表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/49

後悔

 賢いな。

昔、狼と魔狼の違いを聞いたことがある。

狼は階級があるらしいが家族単位で群れるそうだ。

中心にいる二頭は群れの中核だろう。よく見たら食事中だ。きっと狩りが成功して勝利の雄叫びをあげたのだろう。獲物はヘラジカだろう。角度的に全体が見えないが立派な角が見える。

その近くの三頭は子供だろうか。毛並みがまだ柔らかそうで一回り小さい。

残りの三頭がその間の周囲の警戒を担ってくれているのだろうか。そのうちの一頭が群れの中で一番凛々しく威風堂々としている。ボスだろう。

きっとボスが家族を守りながら食事を順番にするのだろう。


魔狼に関しては、狼より大きめで見境なく暴力の限りを尽くし必要以上に人も家畜も襲う。中には角の生えた個体も確認されている。そして、百を超えて群れるそうだ。


 ヨシローはゆっくりと後退り。姿を消した。邪魔にならないように。

昨日野営した木の場所まで戻ると、自分の旅の続きをすることにした。


 しばらく歩くと岩肌が露出した場所に出くわした。


あった。岩肌から流れる水だ。湧水を発見した。

苔むした岩肌をちょろちょろと水が滴っている。


生態系がこの辺りにはある。だとしたら生命を繋ぐ水場があってもいいと思っていた。

旅の道中に出くわすかは別として、エーリスたちが辿るであろう道に水の確保は必須なのだから希望は持っていた。道は外れていなかった。


ありがたく水を補給した。残る問題は空腹だ。


 陽が昇ると移動を始め、夜は木の上で一夜を過ごしてを繰り返してようやく廃村が遠くに見下ろせた。

今までよりまだ形が残ってはいたが、ほぼ森に埋まっていた。

丘を降りて辿り着くと、規模は小さいが砦のような外壁にみえた。


少し探索することにした。

積み上げた石の隙間を根っこが這うように伸び、何百年も時間をかけ自然に取り込もうとしていた。


石垣に触れてなぞっていくと、小さなキズがあった。

比較的新しい。何かで引っ掻いたかのようなキズ跡だった。


 誰かがいるかもしれない。警戒すべきか。判断が一瞬遅れた。どうしても空腹が思考を鈍らせる。


行雲流水。反応に何かが引っかかった。脆弱な命の灯火のようなのが一つだけ。戦闘体制はとらなくていいだろう。


警戒心はすぐに解かれた。

目の前にひどく痩せ細った人馬が横たわっていた。

(ああ、なんてことだ)

黒鹿毛の人馬には何本もの矢が刺さっていた。泥と血にまみれた息絶え絶えの姿を見て

「トーリス」

久しぶりに声を発した。大きい声がうまく出せなかった。声が届かなかったのだろう。トーリスに駆け寄った。トーリスがわずかに反応した。


「くっ、殺せ」

「トーリス。僕だ。ヨシローです」

トーリスが言葉を失ってヨシローの声がする方へ顔をあげた。

「矢を抜きます。我慢してください」

トーリスの肩に手をやり水筒の口を近づけた。


「いいんだ。終わったんだよ」

ヨシローの手が止まった。トーリスが拒んだため口から水が滴り落ちた。

「その辺に矢が落ちてないか。触らず見てくれ。矢尻に細工がしてあるのだろう」

ヨシローは側に落ちている矢を見た。矢尻の部分が折れてる矢、矢尻の返しが人為的に細工されている矢を見かけた。

「もう視力を奪われてしまってな。多分毒だろう。見えないんだ」


「エーリス」

ヨシローはトーリスをじっと見た。首を横に振る。

拐われてしまったのか。

矢は引き抜こうとすると矢尻を体内に残して根元で折れるよう切れ目が入っていた。しかも確実に殺傷できるように矢尻の細工が抜けば傷口を抉る仕様になっていた。

「わたしはもう助からない。いくつもの選択を誤ってしまった罰だな」


「何をしていたんだろうな。誰の言葉にも耳を貸さず。盲信、妄信を重ね。命を危険に晒した愚か者だよわたしは」

「喋ると傷に障りますよ。毒も回ってるし、どうにかしないと」

「君にわたしを運べるかい?誰もいないぞ。できることなんか何もないんだよ」

「そんな悲しいこと言わないでください」


「ペロポマレアの使者がエーリスを助けているなら、トーリスのことだって迎えにきますよ」

「いや、使者は来なかったよ」

「じゃあ、エーリスは何処に?」

「…ヨシロー。君には君の旅があるんだよ。構うことないんだ。巻き込まれに行くんじゃない」


ひどい有り様だ。襲われて何日経っているんだ。飲まず食わず、ずっと命が尽きるのを諦めの境地に立ちながら怯えて待っていたのだろうか。酷すぎる。


「エーリスの無事はトーリスの願いですよね。僕が」

「終わったんだ」

トーリスが言葉を遮って力なく力を込めて言った。

「探さないでくれ。頼むから。わたしたちの問題なんだ。わたしの落ち度なんだ。だから…終わったんだ。もう、終わったんだよ」


トーリスは自責の念にとらわれて、ずっと後悔していたのだろう。まさに生き地獄のような日々を送っていたことだろう。トーリスの言葉から生気が抜けていくのをヨシローは感じとった。


「わたしの旅は後悔ばかりだった」

エーリスの意向に耳を背けたり、ヨシローにも辛くあたった。色々思い出しながらトーリスは喋ることを辞めた。そして死ぬことを受け入れた。


「トーリス。僕も後悔してたんだよ」

非力な自分に。あの時も、この時も。今も何もできないでいる自分に。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ