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原始の樹海にて 1

「人間さん。やはり協力しあうべきだと思うのです。

少しお話ししませんか」

「わかりました。自分も同じ思いでした」

トーリスの顔色は賛成してなかった。


「トーリスとも話しをして結論したことです」

エーリスがトーリスを諫める目で見た。

「申し遅れました。ヨシローといいます」

「話しをわかっていただき、感謝します。まず、わたしたちが何者かをご説明いたします」


 トーリスは馬の背中に積んだ荷物の中から色々な道具を取り出した。

「とりあえず、腹ごしらえをしましょう。人間、ヨシロー。何か食べ物は持ってるのか?」

「干し芋があります」

「そうか。お嬢、我々も少し腹に入れましょう」

トーリスは干し飯を取り出して小さな鍋に水と一緒に入れた。

「すまんが、協力ついでに焚き木を集めてもらえないか」

ヨシローは二つ返事で焚き木に適してそうな枝を拾いに行った。


「わたしたちは、アルディアという地から来ました」

「ペロポマレアまでは遠いのですか?」

「そうですね。この樹海を縦断すれば、ですが」

樹海。森を抜けると平原が広がってるというのはなんだったのだ。語弊にもほどがある。


 この樹海を、原始の樹海と呼ぶそうだ。縦に長く続く広葉樹林は太陽を遮るほど生い茂る。

「原始という割に、低い植物も生い茂るのは不思議ですね」

太陽があたらない森の中で、腰の高さほどの植物や草があるのはおかしいとは思った。そして今この場所のようなひらけた土地があったりする。


「そうですね。樹海ができたのは500年ほど前と聞いてます。その当時には村もあったそうです」

「太陽のわずかな光を糧に生き延びたか弱い植物だと思ってくれたらいい」

すごいことだ。文明が荒んだ上に小さな植物たちが生え、さらに広葉樹が強者として君臨したということだろう。


「ちなみに今はどの辺りになるんですか?」

「ヨシローさんは人間の土地から横断して平原に出て亜人の住むこちら側に行くとのことでしたね」

「ならまだ十分の一くらいじゃないか」

途方に暮れる思いになった。

「わたしたちはアルディアから縦断するかたちですね」

「我々は、人間の住む世界の近くを進んでいる。亜人の住む側だと、やはり魔獣や野盗の類いが危険だからな」

「亜人の住む場所にも人間がいると聞きました」

「いるぞ。たくさん」


これだけでも、すごい情報だ。亜人と人間が共存しているのだ。村で人生を過ごしていたら知り得なかったことだろう。


「あと、ペロポマレアまでどのくらいですか?」

「三か月は見てたがな。お前を拾ったからもっとかかる。着いてくるならの話しだが」


「そして、ここからが大事な話しです」

エーリスとトーリスは顔を見合わせた。


「わたしはアルディアの。人間世界でいう領主の娘でした。そこで親族を巻き込む家督争いにあったのです。ずいぶん血が流れました」

お家騒動というやつだ。兄弟や親族で次期当主を争う話しは村にいた時も聞いたことがある。自分は無関係なのだからと聞き流していたが、大人たちは当主が誰になるによって暮らしに影響すると言っていた。

没落する者、重くなった税に苦しむ者、急に身なりが良くなる者。

ヨシローの村は影響はなかった。それは見捨てられた辺鄙な村だからか、村長やスレナ、修道士様といったしっかりした大人がいたからなのか。


「わたしは従者のトーリスと共に逃げました。ペロポマレアには父の友人や支持者がいますので、そこに身を寄せるつもりです」

「然るべき時のために力を蓄えて、再興するのがお嬢の役目。いや亡きお嬢の父上の宿願なのだ」

「わたしは、あの惨劇を見て静かに暮らしたいのですがね」

「お嬢!」


「ヨシロー。次はお前の番だ」

ヨシローは身に覚えのないことで役人に追われるはめになって村を出た経緯を話した。

「なんだ。犯罪人か?」

たしかに、何の罪で役人に追われているのかわからない。ただ背中を押されて旅に出たと言っても過言ではないのではないか。一応、無罪は主張した。


「同じ逃亡者繋がりですね」

エーリスが少し笑った。


 しかし、ヨシローはここまで来れば役人は追ってはこないだろうという自負があった。

エーリスたちは、家督を奪ったものたちからの追っ手が迫っていることは間違いないだろう。ペロポマレアに着くまでは安心できないでいるのだ。

自分がいていいのだろうか。


「そろそろ休みましょう」

トーリスはエーリスにシーツを肩に掛けた。

「いいか。わたしとお前で見張りを交代するからな」

「わかりました」


 真夜中。焚き火も消したあとなのに月明かりが眩しくて静かだ。行雲流水を断続的に発動しているが何も探知しない。

孤児院の子供たちは何を思うだろうか。

(ごめん。本当にごめん。もう戻れないんだな)

きっと、姉さんやスレナが冤罪を証明してくれる。そのとき僕は。静寂は人の心を弱くさせる。


 それにしてもシュールだ。馬だから立って寝てる。人の上半身は脱力しているが、本当に休まっているのだろうか。


 トーリスが目を覚ました。

「何見ている。珍しいか」

見張りの交代だ。トーリスは武人のようにキリッとしている。

「お嬢には、手を出すなよ」







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