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戒厳令

「発言を認めてないぞ。王の御前である。わきまえなさい」

大臣が凄みを効かせる。


「メッサリナ。確かに失礼だ。出直そう」

ジョンが場の空気をようやく理解した。


「いいえ、殿下。ここまで来たのです。私への愛を貫いてくださいませ」

メッサリナは引き下がらない。

どうしたというのだ。ジョンはメッサリナが聞き分けのない者ではなかったはず、と思いつつメッサリナの目が鋭く何かを見据えているのを感じた。


 国王は動じない。全て大臣が王の意を汲み発言する。

「娘よ。何を欲する」

「殿下の愛でございます」

大臣が国王をチラと見る。国王は動じない。


「それだけではなかろう。これほどのことを犯したのだ」

「これほど?なんのことだ」

ジョンは心当たりがないことを主張した。鈍い男だ。

「私。国母となる身を約束されました。サンテールに新しい光をとどけてご覧に入れましょう」


「この国の法を学ばなかったのか」

「法は常により良いものにあらためられるものでございます。私は素晴らしいことだと思います」


「言ってる意味がわからんな」

隣でジョンがハラハラし始めた。


「ただの町娘だった私が、父の功績で爵位を一代に限り賜れました。私は父を超えた優秀な人間でございます。ですがこのままだと私はまたただの町娘の一人に戻ってしまいます。法や伝統は残酷です。周りの貴族の者たちはゴマを擦り続ければ地位を保証されますが、町娘の私ではゴマを擦っても何も起こりません。自分でいうのもなんですが、ル・ロゼでもかなりの成果を納めてまいりました。そしてこの美貌により殿下の心も射止めました」


「何を言ってるのかさっぱりだな、娘よ」

「言葉通りでございます。殿下と王位を継承して、国母となる。二人でこの国を導くのです」

「それがまかり通ると思っているのか」

「ご清聴ありがとうございます」


 周りを囲んでいた近衛兵たちが一斉に膝から崩れ落ちて意識を失った。

「!魔法か」

大臣が叫び警戒したが、苦しみ出してひざまづいた。

「薬学でございます」


ジョンは慌てふためき

「メッサリナ。さすがにこれはやり過ぎだ」

「殿下。私と殿下は耐性の付く処方を施してございます。安心してくださいませ」

ジョンは手に持っていたハンカチを見た。これで鼻を押さえていたから助かったのか。解毒薬を染み込ませていたのだな。


「宿主には誰が選ばれますでしょうね」

メッサリナが大きく高笑った。

「まだ何かしたのか」

ジョンが危険を感じた。


「エリーナ様。宮殿から煙が上がってます」

サンテールブルク宮殿の一角に尖塔がある。そこから黄色の煙が立ち上っていた。

「まずいな。戒厳令だ。軍が出てくるぞ」

「戒厳令?まずい、ですか」

「国家の指揮系統が麻痺したとき、軍が権限を得ることがある。国民への強制的な規制も敷かれる」


外を出歩く者たちが慌てて逃げ出すようにその場から走り去る。馬車馬が驚いて暴れ出す。露店商の者は品だけまとめて逃げ出した。


「軍が配置につけば宮殿には行けないぞ。足止めをくらうわけにはいかん。飛び越えてでも突っ走るぞ」


 サンテールブルク宮殿の王の間から天井を突き破り、荘厳な屋根を丸ごと持ち上げた。

「なんだ。あれは」

「植物。ですかね」

異様な光景だった。固唾を飲んでる暇もなかった。エリーナたちは走るしかなかった。


 サンテール国軍は現状、フラン帝国との国境での小競り合いで軍のほとんどがそこへ向かっていた。国内にいるのは治安維持隊ばかりで国内の要所を封鎖するのに時間がかかっていた。


戦力を集中できないでいる苦々しさを治安維持隊は噛み締めていた。できることをすべく国民の安全を第一に回った。

出歩いている野次馬と化した者を取り締まり、危険に晒されるであろう場所に住む者は強制退去を命じたり走り回っていた。

誰も宮殿の中のことがわからなかった。


 宮殿内を真っ直ぐ王の間へ急ぐエリーナたち。

「根っこが邪魔だな。成長しているのか」

壁も床も天井もウネウネと脈動する木の根や蔦でびっしりだ。足を取られて進みにくい。

この蔦が束になって宮殿を突き破ったのだ、厄介極まりない力を持っている。

まだ根も蔦も一本一本は細く柔らかいので一振りで切れるが、まだ成長してやがて巨木になると考えると危険を感じた。


「ああ。邪魔しに来たのね」

「メッサリナ。おいたが過ぎるぞ」

メッサリナとエリーナの視線が激突した。


「ヨシロー」

「ダメです。感知できませんでした」

ヨシローは首を振った。エリーナは意気消沈した。


「とりあえず伺うが、国王様はどうした」

「エリーナ様。失敗しましたの。宿主をあんな衰弱しきった老人を選んでしまったため、養分が足りませんの」

メッサリナが目で玉座へと誘った。


 国王の身体から植物が生えていた。しかも根元は成長中だった。

「本当は、一瞬でこの宮殿をぶち壊すほどに芽生える予定でしたのに」

「国を盗るつもりか」

「邪魔は消えていただいたうえで、ゆっくり私自らが国を再建させていただきますわ」


「何様のつもりだ」

「次にこの国に降臨する国母。ですわ」

メッサリナの挑発にエリーナが激怒の感情を覚えた。


 メッサリナが隣で唖然としていたジョンを刺した。

目一杯力を込めて殺しにかかった。

ジョンは何も言えずに倒れた。

「養分さえ行き渡れば、しっかり成長しますの。宮殿中の養分を取り込んだらお相手してあげてくださいませ。一旦私はここを離れますわ」

床に倒れたジョンから流れ出す血に反応して植物の根は飢えを潤すように群がった。




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