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胸糞

 剣戟を重ねて汚れた外套の男を屠った。ヨシローは血糊を振り捨て次に備えた。

このまま逃げてくれるとありがたいとは思っていたが、黒い外套の追い剥ぎは怯むことなく接近を試みてきた。


 追い剥ぎはフードを被ったままマスクをずらし鋭い眼光で睨んできた。ボロボロの肌に乾いて切れた唇、酒に灼かれたような女の声で喋った。


「才能ってヤツね。見よう見まねで魔法が使えたの。人生変わったわ。周りも期待してくれる。最高だったの」

追い剥ぎはナイフを捨てて右腕を前に伸ばした。

魔法でくるのか。しかし、攻撃してくる様子はない。まだ喋るつもりだ。


「でも、堕ちるとこまで堕ちたわ。盗みもやったわ。人も騙したし、殺しもしたわ。身体も売ったし仲間も裏切ったわ。不思議と罪悪感がないのよ。なんか手慣れた感じでしちゃうのよね」

「何言ってるんだ」

異常な雰囲気を醸し出す追い剥ぎに違和感を感じた。


「今は追い剥ぎだなんて言われているけど、逃げてるわけじゃないの。むしろ追いかけてるの」

薄気味悪く笑う追い剥ぎに

「やってること言ってることがめちゃくちゃだよ」


「あの頃はちょっとからかってやっただけよ。それをやり過ぎだの、自重しろだの。そうして、みんながお前に同情する。ホントムカつくよなあ。ヨシロー」

「…リオットか?」


「そうだよ。気づかなかったか?眼中にないですか?スレナと修道院の地味女に優しくされて鼻の下伸ばしてた頃を思い出したか。私を担いでたモブどももなんらかの罪に問われるべきだがなあ」

「ちょっと待っ、どうしてここに?」

完全に別人だ。声も雰囲気も、外套でシルエットがわからないのもあるが気づかなかった。


「偶然だよ。運命じゃないか?」

リオットはゲラゲラ笑い出し、左腕を見せた。ない。確かに切断したその左腕に見覚えがある。


「まだ、喋らせろ。感動の再会じゃないか。馬車に乗ってるお前を見てすっげえ濡れたぜ」

リオットは垂涎しながら話しを続けた。

「お前が倒した、私の腰巾着がいたろ?二人。お前のために殺したよ。そんで私は一生懸命役所に直談判しに行ったよ。必死に嘘ついたよ。お前がヤったってな。笑えるよな。冤罪なのに逃げるなっつーの」


「異常だよ。なんで執着する?」

「してねーよ。お前が私の視界に入ってきたんだろーが。私はいじめてねーよ。じゃれてただけだよ。お前もそう思うだろ?けど、今からはいじめてやる」


 リオットはゆっくり近づいて来た。目の前にいる異常さに躊躇して反応が遅れた。

リオットは左腕を躊躇わず叩きつけてきた。

ヨシローは後退して躱わすが、隠していたナイフで斬りつけにかかってきた。

ナイフの攻撃も剣で捌き凌いだ。リオットは火魔法を使う。痛い目にあったことがあるので、警戒は無意識にしてしまう。


「なんだよ。私は罪人だよ。いいんだよ、斬ってくれて。積年の恨みがあるんだろ」

リオットは左腕で何度も叩きにきた。失った左手を攻撃するのは気が引ける。こんな戦い辛い相手に出会うのは苦労する。そしてできれば会いたくなかった。


「恨んでなんかない」

「聖人気取りか」

「こんな堕ちたリオットは見たくなかった」

「褒め言葉かよ。一緒に死のうぜ」


リオットの左腕をはじいた。鉄の感触がある。

「仕込み?」

「当然」

リオットは左腕の包帯を解いてタネをあかした。板金を何重にも巻いてリベットで固定した左腕があらわになった。


「使うたびにいてぇなって思うよ。私イかれちゃまったのかな」

「リオット。魔法はどうした?」

リオットらしくない戦い方だ。神経が削られそうだ。


「お前こそ魔法はどうした?どこで覚えた?驚いたぜ。ヤってくれよ。次は右腕か?目ん玉か?乳房か?好きなとこ削れよ」


会話が胸糞悪い。防戦一方だ。喋り方も嫌な目つきもその左腕も全てが受け付けられない。吐き気がしそうだ。


「リオット。間違ってるよ」

「間違ってるのは、お前だよ。遊びだっつーの。被害者ぶってんじゃねー。私を見ろ。被害者は私だよ」


会話が噛み合わない。腹が立つ。湧き上がる感情に違和感を覚えてしまう。


 リオットの左腕がヨシローの剣に串刺しになりに来た。自傷願望か。

「私を離すなよ」

リオットがしがみついてきた。思わず剣を手放す。離れてくれない。


「魔法だっけ?すでに発動してんだよ。左手を斬られたからな。放てなくなったんだよ。じゃあ私の炎はどこだと思う?」

ヨシローは戦慄した。

「わかったろ。一緒に熱くなろうぜ。受けとめてくれよ。もうこりゃ愛だな」


ヨシローは全力で身体を振ってリオットを振り払おうとした。リオットも手と足もしがみついて抵抗する。


「内臓が焼けてきたよ。息もできねー。愛が止まらねーよ」

リオットの目鼻口から耳から煙が立ってきた。しまいに目玉が発火して燃え出した。


「リオット。離れろ」

ヨシローがリオットの口を押さえ水の魔法をぶっ放した。鎮火が間に合わない。リオットの魔力はそう大したことないはず。だが燃焼が止まらない。


「ちく、、ショ、う」

リオットはヨシローにあまり火傷のダメージを与えられずに崩れ落ちた。


一気に力の抜けたリオットを引き剥がし難を逃れた。

ヨシローは燃え尽きもしないリオットを見て落胆した。こんな後味の悪い結末を想像できなかった。





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