サンテール 1
「この道は南の洞窟に繋がる唯一の道でね。たまに魔疽を散らさないと魔物が増えてしまうんだ。」
「魔物ってなんですか?」
「君は知らないんだな。この辺だったらゴブリンに遭遇しなかったかい?。
首を振った。
「運がいいな。南の洞窟ではゴブリンが棲みつくのでね。繁殖能力が高いから定期的に狩るんだけど、放置すると街を襲うんだ」
本来なら国の兵隊が定期的にゴブリン狩りをするそうだ。単体ではオドオドしているが数が増えると凶暴になるらしい。よくわからないが人型を魔物、動物型を魔獣と区別していいのだろう。
「ちょっと、そそのかされてね。狩りの時期ではないが腕試しを仰せつかった後が、このザマなんだ」
なんでも、学友から煙たがられていてゴブリン狩りを命じられたそうだ。
「煙たがられている理由はなんですか?」
「ん。向こうの方が身分が上なんだがな。私のほうが評判がいい。自分でいうのはなんだけど」
確かに、堂々として凛々しくも見える。
「その、なんだ。くっころのくだりは忘れてくれ。評判なんて自分の行動次第でどうとでも上がるのにな」
「くっころ?」
「忘れてくれ」
「賊はよく出るんですか?」
「あいつらの差し金だろう。御者も従者もグルだったんだ」
賊が襲ってきたと騒ぎ、エリーナを馬車の隠し部屋に閉じこめて横転させる。そして一人ぼっちにした。
「ゴブリンはどうしたのですか?」
「ヨシロー君。君が大事に背負ってくれているよ」
ヨシローは驚いて荷物を投げた。
「わるい。他にも荷物が入っているんだ。持ってくれよ」
ゴブリンを狩った証に削ぎ落とした耳が六体分入ってるそうだ。想像してゾッとした。
「ヨシロー君。カサリウスだ。戦闘経験はあるかい?」
カサリウス。人間くらいの大きさの鳥型魔獣だそうだ。翼が退化して飛べないが鋭い鉤爪と激しく暴れ回るほど食欲旺盛だ。
「経験は、あの浅いです」
ナイフを構えた。
「そうか。荷物を頼む」
エリーナは荷物を預けて、剣を抜いた。
アーミングソードといわれる中央に溝のある両刃の剣だ。真っ直ぐで鋼色の艶が貴族っぽい。
翼を広げ威嚇しながら、鉤爪を引っ掛けて押さえ込もうと襲いかかる。
「ヨシロー君。馬だ。馬車を引いていたやつが襲われている。助けるぞ」
カサリウスに襲われていたのはエリーナが乗っていた馬車の馬だった。馬も抵抗しつつ逃げようとしてもがいていたが、カサリウスの動きに翻弄されていた。
いななく馬に容赦なくカサリウスが襲いかかる。そこにためらいなくエリーナは割って入る。
「馬の手綱を頼む」
剣戟がカサリウスの鉤爪や嘴の攻撃を薙ぎ払う。
距離をあけて馬が離れたのを見計らってヨシローは馬に向かって走り出した。が、馬が興奮して暴れ回る。手綱が握れない。
馬に蹴り飛ばされそうになりながらも、手綱の端をなんとか掴み、地に臥した。
暴れ馬に踏まれそうになりながらもエリーナの戦いを目で追った。
カサリウスの攻撃の一つ一つが重い。次第にエリーナが押されていく。踏ん張りが効かず体勢を崩された。
「水斬り」
咄嗟の判断だった。魔力が回復していないため切断はできなかったが、カサリウスの脚を狙い撃ちできた。
カサリウスが倒れたところをエリーナがしっかり仕留めてくれた。
喉元に深々と剣を突き立てると、鳥にあるまじき悲鳴をあげて暴れ出した。
さらに体重をかけ剣を押し込む。血飛沫が断末魔の叫びと共に溢れ出した。
決着がついた。カサリウスの息の根を止めた。
呼吸を乱しながら、エリーナが振り向いた。
「すごいな。魔法か。また助かった」
呼吸を整えているエリーナに起こされた。馬は魔法の発動後、すっかりおとなしくなっていた。
「危なかった」
「二度も助けられたな。礼を言う」
馬を手に入れたことによって、帰路がだいぶ楽になった。
夜になる頃には遠くに街の灯りが見下ろせた。
「これを下れば、サンテールだ。宿を探すのも手間だろう。屋敷まで一緒に来るといい」
「すいません、でもいいんですか?僕は平民ですよ」
「私は国民のために貴族、いや国はあると常々思っていてね。命の恩人に何もしないのは礼に欠ける。身分は置いといて、私の気の済むようにさせてくれ」
その言葉に甘えることにした。
初めて石造りでそそり立つ壁を見て驚いた。大きな門の前に衛兵がいて何やら話し込んでいた。
貴族や王様が治める街は城壁に街ごと囲んでいると聞いたことがあるが、これほど圧巻するとは。
衛兵が姿勢を正し敬礼すると、エリーナは戻ってきた。
「どうかしたんですか?」
「ああ、関所を通ったことはあるかい?」
「ないです」
「だろうね。要するに治安を守るためには身分や出自を証明するものか通行許可証がいるんだよ」
「持ってないですね。では僕はここでお別れですね」
ヨシローはカバンを漁ったが、それらしいものがなかった。証明証ってどんな形だろうか。村にいた頃は外から冒険者や商隊が自由にやってきたがそういった取り締まりはなかった。
「まあ、礼をすると言っただろ。少し時間をくれないか」
しばらくして、衛兵が銅のドッグタグ首飾りを持ってきた。
「仮の滞在許可証だと思ってくれ。常に見えるようにつけておくといい」
「ありがとうございます」
「礼はまだ済んでないよ。さあ、ようこそ。ここがサンテール王国だ」
門が開かれ夜でも賑やかな光景が目の前に広がった。




