サンテール・ル・ロゼ
サンテール・ル・ロゼ。
サンテールの王室、貴族はもちろん近隣諸国の爵位のある家系のご子息ご令嬢が通う学校。
騎士道や貴婦人としての教養や将来的に祖国の政治、軍事を担う者たちが集まってくる。
「エリーナ。命令は果たせなかったな」
「申し訳ありません。王太子殿下の、」
「釈明はいい。エリーナが劣ることがわかってジョン様はご機嫌だ」
ジョン。サンテールの王太子殿下。教壇の中央に陣取って、その下で片膝をついて弁明するエリーナを見下すようにたたずんでいた。
南の洞窟のゴブリン狩りを夕刻までに達成せよ。と命じたはずだったが、討伐達成が決定的になったところであらかじめ従者に裏切るように仕組んだのだった。
「公爵としての気品も女性らしさもないし、騎士道の真似事ばかりするからシュヴァ様直々に提案して頂いて、ジョン様のお言葉でわざわざエリーナに命じたのに。王太子殿下の面汚しですね」
ジョンの隣で威張るメッサリナは男爵令嬢。美人である。
「エリーナには難しかったな」
シュヴァはサンテール騎士団団長兼子爵嫡男。スラっと長身だがしっかり鍛え抜かれた剣士である。
「返す言葉もありません」
エリーナは顔を上げず、しかし堂々とした態度でいた。だが、エリーナを見てる三人の蔑むような醜い顔を見ないで済むにこしたことはない。
周りの野次馬は、日常茶飯事ではあるが目をつけられないように中立か無関係の立ち位置を維持していた。
(やれやれ。王太子殿下の幼稚な言動には手を焼かされてばかりだな)
やっと開放されて、エリーナは一人構内を歩いていた。誰も味方がいない。味方をしてくれる者がいると、その者まで攻撃の対象にされてしまう。だから一人でいい。悪役令嬢のレッテルを張らされたのだ。
貴婦人となるための家政や礼儀作法、薬草学を学び、男子に引けを取らない騎士道精神や剣術を自らに課している。その優秀さが気に入らない輩がいるのだ。
女一人が木剣を握って素振りをする。騎士を目指す男たちにとっては目障りでしかない。模擬戦で女に負けたとあればサンテール内の笑い者だ。誰も手を貸したくないのだ。
それでも、エリーナは訓練に参加する。走り込み泥だらけになり汗まみれになり、アザをつくっても騎士としての高みに邁進し続けた。
商工会。サンテールの商業を担う事業主の中でも規模の小さな商会たちが中心となって運営している。
貿易のため相手国や地域に商会長自ら出向き、情報や商材を薄利であっても扱えるのと細かいネットワークが強味だ。信憑性も高い。
ヨシローは、窓口でペロポマレアと取引している商隊はいないか聞いてみた。現地に行ったことのある商隊なら情報の鮮度が違うだろう。
「あの、すいません。先日ペロポマレアから戻ってきたと窓口で聞いて」
タバコを燻らせているいかつい男がジッとヨシローを見た。誰だこいつ。無粋なヤツだなと顔に出ていた。
「どんな町かなぁって。一杯奢ります」
わかってるじゃねえか。と言わんばかりにヨシローの肩を組み商工会を出た。
「何が聞きたいんだい?特産品か、女か?」
「治安的な」
届いたエールは乾杯もせず一気に男の喉を通り過ぎた。
「まっ、亜人と共生してるとこでは比較的マシだな。あそこは人馬族が治めてるしな。知ってるかい?」
「他に亜人はいますか?」
男はまたいかつい顔付きになって
「ツマミをひとつ」
と給仕に追加注文した。
「もともと、人馬族が大昔に開拓した町だからよお。開墾も隣の人間と一緒にやったてのが始まりだそうだ。そんで仲良く一つの町として今に至る訳よ。たまに他の種族も見かけるがなあ」
「そうですか」
ツマミを鷲づかみで頬張りヨシローの顔を覗き込んだ。
「にいちゃん。行くのかい?」
「いえ、噂に聞いてどんな町かなと」
「ふーん。じゃあこっちの情報だな。アルディアって知ってるかい。あっちで家督騒動があってな。人馬族ってのは血統を重んじる種族でよ。正統な血統は根絶やしにしねえと継承権が親族であっても回ってこねえのよ。わかるかい」
ヨシローは頷いた。
「なんで、ペロポマレアでも血統の濃い親族と近しい間柄のやつは血眼で探してコレよ」
男は人差し指で首を切る仕草をした。
「ありがとうございます。なんでわかったのですか?」
「客の欲しいもんを提供すんのが商売人だろ。ツマミとエール二杯ならこんなもんかな」
いつのまにか二杯目を手に持っていた。
「まあ、俺らが知ったとこで無関係な話だからな。あっち行って人馬と仲良くなりたいって言うなら、血筋を聞いて確認するこった。相手は選べってな」
アルディアでエーリスは親族に地位を奪われたんだ。だが、エーリスが生きている限り地位はエーリスのもの。だからペロポマレアでアルディアでの継承権を叫ぶつもりだったんだ。だが、ペロポマレアにエーリスの支持層は先に潰されていたから、どのみち挟み撃ちにされたということだ。
じゃあ、ペロポマレアに急ぐことは無駄だったのかもしれない。どうすればよかったのだろう。何か役に立つことができただろうか。




