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国王祭

「では、世間話だ」

帰れなかった。威厳のある大人は苦手だ。

「わたしが言うのもなんだが、よくできた娘だよ」

公爵の物腰が柔らかくなった。

「勤勉で努力家で、自分をよく律している。少し肩の荷を負いすぎなとこもある。先祖の決めた約束を敬い精進しているのも知っている」


「誇らしいことですね」

「嫁入り先がポンコツなのが少々不満ではある」

ああ。思わず納得してしまった。


「国王祭には娘はもちろん主賓待遇で出席するが、王太子がバカな集まりと行動ばかりするので気掛かりでな。場所をわきまえる器量もなし。側で助言する者もなし」

「お気持ち察します」


「ところで、メイドの付添えから娘の部屋で見つけた本を見せてもらってな。別に、その、娘がどういうものを読んでるとか、流行りとか。親子の会話に必要であるからな」

差し出し見せられた本の表題は「イチャコラパラダイム」と明記されていた。


「淑女の嗜みは、わたしには理解し難いところですので、憶測でものは言えません」

「うむ、ではこの件はなかったことにしよう。それとなく戻しておいてくれ」

ヨシローは困った。エリーナの部屋に入れるわけがない。付添えのメイドにあとで頼もう。


部屋を出た先に待っていたのはエリーナだった。

「ずいぶんと話し込んでたな。大丈夫か」

「娘を自慢されてました」

「あの父上がか?驚きだな」

エリーナは予想と違ってたようで、内容を知りたがったが、うやむやにしておいた。


「一週間の自宅謹慎は何をされるつもりですか?」

「課題は貰ってる。態度次第ではすぐ学校に戻れる。それよりヨシローはどうする。学校に行くか?」

「いえ、わたしはあくまでエリーナ様の使用人ですので、屋敷で雑用をしてまいります」

ヨシローにお咎めはない。あくまで代理で決闘したのだから責任はエリーナにある。

だが、ジョンとメッサリナにはお咎めはなかった。


「そう言ってくれると思ったよ。課題は自身でするわけだが、わたしもさらに教養を身につけねばと自主的に勉強していてな」

エリーナが見せつけてきたのは「ラブラブスイートフレーズ」と表記されていた本だった。

思わずヨシローの気が緩み、服の中に隠していた「イチャコラパラダイム」が床に落ちて露わになった。

「ふふ、決まりだな。一週間みっちり練習するぞ」

ヨシローにはお通夜のような沈黙だったが、エリーナには通用しなかった。


 国王祭の日。

エリーナはドレスを着て派手さは控えめだが丁寧な意匠を施したティアラを飾っていた。

「セバス。参るぞ」

気合いを入れて歩き出した。


「お嬢様。普段お召しにならないのでとても美しくお見えでございます」

まわりのメイドたちもうっとりした眼差しでエリーナを見つめた。

「お世辞はよい。スカートもヒールも苦手だ。香水もアクセサリーもやり過ぎだ。わたしの日頃を知ってる者がなんと思うことか」


「きっと、見直して惚れ直すことでしょう」

「やれやれ、ヨシローはどこにいる」

あまり見せたくない相手だが一応、少し見てもらおうと思った。


「彼はすでに馬車で待機されております」

「なん、だと!」

セバスは国王祭には執事長ではなく、ヨシローをロイヤルガードとして同行させるということを公爵の承認の上で決定したと伝えた。


「家政婦長。侍女を全員呼べ。コルセットが緩い。死ぬほど締めてくれ。今宵、国王祭で一番の淑女の座を獲りに行く。忌憚なき意見を聞かせてくれ」

エリーナの号令が屋敷内の全メイドを鼓舞した。エリーナたち女性陣は部屋に戻ってしまった。


「なんだ。全然喋らないじゃないか」

「ずいぶん、時間がかかりましたね」

「女の支度とはそういうものだ。覚えておくといい」


エリーナはじっとヨシローの顔を見た。

「わたしを見てなんとも思わないのか。ドレスは似合わないか」

「すごく綺麗でございます。普段も凛々しく美しいとは思っております」

「ふふ、ふふふ。しっかりラブラブスイートフレーズを熟読してるじゃないか。愛読者仲間ができて嬉しいぞ」

エリーナは扇子を広げて顔を隠した。

(こいつ、天然のたらしか)


「エリーナ様。ひとつ問題がございまして」

「なんだ」

エリーナは現実に引き戻された。


「わたしは踊れません」

「何、踊りたいのか」

「いえ、公爵様のお口添えでこの国王祭に参加はできましたが、平民だとバレるのは必須なので、どこまでエリーナ様の側にいられるかがわかりません」

「なるほど、王太子殿下の奇行は防げないということだな。仕方あるまい」

「あと、国賓で呼ばれている中に…」

「そうか、まずいな」


馬車の揺れが止まった。扉が開き燕尾服に身を纏ったヨシローが外に降り立つと国王祭の会場、サンテールブルク宮殿が煌びやかにそびえ立っていた。

その後をエリーナがヨシローにエスコートされ降り立つ。周囲で着々と他の馬車が止まり貴族の者たちが降り立った。


 サンテール王国とフラン帝国は国境付近で時々小競り合いが生じる関係だが、国王祭を理由に一時停戦をフラン側が申し出た。フラン側の軍が一斉に撤退したのだ。

祝いの言葉と乾杯の音頭でオーケストラが奏で始めた。国王祭が幕を開けた。




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