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アレクセーヴ公爵

 ヨシローを取り囲んだ三人が同時に倒された。

シュヴァが眉をひそめながらヨシローの動きを注視した。

(斬りかかる三人に臆することなく突っ込む度胸はよしとしよう。深く潜り込んで振り下ろされた剣をことごとく打ち払い、さらにアゴを割ってのけた)

「使用人。誰に剣を教わった」


ヨシローは耳を傾けず後の二人に俊足で迫った。

ヨシローの剣先の射程距離内に相手を捕えたところで視界の外から矢が射られた。しかし、寸でのところで木剣で叩き落とした。


 一旦、距離を置き射手に向かって水魔法を放った。手加減はできたはず。六人目が隠れていたのは行雲流水で感知済みだ。


 仕切り直しだ。もう一度剣を構えた。

が、残り二人の男が戦意を喪失し、武器を落とした。

引き下がったところを、シュヴァに小突かれた。


修練場の真ん中に堂々と立っているのはヨシローだった。

木剣を納めてからもまだ立っていた。


「これは騎士の誇りに関わることだ」

シュヴァが槍を手にした。


「いけません。シュヴァ様もう終わりです」

メッサリナが叫んだが、届かなかった。


シュヴァの猛攻がヨシローを圧倒する。木剣で捌くのが精一杯だ。騎士団の未来を背負うことだけはある迫力だが、頭に血が昇っているのか焦っているのか動きが大雑把で騎士には程遠い姿だ。

野次馬たちの嘲笑う罵声しか今のシュヴァには聞こえない。


ヨシローが槍の下を掻い潜って懐に入ったところをシュヴァが蹴りを見舞った。なりふり構わない様子でそのまま木剣を踏みつけヨシローを見下ろした。

「使用人。俺を見下そうとすんじゃねえ」

しかし、シュヴァは膝から崩れ落ちた。意識が飛んでピクリともしない。

水魔法がシュヴァのアゴを捕えていた。


改めて、木剣を納めて振り返った。

「エリーナ様。終わりました」


「キャー、すてき」

エリーナが胸の前で両手を結んで飛び跳ねた。

「棒読み。三点です」


ジョンとメッサリナはただ、じっと固まっていた。どこに焦点を合わせればいいのかわからなかった。


 エリーナはサンテール・ル・ロゼを謹慎となった。

「まったく多忙だというのに、何をしでかした」

シンメトリーな空間が緊張感と美しさを演出する。ライティングビューローやディスプレイキャビネットがバランスよく配置されている。マホガニー製の調度品が高級感を際立たせる。

目の前にいるのはアレクセーヴ公爵当主。エリーナの父上だ。


エリーナとヨシローは起立の姿勢のまま、公爵の言葉をひとつひとつ噛み締めていた。

ヨシローはエリーナより一歩下がったところで背筋を伸ばしている。自分が口を出すことはないからだ。身分からして慎まないといけない。


一通り、件の説明と釈明を終え、厳しいお言葉をいただいたあと、二人は退室した。


「ヨシローは、今一度旦那様がお呼びです」

セバスが二人を引き留めた。

「お嬢様は、自室へお戻り下さい」

二人は無言で顔を見合わせた。


「フットマンのヨシローでございます」

セバスにアシストされて公爵の部屋に通された。

深くおじぎをして公爵の顔を初めて見た。

目の前にいるのは、赤い髪を後ろで束ねしっかり威厳のある髭を蓄えたガッチリ系の男だった。エリーナは母方似だろうな。眼差しは父親似だろう。芯の通った男の目だ。


「ヨシローだったな。娘とセバスから聞いている。幾つになった?」

「十六、七でございます」

「あやふやだな」

公爵が眉間にシワを寄せる。

「簡単な読み書きと計算は三、四年前に村に派遣されたシスターに教わりました。逆算しようにもあやふやなとこがありますので年齢はそれくらいでございます」

「そうか。合点するとしよう」


「本題だ」

やはりエリーナの父親だ。目の奥にしっかり信念が見える。雰囲気が変わった。

「なぜ、娘を助けた。相手は王太子であり許嫁であることは知っていよう」

「わたしは、エリーナ様の従者として雇われています。主人を側で助けるのが仕事でございます」

「職務であると言うか。特別な感情ではないと」

「身分違いでございます」


「平民が王族に盾突くのはいかがなものか」

「エリーナ様より国民あっての王族、貴族だと教わりました。わたしの目には、それに相応しい行動をされたのはエリーナ様であると。あの場にいた全ての紳士淑女の中でただ一人だけです」


「こそばゆいな。では、お前の目はこの先をどう見据える。王太子側とやり合うのか」

「この先ですか」

次の言葉は自分に関係ないことだからと、ためらった考えがあった。

「フラン帝国の動向が気になります」

公爵が前の机を力の限り叩いた。ああ、言ってしまった。公爵の顔色が燃えるように怒りに満ちた。


「わたしの使命はエリーナ様を国母としての夢を叶える手助けをすることにあります」

「なるほど、確かに、なるほど。お前はそう立ち回るか。娘と共にイバラの道を歩いてくれるか」


「しかし、国の問題は大人の我々の責任だ。子供が頑張らなくともよい。子の未来は大人が作る」

「エリーナ様はすでに自覚されております」


「よい。王太子側とのいざこざの件、わたしが責任を持って預かろう。学生生活を謳歌するがよい」

公爵は機嫌よく大声で笑った。目を離していても、立派に大人に成長している娘に喜びを隠せなかった。




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