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国母誕生

 トレントがもがき苦しみながら吐き出した核。まだヒトの形をしていたが、元は国王で間違いない。ヨシローは飛び込んで剣で貫いた。無防備な背後を容赦なくトレントの触手が襲う。


「ありったけだ」

ヨシローの水の魔法。水撃も水斬りも目一杯撃ち込んだ。相性の悪さは自認している。少しでも削れるならと容赦なしに核に撃ち込んだ。


「ヨシロー」

エリーナが王の間に辿り着いた時には、荒れ果てたジャングルの奥地に来たかのようだった。

テスカトルが脚で群生した触手の壁を薙ぎ倒し、玉座があった位置まで辿り着いた。


エリーナは走り出し、倒れたヨシローに刺さっている矢を何本も抜き取った。

「ダメだ。まだ死ぬな」

慌てて傷口を押さえながら包帯を取り出し止血に努めた。

「エリーナ様。ちょっと」

掠れた声でヨシローが反応する。


エリーナは震えながら元気づけようと

「喋るな。大丈夫だ」

「矢を抜いたら、血が」

ヨシローが失血死を覚悟して震えた。


「テスカトル様。お願いします」

テスカトルが二人を乗せ宮殿の外へ向かって跳んだ。


 待機していた衛生兵が手厚く担架に載せた。

「背中に刺された傷は応急処置しました。急所には届いてないです。左足を貫通した矢はこちらで処置します」

「では、あとは我々にお任せを」

衛生兵はヨシローを運んで行った。


エリーナも自力で治療に向かうことになった。

振り返り宮殿を見上げると、ほぼ崩壊してかつて栄華を誇っていた姿は見る影もなく瓦礫の山と化していた。被災は宮殿のみにとどまらずかなりの範囲で崩壊の傷が刻まれていた。


国内に残った兵力や各機関が麻痺して、てんやわんやしていた。

いずれフラン帝国軍が介入しさらに混乱を極めるだろう。


テスカトルはすでに姿を消していた。

沈静化した宮殿を背後にエリーナは泣きながら歩いた。身体中が痛い。心が締め付けられる思いがした。


「時間の流れとは恐ろしいものだな」

街中を歩くエリーナが言った。

復興までもうすぐだ。この逞しさはこれまでしっかりと国が積み立ててきた有事の際に対する蓄えがあってこそできるものだろう。

何ごともなかったように子供たちは駆け回り、賑やかな喧騒が妙に嬉しい。


「エリーナ様。ゆっくり歩いていただけませんか」

杖をついて追ってくるヨシローが必死だ。

「わたしだってこの通りだ」

固定した左腕を見せて笑ってみせた。


 サンテールブルクで起きた騒動はフラン帝国が鎮圧したことになっているが、サンテール王国が征服されたわけではない。しかし、王国内貴族たちの動きも見られない。バシ・リサが裏で上手く手綱を握ったのだろう。アレクセーヴ公ですら動かなかった。


 二人ともまだ包帯もとれず、動くことに痛みを感じるのに外にどうしても出たかった。この国の風景が二人を癒す薬だからだ。


「いい天気だ」

ヨシローが追いつくのを待って

「腕組んで歩くか?」

「エリーナ様。歩調を合わせていただくだけで結構です」

「わたしの屋敷に来て、ずっと一緒に行動をともにしてきたのに、デートという感覚は持たないのか?」

「…身分が違います」

エリーナは笑った。


「こんなところ見られたら、怒られます」

「何を言ってるんだ。ちゃんと出掛けると伝えてある。意識したな」

テーブルに着いてエリーナが色々注文してくれた。

大通りに面したテラス席で、心地よい風と丁度いい陽射しの中でティータイムを楽しんだ。


ティースタンドにサンドイッチ、スコーン、菓子の段がそれぞれ華やかで貴婦人好みの仕上がりだ。

「これ、いいですね。野菜も肉もパンに挟んで食べやすいなんて。素手で食べていいのが作法って嬉しいですね」

「わたしの腕がこんなだからな」


 朝。といってもまだ使用人たちも寝静まっていて陽は昇らない時刻。

ヨシローは支度が整って使用人が住まう棟から出てきた。

「行くのか?」

「公爵様」

ヨシローは公爵を前に膝をついた。


「お前には何度も助けられた。感謝の言葉もない。これからこの国は大きく変わるだろう。娘の側で支えて欲しいとはわたしの欲だが。いや言うまい」

「エリーナ様も公爵様も屋敷の方々もわたしに優しくしてくれました。美味しい食事と温かい部屋も用意していただけました。充分な報酬です。わたしの方こそ勝手に出ていくなんて失礼なことをして申し訳なく思います」


「お前には騎士の叙任式も用意してたんだがな。娘の怒りはわたしが引き受けよう」

公爵とヨシローは微笑んだ。

「エリーナ様は必ず立派な国母となられます」


 ヨシローは屋敷を出て行った。その後ろ姿を屋敷の高い窓からセバスが見送った。

「お嬢様。行かれました」

エリーナは布団の中でうずくまりながら

「いい。一人にしてくれ」


セバスは部屋を出ると沈痛な面持ちで立ち尽くした。


「ううああぁぁあー」

激しく泣き叫ぶ声が屋敷に響いた。


サンテールブルク宮殿跡地。

「なんじゃ。目を腫らしおって」

バシ・リサの前にひざまづき即位式の礼が始まった。

レガリアを受け、帷の中で聖油を塗られ、叙位が行われた。つつがなく即位式は青空の下で進み、国民はエリーナの女王就任に歓喜した。


サンテール王国はフラン帝国の庇護の元、エリーナ王が統治をすることで一応の和平となった。










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