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クレイ 1

「にいちゃん。歩くのかい?」

「はい。獣人の里も寄れたらいいと思いまして」

「冗談のつもりだったんだけどなあ」


御者はバツの悪そうな顔をして、不思議そうな顔をするヨシローに

「いや、迷ったらなんか罪悪感感じちゃうからよ」

「大丈夫です。恨んだりしません」


「そうかい。森の中は中で魔獣とか神隠しとかもあるからよ。気をつけな」

「神隠し?」

御者はこれも冗談だと言わんばかりに手を振って誤魔化した。


 しばらくは、何事もなく順調だった。しかし、ヨシローのこめかみには一本の矢が突きつけられている。

両手を挙げ降参のサインを送った。


「なんだ、子供じゃないか」

行雲流水の領域外から威嚇の矢が飛んできた隙をついて今、この至近距離で動きを封じられた。声の主は女性だった。


「一人ですか?」

「何を言ってる。見えるだろ」

彼女は独りだ。殺意や気配の類はなかった。弓を使うものが距離を詰めて制圧にかかってくるなんて、相当の手練れなんだろう。


「見たまんまのことを言う。返事しろ。お前は迷子で人間の男だな」

「真っ直ぐ獣人の里に向かってます。その先のクナトが目的地です。あとは合ってます」


「獣人?だいぶ遠いな。迷子じゃないか」

彼女は弓を降ろした。

「こっちを見るな。目隠しをしろ」

言う通りにカバンから布を出して目隠しをした。彼女は後頭部の結び目をしっかり結んでいるか確認した。


「両手を前にだせ。キツく縛るが我慢しろ」

言われるがままに手の自由も奪われて、どこかへ連行されるようだ。


これが神隠しか。フィムの災禍の一端か。ケルンの呪いの影響か。フラグが立ちすぎてわからない。


目隠しされている間、行雲流水を試してみたが上手く感知がいかない。酔っ払ってぐるぐる回る気分がして平衡感覚を保つのにこらえていた。


「そこで大人しくしてろ。長に報告に行ってくる」

彼女の気配が消えた。

後手で縛られているので目隠しも外せずどこか柱に縛られているので身動きのとりようがなかった。


「ゆっくり目を開けろ。騒ぐなよ」

彼女の声がした。視界に光が差し込み周りの景色を確認できた。

「悪かったな。手も解くが暴れないでくれよ」

そう言って後ろに回って縄を解いてくれた。


ヨシローは手首を交互にさすりながら

「ここは?」

「アルヘイム。覚えなくていい」

目の前に褐色の肌に銀髪の女性が立っていた。


「長に報告に行ったが、捨ててこいって言われてね。だから忘れてくれ」

ヨシローは状況が読めずにいた。

「ん、俺の肌が珍しいか?」


 いや、そんなことはない。褐色といえばバシ・リサを思い出した。男勝りな性格もタイプが近い。

「ああ、エルフを見るのは初めてか」

とんがった耳が銀の髪からはみ出ていた。美しい顔立ちと引き締まった体型。布地の服を着こなしていた。エルフを判断するのは特徴的な耳と人間離れした美しさぐらいだ。


「何を黙ってる。ここから一人で出られるか?」

アルヘイムのことは情報になかった。だとすると、だいぶ道が逸れたのかもしれない。

「すいません。魔法使ってみていいですか?」

「お、剣士じゃなく魔法使いだったか」


行雲流水を目一杯広げてみた。多分、エルフの集落なんだろうが違和感があった。

「おお、すごいな。なんだ今。なんて表現したらいいんだ」


行雲流水の範囲感知能力を雑に説明した。

「それはすごいな。後ろに目があるってことだろ。範囲内だったら遮蔽物があっても手にとるように獲物がわかる。羨ましいな」


「で、ここから出るにはどうしたらいいかわからないのですが?」

「ま、今日は泊まっていけ」

魔法で急に態度が変わった。

「あの、」


「ああ、ちょっとその能力で助けて欲しいんだよ」

「というと」

「ここのエルフたちはみんな役割を持っていてね。俺は戦士だから獲物を狩って納めなくてはならない。で、最近獲物が少なくてね。その探知能力の力を借りたいのさ」


ということは、しばらくアルヘイムに滞在しなくてはならないのか。

「俺はクレイ。頼むよ」

「ヨシローです」


「えっと、行雲流水は逆探知はできないと思ってたのですが、さっきの様子からみてわかってましたよね」

「ヨシローが魔法を使うって言っただろ。多分、そうだな、同じ風の系統だからじゃないか。俺も風の魔力を使うんだ。行雲なんたらも風系だろ」

ヨシローは頷いた。


「ではアルヘイムの皆さんにも今のはバレていますよね」

「いや、風のイタズラしか思ってないだろうよ」


「あと、アルヘイムには三十人くらいの仲間と一緒に住んでいるのですよね」

「ホントすごいな。そこまでわかるのか」


「失礼なことかも知れませんが、集落からずいぶん離れて暮らしてませんか?」

「俺は戦士だからな。一族の盾にも剣にもなるのは当然だ。明日教えてやるよ」


「我が家に案内する。登ってこい」

クレイは上を指差し、ツリーハウスを見せた。

「どうやって登るんですか」

ひょいひょいと上に登り切ったクレイがヨシローを見下ろした。一度頭を引っ込めるとハシゴを降ろしてくれた。

「人間は猿の近縁種じゃないのか?」




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