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UNKNOWN 3

 スレナは剣を振った。魔獣の血飛沫が辺りに曲線を描くように散った。

その場に立ちつくし魔獣の亡き骸を眺めていた。もう魔力も剣を振ることも限界を超えていた。

魔獣からじんわりと魔素が滲み出し霧散するのを感じ取った。

スレナ自身もかなりのダメージを負っている。しかし、魔獣の生死を確認するまでは剣を降ろすことはできない。呼吸を整えた後、魔獣に近づきその手に触れた。死を確認したが


(こいつ、孕んでいるのか)

スレナの周囲の空気がザワッとした。

「つがいがいるのか」

しかし、もうこれ以上は戦えない。他の冒険者たちの安否も気にかかる。

今、自分の命と他の冒険者といるであろうつがいの魔獣を天秤にかけている。しばらく目を閉じたあと

「アンノウン」

と、つぶやいた。


これだけ派手に戦闘がおこなわれたのだ。冒険者たちはすでに食い殺されているか逃げたかだろう。加勢に来ず無事逃げたと思いたい。優先すべきは魔獣がもう一体いるという嫌な予感を拭い去ることだ。


 夜が明けた。修道院は慌ただしく朝を迎えた。

修道女たちも子供達も清潔な布、沸かした湯桶を両手に持って走り回っていた。

運び込まれた重症者はスレナだった。

森の中で魔獣と共に倒れていたらしい。一晩で大型の魔獣を二体、それぞれ別の場所で討ち取ったのだと村人達は噂している。


三日三晩。スレナの包帯を取り替え薬をぬり、体を拭き薬を飲まし、おも湯を口に流しこみ看病を勤めた。

朦朧としているがヘイレンたちを意識できたので、一応皆は安堵した。

回復の知らせは瞬く間に村中に知れ渡った。村人のなかには清潔な布や薬草など役に立つならと寄附してくれた者もいた。村が活気に湧きスレナの武勇伝に尾ひれ背びれがつき一人歩きしだした。

その影で、ヨシローも倒れ静かに静養していた。


 コンコン。

「入らせてもらうぞ」

スレナが返事を待たずにヨシローの部屋に入ってきた。掛けるところがなかったので、ヨシローのいるベッドに腰掛けた。一息ついて

「君はあの晩、どこに居て何をしていた?」

スレナはまだ完治していない。身体も思うように動かない。それでも尋ねたいことがあった。

ヨシローは黙って窓の外に意識をやり、ぼんやりと星を見ていた。

「あの晩、死者が14名。わたしを含め村に生還したのは6名。いまだ行方不明が3名」

スレナは心痛な面持ちで続けて

「今朝、目が覚めたら枕元に報告書の束がご丁寧に置いてあってな」

スレナがヨシローを見つめる。


「わたしがそこに辿り着いた時、すでに戦いは終わっていたのだ。これが何を意味するかわかるかい?」

ヨシローはスレナの言葉にうつむき、続きを聞いた。

「わたしは、力尽きて倒れていたんだよ。じゃあ誰が戦っていたんだ。君は同じ日に重症を負ったと聞いている。屋根から落ちたとか」

「…運良く打ちどころが悪くて」

ヨシローは嘘をついた。


「ヨシロー君。君が戦いに身を投じるやつではないのはわかっている」

スレナは立ち上がり部屋を出て行った。


自分が戦っている同時刻に、別の場所でアンノウンのつがいと戦闘があったのだ。明らかに自分ではないのは明白だ。そして、他の冒険者たちにこれほどの魔獣と対峙できるものがいないのもわかっていた。可能性としてのヨシローなのだ。手柄の半分はヨシローなのかもしれない。そう言って欲しかったのだ。


 解体屋。杖をついたスレナが様子を見にきた。

「なんすか?」

無愛想な従業員が包帯も取れていない痛々しいスレナを一瞥して言った。

「スレナさんじゃないか。親方下ですわ」

別の男が無愛想な従業員の肩を小突いて、ドアの方を指差した。

スレナはヨタヨタとドアを開け地下に続く階段を降りて行った。


「邪魔するよ」

「おお、来たか」

眼鏡をかけたガッチリした体格の初老の男が、近づいてきた。椅子を持ち出し、そこに掛けるよう促した。


アンノウンの解体はすでに終わっていた。解体屋のどこにも見る影はない。

「で、あれは何だったんだ」

「さあなぁ。一体は消し炭。中身もウェルダン。使える素材もねぇ。もう一体は見たことねぇから体の一部と全体をデッサンしたやつを調書つけて王都に送ったよ。残りは腐敗が酷いな」

「そうか」


野生でも家畜でもそうだが、屠殺後は血抜きや内臓の処理は早めに行わなければならない。魔獣の場合も魔素にあてられたなら通常より腐敗が加速するのだ。遺体の搬送や解体に時間と手間がかかりアンノウンは正体不明のままに終わった。


「どう思う」

親方はアンノウンの毛の一部を差し出し

「魔疽から生まれたんじゃねぇな。魔獣の中に魔疽ができたって線を推すんだが。その辺は専門じゃねぇ」

魔疽を自らの中に取り込む魔獣がいるだろうか。いない。それはわかっていた。魔疽という強大な力を制御できる器が魔獣にはない。あとは、別のはるか遠い土地から流れてきた新種の魔獣だろうか。未開拓の世界がまだこの先にあるのだ。想像は尽きない。


「今回の件は、大凶を引いたみたいだな」

「スレナ、あんたじゃなきゃ村は今頃なくなってたよ」

「しばらく、火のスレナは休業だ」






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