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神獣テスカトル 2

 一撃が重い。全身で衝撃を受け止め、体力の消耗が尋常ではない。壁に地面に叩きつけられそれでも転がり回り致命傷を避け反撃を試みる。後手の一方だ。


エリーナがすでに倒れた。息はあるが体力の限界だった。ヨシローはエリーナがこれ以上標的にされないよう魔獣の注意を惹きつけながら応戦した。


魔力を使い果たすとゼンマイが切れたように動けなくなる。これ以上の使用は避けたい。躊躇している場合ではないのだがエリーナが心配だ。


 エリーナが目を覚ました。身体中が痛い。疲れ果てて眠っていたようだ。手当てをされている。包帯が巻かれ、濡れたタオルが顔に心地よく乗っていた。


「夜?」

頭が痛い。打ちどころが悪かったか。半身を起こし辺りを見回した。テントが設営されている。焚き火があって側でスープを煮込んでいる。


ヨシローがやってくれたのか。あの魔獣を仕留めたというのか。

「ヨシロー」

テントの中からヨシローが出てきた。自分で手当てしたのだろうか。腕の包帯はほつれそうだった。

「寝床の準備ができました」

ヨシローはエリーナの側に来て外套を肩に掛けた。

「やったのか」


「いえ、そこにいます」

ヨシローの指差す方向にいきなり金色に光る目が二つ現れた。エリーナは跳ね起きて剣を取ろうとしたが、痛みと疲労困憊で実際は一ミリも動けてなかった。


「ウにゃウにゃ」

魔獣が鳴いた。

「どういうことだ?」

「目が覚めたか。ニンゲン。と言ってます」

「驚いたな。言葉がわからん」


ヨシローがスープを皿に移し、エリーナに勧めた。大丈夫か。とヨシローを見たが、笑顔で頷いてくれた。


「僕たち、遊ばれてたのですよ」

ヨシローが袋から塩漬けの肉の塊を取り出した。

「ウにゃウにゃウにゃ」

「なんて言ってる?」


「その肉をよこせ、焼くな、塩を払うな、塩ごとよこせ」

「ホントか?」

ヨシローは魔獣の前に塩漬けの肉塊を丸ごと置いた。魔獣はご機嫌で食べ始めた。


「話しがわからん。説明できるか」


 もともと、敵意を持ってなくてエリーナたちに近づいたが剣を向けられたので遊んでくれると思ったらしい。久々に骨のあるやつで満足だと。


意思の疎通は魔力の高さによって可能で、たまたまヨシローがここでは適正があった。


 エリーナにパンを渡したが、エリーナは遠慮した。魔獣はそれをくれと鳴いた。

「ウにゃウにゃ」

「懐かしい。味は違うが昔こんなのをたくさん食べた。と言ってます」


 エリーナはヨシローのほつれた包帯を巻き直した。

「他に痛いとこはありますか?」

「私は充分だ。ヨシローの方がケガがひどい」

「アバラにヒビいってます」


「この砦跡はあなたの住まいか。私たちは決して侵略を目的とした者ではない。通訳してくれ」

人間の言葉はわかるらしい。

「ウにゃウにゃウにゃ」

「ここは人間がいた場所。構わず好きにしろ。と言ってます」


「かたじけない」

エリーナが貴族の作法に倣ってお礼を述べた。


「お前は知らないが、女の方は見たことがある。昔この地にやって来たニンゲンの中に穀物の種を持ち込んだ男に面影がある。と言ってます」


魔獣はヨシローの荷物に爪を忍ばせ、食糧をねだった。


「後日、お礼として食糧を差し上げてよろしいでしょうか?」

「牛を一頭。差し上げろ。生きたままだ」

魔獣がゴロゴロと喉を鳴らした。


「エリーナ様。あの金の王冠。心当たりないですか」

魔獣の左耳に被っている王冠。人間用のサイズだ。


「これか?人間が俺を王としてくれたものだ。見ていいぞ。と言ってます」

魔獣は頭を下げ、エリーナたちに見やすいようにしてくれた。


「壁画のサンテールの紋章だ。間違いない」

「ウにゃウにゃ」

「ここで長い年月、ニンゲンと遊んだが、のちにニンゲンはニンゲンの王国を作りに行くと言って出て行った。俺はついて行かなかった。ニンゲンじゃないからな。だからここで別れた。と言ってます」


「魔獣殿のお名前を聞いてよろしいか?」

エリーナは身震いした。ヨシローもわかっていた。


「我が名は、テスカトル。かつてこの地を統べしもの」


エリーナたちは最上級の礼を持って膝をついた。

胸の高鳴りが治まらない。伝説の神獣を前に敬意を払うに精一杯だった。


 眠れなかった。ヨシローの目の前には神獣テスカトルが寝ているのだ。テントの中はエリーナは眠れているだろう。疲れ果てたのに状況が寝かしてくれない。


「ヨシロー」

エリーナがテントから出てきた。やはり眠れなかったのだろうか。

「ぼちぼち、墓地に行くぞ」

ヨシローは間を置いて、目を見開き

「何言ってるんですか。お互い包帯、ケガだらけのミイラですよ」


「ふふ。私だって淑女としての教育は受けてある。恋愛小説だって読むんだぞ。今から、キャー怖い。を実践しに行く」

「身分が違います」


「昨日の夜。あれはなんだ?」

テスカトルがこそっとヨシローに耳打ちした。

「肝試しでございます」

「寸劇じゃないのか?同じことを繰り返して」

やり直し二十六回。ヨシローがキャー怖いと思うほど精神的ダメージを負った。


「よいではないか。ニンゲンはときに歌って踊り、喜びと感謝を表現する。が、三点だな」


「神獣様はなんとおっしゃってる」

満足気にエリーナは尋ねた。

「三点」



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