原始の樹海にて 3
慌てて荷物をまとめ二人の元へ駆け寄った。
「ヨシローさん。使者の方は来ないかもしれません。ですがこちらへ向かって来ているかもしれません。どちらにせよ合流できるなら早いにこしたことはありません」
ヨシローはうなづいた。
「来れないということも、万が一として考えなければなりません。どちらにせよ急ぐ旅になります」
「わかります」
「図にのるな」
トーリスが不機嫌だ。
「わたしの背にお乗りください。遅れを取り戻せないにしても、これ以上の遅れをだすことはないということがわたしからの提案です」
エーリスが真剣な目でヨシローを見る。
「お嬢に触れるな。と忠告しただろう」
ヨシローは二人からの視線に困惑した。正直つらい。
「トーリス。この先が危険なことはあなたも承知なはずです。何をためらうのです」
「血筋の問題です」
「何を言っているのですか。この状況で血筋がなんてなんの意味も持ちません」
「アルディアの高貴な血は、いついかなるときも気高さを忘れてはならないということです」
「では、わたしが荷物を運びます。トーリスがヨシローさんを乗せるのはどうでしょう」
「お嬢が荷物持ちなぞ。論外です」
このやりとりをいつまで傍観すればいいのか。
「あの。頑張って走ります」
ヨシローは申し訳なさそうにこたえた。
「ふん。乗れ」
トーリスが荷物をヨシローに渡し、自分がヨシローも荷物も背負うと主張した。
しばらくトーリスの背に跨って走ったが、風を切るようなスピードで振り落とされないよう必死だった。
木々が避けるように抜けていくのが不思議だった。
鞍もあぶみもないせいでひどい揺れだが、トーリスが
肩で息をしてるのがつらそうだった。
当然だ。ヨシローの揺れの衝撃も背負っているわけだ。トーリスの滲み出す汗が尋常じゃない。
エーリスの言葉数が減った。納得がいかないのだろう。休憩を挟むことを提案した。
トーリスが水を含みゆっくり飲み込んだ。
トーリスの負担が厳しい。どっちも譲れないつもりだからだ。
「トーリス。僕が足手纏いなのは十分承知だけど、この調子でペロポマレアは無理だよ」
「では、お前がしっかりついて来い」
言葉の選択肢を間違ったのかトーリスの機嫌が悪い。
「トーリス。使者が来なかったということは急ぐことよりも、慎重になって行動すべきだと思います。体力をそこまで削ってしまっては、今奇襲を受けたらどう立ち回るのですか」
「そのために一刻も早くペロポマレアに着けばいいのですよ。今、魔獣や賊に出くわさない今が頑張りどころです」
道中は、確かに何事もなく安全にここまで来れた。行雲流水に探知が引っかかても二人の速度が、それらを置いてけぼりにするほどだった。
「無茶だよ」
「なんか言ったか?お前は口数少ないが愚痴っぽいな」
完全に不協和音だ。だが、急ぐよりもトーリスの回復を優先したいしペロポマレアに何が起きて何が待ち伏せているかも気がかりだ。
「もう少し行けば、また休むのに適したところがあります。今日はそこまでにしましょう」
「まだ目的の半分も進んでないじゃないですか。食糧の残りも僅かなのに」
結局、エーリスの提案通りに休むことにした。
「お前さえいなければ」
トーリスの不満が爆発した。
樹海を熟知していようが、危険もある場所である。イチ領主の大切な令嬢を、食事も満足にない湯浴みもできない寝床もない。従者として責任を感じる気持ちもあるのだろう。
くどくどと罵声を浴びながらもヨシローはトーリスに休むよう勧めた。
「いいか。お嬢に色目を使うな。ペロポマレアまでは何がなんでも最短で行く。頭に叩き込むには簡単なことだろう」
「わかります。色目も使ってません。触れてもないです」
従者というのは、ここまで芯のブレない使命を背負うのかと、ある意味戦々恐々とした感情を抱いてしまった。
日が落ちて、ヨシローは焚き火の種火を見ながら静かに考えていた。
実際、このままついていくべきなのか。
まだ先のことはわからないが、ペロポマレアは旅の目的地ではない。樹海を抜けること、その先はどこに辿り着くかは考えてなかったはずだ。
ペロポマレアの情勢は芳しくないようだ。本当についていくべきなのだろうか。
直立して眠る二人を見た。
姉さん。ヘイレンの言葉を思い出した。
(手を差し伸べる)
こんなに難しいことはない。
トーリスと視線が合った。
今日は見張りの交代はしないはず。ゆっくり近づいて来た。
「夜明けまで、あとまだ時間はあります。休んでください」
「お嬢を見てたのか?」
ヨシローは首を横に振った。
「ふん。少し代われ。一刻でも寝た方がいい」
「トーリスがもたないよ」
「わたしたち種族の回復力を侮るな。夜が明けたら自分で走れ」
逆らわずに、ヨシローは横になった。
「もっと離れて寝ろ」
エーリスとは距離を置いた位置に横たわったのに、まだ離れろと注意された。
そして、夜が明けた。およそ一刻は睡眠が取れたと思う。トーリスはなんだかんだで自分にも気を配ってくれる。状況が状況ならものすごくいい人柄なのだろう。
しかし、二人はいなかった。
カバンの中の干し芋だけが抜かれていた。




