表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/43

二人の国母

 珍しく、セバスの機嫌がいい。

彼は執事長でありバトラーなのだ。久々にアレクセーヴ家所蔵のワインセラーで最高の一本を吟味していた。


「此度の件。国王様より直々に話は聞いておる。我が娘エリーナと、従者ヨシローよ。よくぞ危機を打開した。このことは明るみになることではないが、わたしは二人を誇りに思うぞ」


グラスに最高のワインが注がれた。

「ここは、ヨシローも無礼講だ。遠慮せずに飲むが良い」

ヨシローはお辞儀をしてありがたくいただいた。

「ヨシローを席に着かせてよろしいですか」

「もちろんだ。さあ、座りなさい。共に食事をしよう」

エリーナが目配せをした。


ヨシローは事前に食事作法が下手なので、ここからは遠慮することを打ち合わせしていたはずなのだが。してやられた目でエリーナに合図した。


周りを囲む給仕のメイドたちも知っていてそれを楽しみにしていた。


華やかに食事会が行われた。


「職業病でな。お前たちとこの話は絶対にすると決めたことがある」

公爵が賑やかに会話と食事をしていたところで切り出した。

「フラン帝国ですね」

エリーナが察した。

「もちろん、戦争には備えるつもりだ。しかし、共に助け合い栄えて行こうという選択肢もあっていいはずなのだが」


アレクセーヴ家はサンテール王国の食糧事情を全て掌握している。そして諸外国との貿易や経済協力にまで幅広く活躍する、実際王族に次ぐ第二の勢力である。


フラン帝国との交渉が歯がゆい状況であるため無視できない立場なのだ。


「まあ、お前たちに話すことではないんだが。これは大人の仕事だからな。しかし、実際に女帝と相対してどう感じた?」

「ヨシローとも話したのですが」

エリーナが口を出すと、ヨシローはわたしのような身分が申し訳ないという態度で萎縮した。

「構わぬ。ヨシローも当事者だ」

「国王様の容態と次期国王の器を天秤にかけることになると、必ず動くと予想しております」

「どっちにしろ、動くということだな」

公爵の言葉に二人は頷いた。


「すまんな。もうひとつあったな。話すことが」

エリーナがそれは話したくないという顔をした。

「ヨシロー。シュヴァという男を覚えているか?君が代理になって決闘した彼だが、退学したよ。あれは騎士道精神に恥じる行為だ。なにより負けを喫している。まだ若いからやり直せると思うところだが。今は一から出直しとして西部駐屯地にいるよ」


「さて、娘よ。婚約を破棄されたな」

「大変遺憾に思います。いえ、父上。わたしの努力が及ばず、」

「よい。みなまで言うな。父として愛する娘をあの阿呆にやるのは甚だ遺憾ではあったのだ。殿下がどうするかは本人の意思もあるだろう。だが、娘よ。国母となる道はどうする」


 答えが出ないまま食事会は終わった。

「すまんな。父上は仕事に熱心な人でな。話しに熱がこもりすぎたら、食事中でもああなるのだ」

「いえ、それより、わたしの無作法が露呈せずに済みました」

ヨシローの胸元も袖もシミだらけだった。気づかなかったのかメイドは全員顔を手で隠していた。


 サンテールブルク宮殿、王の間。

「なぜ、父上にお目通りできない」

大臣、近衛兵にくってかかるのはジョン王太子殿下。

しかし、誰も返事しない。頑強な鎧を纏い王太子を通さない。

「大臣」

「本来、この宮殿内で近衛兵が鎧を装着して務めを果たしていること自体異例なのです。もう少し自覚を持ち、次期国王となるよう邁進することが殿下の務めです。お引き取りくださいませ」

「さっきも聞いた」


(くそっ。父上の承認を得て、この婚約が何ごとにも揺るがない正当なものだと取り付けなくてはならないのに)

ジョンは苛立ち、焦っていた。

メッサリナは信じてお待ちします。としおらしくしているのに。父上との話しの場が与えられれば、いくらでも彼女への愛を語れるのに。国中が納得する理由があるのだ。正当な愛を証明できるのに。


どこに行ってもちやほやしていた家臣や貴族連中が、ジョンと距離を置くようになった。メッサリナは不安だろう。早く打開してまた皆のものが敬いひれ伏す日常を取り戻せねばならない。


「メッサリナ。不安だったかい」

メッサリナの屋敷を一直線に彼女のいる部屋へ到着した。

「いいえ。殿下。信じると言いました。不安など一切ございません」

(もう、三文芝居で押し通せる。あとは国王様と謁見できればこの国は)

メッサリナは笑顔の表情を変えず、虎視眈々と次の手を思案していた。


「国王祭で賊が侵入したと噂があります。警備が厳重になるのもやむを得ない事情でしょう」

「メッサリナ。なんと優しい。まさに国母となる器だ」

「殿下。少し強引ですが、二人で謁見を願い出るのはいかがでしょう」


「しかしそれは。父上に謁見するにはメッサリナの爵位では厳しいと」

「いいえ。殿下の愛が本物なら、きっと道は開かれます。それにこのことは、のちに語り継がれて大衆の娯楽となって世の貴婦人が誰もが羨む愛の物語となることでしょう」

「なるほど、大衆も味方になる訳だ。多少強引に攻めるのもありか。メッサリナ。支度ができ次第、あらためて父上の元に行くぞ」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ