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バシ・リサ

 ギルド。ここでは職業斡旋所の役割を持つ。

いつまで滞在させてもらえるかもわからないし、一日を屋敷の中で過ごすのも気が引く思いだ。


土木の日雇いや、商隊の護衛。サンテール軍の兵役の募集とさまざまな仕事が閲覧できた。

ヘイレンに読み書きを教わっていたため難読な単語以外はなんとか読める。


「すいません。ちょっとよろしいですか?」

ヨシローに語りかけてきたのは鎧を装着した若いサンテール兵だった。

「この街で見かけない顔だったんで声をかけたのですが、間違いないですか?」


ヨシローはアレクセーヴ家と少し関わりがあって、滞在している者だと説明した。

「そうですか。それはすごい。それはさておき、君もサンテールの軍人になって兵役に参加しないか」

先程閲覧した中の募集にあったのを思い出した。


「国のために心身を鍛えて、立派な騎士になるんだ。三食昼寝付き、お給金も出るし安定した仕事だよ」

グイグイと来る勧誘にヨシローは壁を背にするほど追い込まれた。


「近々、戦争でもあるんですか?」

「サンテールは近隣諸国とは良好な関係を築いてる。

まずないね。だから命の心配はいらないさ。強いて言うならフラン帝国だね。万が一でもないけどね」


 なんとか話しの途中で逃げることができた。

平民が騎士団に入る時点であやしいと思ったが、なにより兵役に興味がなかった。


 市場の方へ足を向け、装飾品の露店に目が移った。

綺麗な彫刻の入った品々だ。

「にいちゃん。プレゼントかい」

首を振った。

「飾りが細かくて綺麗だなと」

「ああ、フラン産だよ独特だろ」

何かフラグが立った気がした。


「ここにあるのは全部そうですか?」

「いや、この辺だけだね。他の異国の品も見るかい」

店主がキセルで商品の一部を指した。全体の一割がフランからの輸入品だそうだ。


「先程、フラン帝国とは他と比べて国交が上手くいってないと聞いて」

「にいちゃん、余所者だね」


フラン帝国は今の皇帝に代わる数年前までは略奪国家として恐れてられてきたそうだ。現在の皇帝になって侵略戦争は控えめになり周辺の国とも和平を結ぶなど平和的解決に尽力しているが、強大な軍事力を背景に国土返還には応じない姿勢をとっている。


皇帝の名は女帝バシ・リサ。


サンテールとは睨み合いが続いているらしいが、今のところ何かある訳ではなさそうで膠着状態を保っている。


 自分には関わりがないなと思っていた。村で育って一度も戦争の話しをしたことがない。お伽話くらい遠い国の出来事だと思っていた。


結局露店では、何も買わずにふらふらと市場を散策した。

いい匂いが、ヨシローの鼻腔を刺激する。小腹が空いた。焼きたてのパンの匂いに誘われて、一つ買った。

見た目素朴な塩パン。村にいた時もパンを焼いたことがある。が、こんなにふんわりした出来ではなかった。

「なんだ、これ」

シンプルなのに美味い。思わず声が出た。


エリーナの屋敷で出された食事は作法がわからず味がわからなかったが、パンは非常に美味しかった。


このパン屋、ただ者ではない。サンテールは穀倉地帯と聞いていたが、その土地のものが美味いと言われる所以がわかった気がした。


冗談で言うが、バシ・リサはこのパンが目当てではないだろうか。


 屋敷に戻ると、セバスが迎えてくれた。

この人は、隙がないな。客人だろうと完璧に執務を実行してくれる?

「おかえりなさいませ。お嬢様もそろそろ帰ってくる頃でしょう。よければ一緒に出迎えてはくれませんか?」

ぜひ、と承諾した。屋敷に戻ったところですることがないのだ。


「ヨシロー様はいつまで滞在されるおつもりですか?」

唐突に話しかけられた。確かにいつまでいないといけないんだろうか。

「ですよね。エリーナさんに、エリーナ様にお話しを通して早めにここを出ます」


セバスは真剣な面持ちで

「お嬢様は、とても勤勉な方でこの国の未来を担うべく使命をお持ちになられます。ですが、ご学友がいないことに私ども少し心配しておりまして。ヨシロー様の許す限りでお嬢様の話し相手にと思ったのですが」


特に行くあてもなく、ペロポマレアもフラン帝国も話の内容では避けておきたいとは思った。もう少し他の情報を仕入れて、今後のことは考えたいところだ。


「セバスさんや他の使用人の方々では話し相手くらいダメですか?」

「私ども、身分が違いますので」

プロの執事、使用人を自負しているが、こっちは無職の元村人なのだが。下手したら手配書があるかもなのに。


 馬車が目の前に停まった。エリーナが降りてきて

「ヨシロー君、待っててくれたのか」

頷いた。セバスはエリーナの荷物を受け取り、ヨシローとエリーナの後ろを歩いた。


「そうだ、ヨシロー君はナイフを持っていただろう。剣術はどこで習ったんだい。我流かな」

「いえ、あれは護身用で戦闘はカラっきしです」

「そうか、君は魔法職だったね」

「それも、たいしてなものです」

エリーナはジーッと顔を覗いて

「それは謙遜だよ。なかなかの胆力はあるとみたね」


「私は女だが男子たちに混ざって剣術もやっていてね。あまり組み手がいないんだ。よかったら木剣持ってみないか?」

とんでもないことを提案された。

エリーナの笑顔にセバスも微笑ましい表情でヨシローの背中を押した。






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