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原始の樹海にて 2

「この先に、小屋がある。明日はそこまで行く。ゆっくり休め」

「人が住んでいるのですか?」

「いや。遺跡みたいなもんだ。雨風が凌げるから本来そこまでは走るつもりだったんだがな」

「詳しいですね」

「この樹海はよく行き来していたのでな」


この二人と一緒なら迷うことはなくなった。だが、スピードについていけるかが問題だ。


「お嬢のご厚意だ。わたしはまだお前を置いていく気でいる。一時でも早くペロポマレアに向かうからだ」

「善処します」


「小屋を過ぎると扇形に樹海は広がる。その先は多少危険が伴う。お前戦えるのか?」

冒険者気取りではないが、

「善処します」

頼りない迷子だ。やれやれといった感じでさっさと寝ろと催促された。


 朝靄の中。ヨシローは全力で走っていた。深い樹海の中、太陽の光がほとんど届かず視界はめっぽう悪いうえ、木々が進路を邪魔して行手を阻む。

それでも前の二人は先へと迷わずに走る。いったいどうなってるのだ。人馬の体格でスイスイ樹海という障害物を難なく走る様を見て、ただ唖然とするしかなかった。

余裕の表情で、後続するヨシローのため立ち止まっては走り出す。トーリスは浮かない顔だが、エーリスが必要以上にヨシローを気にかけていた。


 目的地の小屋に着く頃には、日はとっぷり暮れていた。ヨシローはその場に倒れそうになりながら

「お手数おかけします」

と息を切らして膝から崩れ落ちた。

トーリスからの小言が聞き取れないほどに心臓の音がうるさかった。


「変ですね。ペロポマレアからの使者と落ち合う予定のはずなのに」

小屋は樹海に飲み込まれ大地の一部と化していたが、中はそれなりに使えそうだった。建て付けはないが一晩過ごすには問題ない。


「遅れをとりましたからです。使者は帰られたと思うべきです」

トーリスは余計なモノを拾ったばかりにと言わんばかりにヨシローを見た。

「いいえ。有事の際も考慮してもらえてるはずです。使者の方には早めに来て貰えるではずでしたのに」


ヨシローは小屋の中を見回した。人が来た気配がない。外にも行雲流水の反応がない。

「誰かがいた跡もないですね」


「考えても仕方がない。今日はここまでだ」

「そうですね」

ここまで余裕で走って来たとはいっても、蓄積された疲労は残って重くのしかかるのだろう。


 ヨシローが先に外の見張りをすることを申し出た。

「よかったら、干し芋はまだあるから食べてください」

トーリスは遠慮なく受け取って、小屋に潜った。


 しばらくヨシローは昨日と同じように月明かりの下で、じっと森の木々の葉が擦れあう音を聞いていた。

こんなに夜がうるさいなんて思うことは滅多にないだろう。


「ヨシローさん」

エーリスがそっと、小屋から這い出てきた。

「見張りは自分たちがするよう聞いてます」

「ありがとうございます。少し話しませんか?」

エーリスは静かに蹄の音を立てないようにヨシローの側に寄って

「体力的にも、大変じゃないですか?」

ヨシローは首を一度縦に振ったが、ごまかすように横に振り直した。


「わたしは、その。何かあった時に戦える技量も心構えも養ってはおりません。トーリスだけではわたしを守りながら追っ手を払うことは厳しいと考えています。ヨシローさんは、その。高い魔力をお持ちなので」

エーリスがいうには、高い魔力のなにかに遭遇する

気配を感じて近くまで探ってみたら、小さな人間が丸腰で樹海を彷徨っていたのがヨシローだった。


 行雲流水のような高い感知能力ではなく、あくまで気配を感じたとのことらしい。ヨシローの魔力はかなり気取られるみたいで、エーリスからは魔力が漏れてる。という表現だそうだ。


「お嬢」

トーリスが会話を遮断するよう割って入ってきた。

「ヨシロー。触れるなと言っただろう」

エーリスを丁寧に引き離し、交代を促した。

「お嬢は中でお休みください。ヨシロー。お前は外で寝ろ」


しぶしぶと、エーリスは小屋に潜り込んだ。

「昨日釘を刺したはずだが」

トーリスの凄んだ目に、ただ首を横に振って誤解をとく身振りをするのが精一杯だった。


「やはり、お前とはここでお別れをするべきだ。と先程お嬢と話していたのにな」

トーリスは静かにうつむいた。

「使者の件。どう見る?」


沈黙はすぐに終わった。

「最悪の場面を想定しますね」

ヨシローはためらいがちに答えた。

「先手を打たれていればペロポマレアに向かうのは危険すぎるかもしれないですね」


「しかし、わたしたちはペロポマレアにしか救いの希望はないのだ。他に頼るとこもない」

トーリスはペロポマレアに辿り着けば、なんとでもなることを力説した。


「ペロポマレアの味方が、お嬢を見捨てるわけがない。きっと、代わりの使者を寄越すだろう」

トーリスは断言した。話しはここで終わった。

ヨシローは小屋の前で眠りに入った。


 朝が来た。二人はすでに起きていたが、なにか言い合いになっていた。

ヨシローはまた、置き去りにされるのかどうかという争いに巻き込まれているのかと思った。

置いてかないで。とも言えない立場だしな。困惑は絶えない。







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