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国母とは

 サンテールブルク宮殿を離れるよう避難勧告が出された。遠い外側からでも宮殿のあちこちから生える触手のうねりが見て取れた。


宮殿の隅々まで行き渡った根っこが養分を吸収し始め、太く肥大化し始めた。

みっちりとした枝や根っこが外部から宮殿には入れないほど成長してしまった。


「これはなんだ」

「さあ。外来種。ですわね」

「そんなものをどうやって持ち込んだ」

「知らないわ。売ってたもの」


エリーナたちはバシ・リサの言葉を思い出した。

仕業か。いや、言い方を信じるならバシ・リサも危惧してたのだ。白だと信じたい。


 国王の無惨な姿が見る影もなく巨木へと変わった。樹皮が見ようによっては目、口、鼻をかたどっていた。幹は太く頑丈にしっかりした根が玉座を圧し潰すように根を張り幾重にも枝を茂らせた。


「あら、見てないで駆除してくださいな。一応、国母の玉座もございますのよ」

メッサリナが生き物のように波打つ枝に触れながら挑発を繰り返す。


「ヨシロー。わたしはメッサリナを止める。そっちは」

「…僕がついてます」

ヨシローの返事にエリーナは期待した。


 枝はメッサリナを丁寧に乗せて宮殿の外へ向かって砲弾が飛ぶがごとく勢いよく伸びた。

エリーナはその瞬間を狙って枝に剣を突き刺して捕まりあとを追った。


ヨシローは無事にエリーナが追跡してくれると思い、自分の役目を果たすべく巨木と化した国王を見た。

エリーナはこのバケモノと化した巨木が国王だったという事実がわかっている上で対峙できただろうか。

一瞬でも怯んだらやられるだろう。自分が相手するべきだ。そう決心がついた。醜いほどに見開いた目と樹液を垂れ流す湾曲した口を見て

「お目覚めですか」

ヨシローは剣を構えた。


「トレント、ハ、モリ、、マモルモ、ノ、コ、レハ、チガ、、ウ、、、サツイ、ガ、メバ、、エル、、、オレ、ジャナ、、イ」

「トレント?なんだ」

考える隙もなくヨシローめがけて、枝を矢のように尖らして四方から射てきた。

ヨシローはなんなく躱わすが王の間にこの張り巡らされた根っこや枝葉からの攻撃を全て掻い潜るのは至難の業だ。


ヨシローは剣を振るい触手のように伸びる攻撃も矢のように降り注ぐ枝葉の攻撃も打ち落とした。

トレントという魔物として認識した。木でありながら自在に動く枝葉や根っこ、そして知性がある。攻撃は打ち払うことで凌げているが硬い。あの本体の幹に刃が通るだろうか。


「エリーナ様。行儀が悪いですね。淑女としていかがなものかと」

「ずいぶんと遠くに運ばれたな。国母を偽る者が逃げる気か」

埃を払いながら視線はずっとメッサリナから離さなかった。


「婚約を破棄されて国母を諦めたあなたとは違います」

「では、メッサリナ嬢。お前の言う国母とはなんだ」

「その字の通り。次なる王を産んで母となる。子が王となるまで私が支えて導く。辞書にも書いてなかったか。堅物の優等生」

「やれやれ。その王太子をお前は刺したじゃないか。教えといてやる。国母とは国民のためにあるものだ。

国を私物化しては独裁者と変わらんな。そんな国が毎日のパンに困らず子供たちが安心して暮らせて治安が守られていると思うか」

「偏見ですわ。エリーナ様。私は貧しい町娘でしたが、毎日パンを食べてましたし賊に誘拐されたこともありませんわ。この国の王族こそが私利私欲に飢えた愚の骨頂どもじゃありませんか」


「貴女のように努力家のふりをしてるわけではありませんの。生まれた時から価値観が違いますの」

「会話では埒があかんな。それだけの才覚がありながら残念だ」

「では、どうするおつもりでしょうか」

「捕える。きちんと法のもとで裁きをくだす」

エリーナとメッサリナの交わらない想いが緊張感を増した。まだ、何か持ってるかもしれないという疑念がある限り迂闊に近づけない。


「裁く?国の司法が?見なさいよ。ここから見える煙が上がってるのを。国は崩壊寸前よ。貴女が邪魔する限りトレントを始末できないわ。貴女のわがままに付き合っていたら国がなくなってしまうわ」

「なくならないさ」

宮殿がある方角から確かに煙が上がっていた。実際崩壊と粉塵やら人の悲鳴で大変なことになっているのだろう。しかし、エリーナはメッサリナから目を離さない。


「メッサリナ嬢。トレントと今言ったな。あんな変異種は聞いたことがない。いじったな」

「さあ、どうかしら」

「ますます、法の裁きが必要だな」

エリーナが剣を構えた。


「私、貴女のようなゴリラ女ではありませんの」

メッサリナは腕を組んで身構えた。


 エリーナは咄嗟に剣で防御した。視界にギリギリ入った人影に危うく斬られるところだった。

その衝撃で体制が崩れ人影からもメッサリナからも距離が遠退いた。


「受け取れ。決闘だ」

手袋を投げつけたのはシュヴァだった。


「なんでここに」

「気にするな。用が終わったら戻る」

シュヴァはロングソードを手に立っていた。少しやつれた感じだが、確か西部駐屯地にいたはず。


「規律違反か」

エリーナは体制を立て直しシュヴァに視線を集中した。

「メッサリナが言ってたはずだが。国が潰れたんだろ。違反とかそれどころじゃないんじゃないか。戒厳令は出てるのか」

用意周到だな。エリーナは剣を構え直した。


「手袋拾ってくれないのかよ。まあ、やる気みたいだからいいが。舐めんなよ。装備はそれで一式か?」

「急ぎでな。全部は無理だった」

「魔法使いは後で血祭りだからな」






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