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神獣テスカトル 1

「砦に祭壇がありますね」

「開拓と防衛の拠点でありながら生活の基盤も兼ねていたみたいだな。ここは後から増設したはずだ」

サンテールの国旗には豹のロゴが入っている。開拓の祖先がここで伝説の神獣と契約し国造りを行ったという。祭壇は砦の中心部に造り、神獣テスカトルを祀ったそうだ。


すでに欠損がひどい有り様だが祭壇の模様やそこから見渡せる展望をスケッチして

「いい課題が発表できそうだよ」

エリーナは満足気に言った。

「それはなによりです」

ヨシローは食事の準備をしながら少し満喫していた。


 一個師団レベルと言っていたわりには、案外楽に終わりそうだと思った。

「ああ、発掘調査をするならな。人夫もいるし、かなり大がかりな土木作業をしても良かったんだが。野営も考えていたよ」

「公爵様が聞いたらよしとしないと思います」

「せっかくの機会だ。とことんやりたいではないか」


「それにな、砦の外に共同墓地があるだろ。夜になると出るんだよ」

食事は冒険者スタイルで装備をつけたままで摂った。

いちいち、テーブルにクロスをひいて皿とカトラリーを並べて優雅に茶器に紅茶を淹れるなんてことはしない。公爵令嬢のそんな姿をセバスに見せられないだろう。

「では、夕暮れには解散でよろしいでしょうか」


「休憩が終われば、あっちの探索もしてみたいな」

「肝試しには付き合えませんよ」

「固いこと言うなよ。ヨシローとだから楽しみにしてたんだよ」

セバスに怒られる自分が目に見えた。首を振って無言の抵抗をした。


 食事が済んで、祭壇を降りた。別ルートで次の散策ルートを地図に示した。

「次は、この広間があった場所ですね」

「そうだ。そこで先祖様たちは議論を交わしたり、この国の誕生に思いを馳せていたのだと思うよ」

「アレクセーヴ家の初代様もそこにいたのでしょうね」

「まさにな。初代様がこの地に小麦の種を持ち込み、一から作り上げたと思うと感慨深いな」


 実際、その場所に行ってみると、広間らしき建物もあったのだろうという痕跡もなかった。

「これはこれで感慨深いがな」

エリーナは少し寂しそうな声で言った。


 朽ちかけた岩には、何かの模様が彫ってあった。

「これはなんでしょう?」

エリーナは、別で広間跡の瓦礫をどかしたり、何かメモをとったりしていた。

「今行く」

エリーナもサンテールの歴史や課題にあたって砦の史料を予習してきたので実際の砦の空気に触れひとつひとつが新鮮に好奇心を刺激するのだろう。

だが、公爵令嬢が瓦礫を自らどかすなどはやめてほしい。セバスに怒られる。


「サンテールの紋章に似ているな。きっと最初はこの模様がサンテールのロゴだったのだろう。国が成り立つ前に使っていたかもな。歴史は奥が深い」

「素晴らしい歴史に出会えましたね」

二人でこの模様をしばらく観ていた。


「ヨシロー」

「エリーナ様。申し訳ありません」

二人は顔を見合わせ、一気に戦闘体制に入りつつ振り向いた。

エリーナの抜剣した切先のすぐ先に大型の黒い魔獣がいた。

こんなに近くまで接近を許すとはありえない。行雲流水は認識できていなかった。


 ヨシローも同時に抜剣していたが、行雲流水の効果がなかったことで思考が一瞬遅れた。

「砦に入る前に言ったルールを忘れるな」

エリーナは毅然としている。

「無理です。自分は盾になります」

ヨシローがエリーナより一歩前で身構えた。


 全身が漆黒の毛で覆われ金色の瞳孔、白い牙と爪。黒豹にしては大人一人丸飲みにできるほどでかい。左耳に金ピカの王冠を被っているのが印象的だ。


「何用だ」

ヨシローは後ろのエリーナの方を振り向いた。エリーナは、なんだ?という顔をした。エリーナが言ったんじゃない。あんな低い声はしない。

「ヨシロー。よそ見するな。らしくないぞ」

エリーナがたまらず、ヨシローより前に出た。


 魔獣の振った爪の先がエリーナの剣を弾き飛ばした。

まずい。動揺している。ヨシローは魔法を撃つ体制をとった。魔獣が一瞬で距離を広げ威嚇する。

エリーナが剣を拾いに走り出した。援護射撃は絶対外さない。魔獣の動きを捉えて威嚇する。


「水撃」

魔獣がしなやかに躱わす。瓦礫を飛び越えてエリーナが剣を握り直し体制を立て直した。だが、二人は離れてしまった。遺跡を盾にエリーナが立ち振るう。

ヨシローは追いかけるように魔獣の横から攻める。

魔獣の尻尾がヨシローを薙ぎ払おうとするも剣でいなす。硬い。鈍器を剣で止めた感覚だ。


エリーナも斬りかかる。魔獣が爪で容易くいなす。一撃二撃と斬り結ぶ。

「ヨシロー。撤退だ」

ヨシローは魔獣の後ろ脚の蹴りを躱わし、エリーナに代わって魔獣と相対する。

「バカ。撤退命令だ」

ヨシローは魔獣と距離が空くと躊躇わず水撃で追撃し、距離を詰めると剣で斬り結んだ。


主人より先に逃げるわけにはいかなかった。魔獣がエリーナを標的にしないよう常に前に出て攻撃を仕掛けた。素早くしなやかに身をこなす魔獣に勝つ術はなかった。


剣戟が躱されて次の構えに入ると、颯爽とエリーナが斬りかかった。

「二人で逃げるか、勝つか。いくぞ」








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