」

「神脈に祈りを捧げるんだよ。長の仕事なんだけどね。土地の豊穣を祈って、大地に恵みをもたらす。そして感謝する。すると何十年か何百年後かに土地が自然の力に満ちたりている。」


「神脈を流れる力を少しもらうんだ。全部は取らない。神脈は誰のものでもないからな。だから俺たちは移動する。神脈の枯れた土地には行かない。だから行かなくなった土地もあるし、新しい神脈が流れている土地に初めて辿り着くこともある。自然と共生するのがエルフだからな」


「素敵な話しですね」

「もしヨシローが旅先で他のエルフに会うことがあれば、その土地は活きてると思ってくれたらいい」


 イノシシは結局、クレイが仕留めた。眉間を一撃で射抜き倒した。

「血抜きは上手いじゃないか。陽が暮れる前に帰れそうだ」

「昔、見習いをしてた頃があって、解体とかなめしはしなかったけど給金がよかったんですよ」


「へぇ。やるじゃないか」

アルヘイムに戻ると解体を生業にしているエルフにイノシシを預けた。


「いつもは、一人で一頭は運べないから部位を切り取って渡してだけど、今日は丸ごと一頭だ。分け前は当然多くなるぜ。ヨシローの分もあるから大きめの鍋がいるな」

クレイは鍋を借りるついでに長に狩りの報告をしに行った。ヨシローは指示通り分け前の肉を貰うため、この場所に残った。





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