水源を探せ
やられた。
いや、旅路を別れる選択肢もあったのだ。
三人が互いに煮え切らない思いでここまできたのだ。部外者である自分が何も主張せずに話の流れでついてきたのだ。現実を覚悟しろ。
ずるずると流されてきたのだ。とにかくペロポマレアの方角はわかっている。追いつくのは無理だが、自分のやるべきことならわかっている。
幸い水は残してくれていた。
考えながら歩こう。
水の確保ができればいいのだが、
途中で川もしくは水源が見つかる。雨が降る。別の旅人に出会い仲良くなる。
どれも都合が良すぎて話しにならない。
水系の魔法が使える。
飲み水を作る魔法ではないため却下だ。
魔力を水の形状、性質に変化したものの飲めるわけではない。
村にいた時でもそうだった。村の水はお腹をくだす。だからワインやエールが普通に飲まれていた。濾過や煮沸やなんやらの工程を経て飲めるようになったのは最近だった気がする。
食糧問題だ。
単純に木の実や葉っぱが食べれるならいいが、そうはいかない。トチノミだったらアク抜きが必要だ。要するに道具も時間もかかり現実的ではない。
魔獣の肉は食べる習慣がない。村にいた頃も、素材として爪や牙と皮、骨の一部が重用されていた。肉や内臓は遠くに捨てに行って燃やしていた。
そういえば、油脂を圧搾していた。利用価値のあるものは使っていたっけ。
これも都合のいい話しに過ぎないのだが、イノシシか野鳥が目の前を通りすぎてはくれないかと思ってしまう。
しばらくあれやこれやと現実的と妄想的にを行ったり来たりを繰り返しながら考えに浸っていると、一列に長く伸びた石垣を発見した。
これも500年前の遺跡の一部なのだろう。苔むしてはいるが頑丈に積み重ねられ歴史を感じさせる。付近に建物は遺ってないが狼がいた。
魔狼ではない。じっとこちらを見つめている。
囲まれたか。瞬時に行雲流水を広げた。反応はない。目の前の一頭だけだ。灰色の毛並みを逆立て警戒はしてるようだが、耳を澄まし鼻を利かして狼側もこちらが一人であるのかを探っているようだ。
狼はこちらを観察し終えると、どこかへ走り去った。
狼は。食えないよな。ヨシローも戦闘にならず安堵した。
今まで、何からも襲われずにいたことが奇跡だったのだと思い知った。これからは寝首を狩られる心配もしなくてはいけない。
木の上で寝るか。対策も状況に応じてしなくてはならない。過酷な旅をしているのだということだ。
まだ、空は明るい。もう少し先に進もう。
別にエーリスたちに追いつきたい気持ちがあるわけではない。この樹海からは抜けなくてはならないと思うからだ。
こんなに人の気配がなく、地理的感覚もない場所に閉じ込められては人としての感覚も失ってしまいそうだ。
皮の水筒から、一滴の水が滴り落ちる。これで水はなくなった。唇が少し濡れたくらいの水分補給が終わった。結局、水場はなかった。
陽が沈み始める。わずかに木の隙間から見える空が赤味をましてきた。
ヨシローは木に登り適当な高さの枝に立ち幹と自分を縛りつけた。
地上での野営が危険だからだ。
暗くなる前に、狼の群れに襲われないよう準備ができた。空腹も喉の渇きも満たせなかったが、夜を越せば朝露を集めて水の補給ができる。我慢比べだ。
ひんやりとした朝が始まった。体を縛りつけたロープを解き、地上に降りた。
大きめの葉についた水滴を集めても、水筒を満たすほどの量は確保できなかった。
仕方がない。旅を続けよう。
そのとき、狼の遠吠えが響き渡った。
(まずい)
狼は群れで行動するから、先日遭遇した狼は斥候みたいな役目なのだろうか。
しかし、鳴り響いた遠吠えは先の一回のみで、あとは静まり返った状態だった。
行雲流水を展開。基本的には自分を中心に円状に広げる。しかし、声の方向へ意識を傾け範囲を絞って展開。より集中して探知能力を上げることができる。
八匹。いや、八頭の狼の群れだろう。大きさ、四肢の形状、移動の仕方がそれっぽい。
中心に固まっている二頭。そのすぐ近くを三頭が待機。離れて三頭がウロウロと警戒した配置。
行雲流水で読み取れた気配。知識があればもう少し詳しく状況も推理できたであろう。
興味があるわけではないが、刺激を与えないよう観察することにした。
ゆっくり。歩いて。息を殺して。遠くから見るつもりだった。
だが、バレていた。耳を立て八頭すべての狼がヨシローに気づいて、逆にヨシローの気配を感じとっていた。
野生の動物の前では行雲流水もまだまだ精度が低い。いや、ヨシローが未熟なのだ。
五感や知識、分析能力。すべてにおいて野生の獣の方が上なのだ。
ヨシローは距離を詰めるのをやめて、狼たちの行動を見守ることにした。
たまたま、刺激を与えないギリギリのところにヨシローはいた。狼たちがヨシローに興味をなくすまでは下手には動かないほうがいいと判断した。




