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UNKNOWN 2

 雨が降り出した。

魔獣は傷ついた身体を舐めながらも、身を引くことなくスレナに対峙した。戦意は失ってない。むしろ獰猛さに拍車がかかった。


(運がいいのか悪いのか)

スレナも同じ。長引く戦闘により疲弊はしているが戦意の喪失はない。

雨は強まり、そこら中の火種が鎮火されていく。山火事の心配はなくなった。しかし、辺りは暗がりに包まれ魔獣の位置を目認しづらくした。

月は出ている。すぐやむだろう。

詠唱効果が切れる。あと2〜3発、くらいか。


スレナは気付いた。ああ、こいつが魔疽なのだと。

いくつもの経験による考察から導き出した答えが、この魔獣から滲み出る異質な魔力と雰囲気により結論が結びつけられた。

魔疽に魔獣が寄り集まることは一般的だが、魔疽が新たに魔獣を生み出すのは稀である。また、魔獣自体が魔疽を取り込んだのかどうかは計りかねないことだ。

まるで動く災害である。


そして最悪なことにずぶ濡れになったスレナの疲労感は上限に達しようとしていた。またスレナの火魔法の威力も落ちる。

だが、魔獣も同じく急に身体を冷やされ動きが悪くなった。


魔獣の振り下ろす爪の斬撃をひとつふたつと剣で応戦する。まるで金属同士が打ち合うようにこだまし、反撃に転じても戦力は拮抗していた。

拮抗が崩れたのは一瞬の運だった。


スレナを追い詰めた魔獣が地を這うように噛みついてきた。一瞬怯めばスレナの胴体は噛みちぎられ、勝負はついたはず。運はスレナに味方した。

スレナは高く掲げた剣を深々と魔獣の舌を貫通して地面に突き刺すよう振り下ろした。

「ブレイズカラム」

とっさに身を引き、火魔法を放つ。至近距離で完全に命中した炎は勢いよく燃え上がり火柱を形成した。


炎を全身に纏い苦痛に身を捩りながらも抵抗する。

「終わりだ」

決着を確信したが、魔獣は無理矢理自らの舌を引きちぎって身構える。

「魔力切れ?」

スレナが火魔法を構えたが、手のひらでマッチが消えたあとのような寂しい煙を吹いただけに終わった。


雨が止んだ。

考えるひまはなかった。地面に突き刺さった剣を抜き、体制を崩しながらも魔獣に向かって走った。

グリップが火傷するほど熱いがためらってる場合でもない。ここで逃して別日に第二ラウンドなんてありえないのだ。ここで仕留める。

黒焦げになった魔獣も威嚇の咆哮をあげ、ここで仕留めるつもりだ。


 ヨシローは距離を保ちつつ反撃の機会を伺った。もう何度も魔獣の攻撃を受け、叩きつけられ全身の痛みに耐えながらもがき続けている。

行雲流水は常時発動。致命的な一撃はまだない。


魔獣は右に左に大きく飛び跳ね一瞬で距離を詰めて一撃を見舞ってくる。ヨシローが的を定めて魔法で攻撃できないでいる。翻弄されているのだ。


雨が降り出した。

辺りをいっそう暗闇が増し視界を遮る。魔獣はお構いなしに木を蹴り倒し、その反動で反対側に跳びヨシローの視界の外から攻撃を仕掛ける。行雲流水がなければ反応に遅れて背中から致命傷を受けるところだ。

しかし、防戦一方で隙ができない。ジリ貧のくじを引いたまま体力の消耗を免れないでいる。 


魔獣の蹴り倒した木は一本やそこらではない。魔獣の爪が、牙が周囲の木々を薙ぎ倒し獲物を取り囲むようヨシローを逃がさないでいた。魔獣の罠が完成しようとしている。


ヨシローはひたすら攻撃をかわし転げ回り、倒木に進路を妨害され、魔獣の執拗な追跡に翻弄されていた。

そして、一瞬の判断をまちがえれば魔獣の餌食になる。かわしたと思った矢先、魔獣の牙はヨシローの服に引っかかりヨシローは右へ左へ振り回され宙に投げ出された。


ヨシローの身体は森を抜け、森の上へ上へ放り出された。投げ出された勢いに身体が強張り、頂点に達した瞬間落下の勢いにのまれた。空中で上体を捻り落下地点から一直線に迫り来る魔獣を確認した。


魔獣の跳躍力は凄かった。ヨシローを勢いのままに頭上に高々と放り投げ、溜めをつくった瞬間ヨシローを追いかけるように跳躍した。ヨシローは重力の影響で身動きできないでいる。そこを狙って牙を剥きだし襲いかかった。


「水撃」

ヨシローが左手を構え、咄嗟に水魔法を撃った。

一直線に高速の水の弾丸が魔獣を捉えた。が、わずかに外した。

一直線で放たれる水撃は左右にフェイントを織り交ぜて襲ってくる魔獣には相性が悪いが、今魔獣は一直線にヨシローめがけて空中にいる。ヨシローは機会をつかみ損ねた。


水撃は魔獣の身体を撃ち抜いたものの、致命傷には至らなかった。このまま魔獣をさらに怒らせたまま激突するのだ。

ヨシローは右手に携えた解体用ナイフを魔獣の鼻に突き立て、一緒に地面に落下した。


雨は止んでいた。

魔獣がクッション代わりにになったものの、打ちどころが悪かったのか上手く呼吸ができない。這いずってでも今は魔獣から距離をとり好機をうかがわなければならない。


「詰んだ」

魔獣は周囲の木々を薙ぎ倒していた。もう倒木を乗り越えれるほど足腰に力が入らないし、逃げ場がない。

ヨシローは木に背中を預け魔獣を見つめていた。

魔獣は唸り声をあげ鼻に刺さったナイフを払うと、身震いをしヨシローを睨みつけた。


ついに、エサが弱った。ゆっくり頭をかじってやろう。という魂胆なのだろう。ヨダレを垂らしエサに向かってまず匂いを嗅いだ。一応警戒はする。鼻から少し血が流れた。舌で舐めとる。

獣の本能でエサにありつきたい欲に駆られている。


ゆっくり近づいて、今度は触れる距離でヨシローの匂いをスンスンと嗅ぐ。弱ってる、食べごろだ。口を大きくあけた。

「水撃」

全力でありったけの魔力を込めた。

ヨシローはやっとの思いで反撃の機会を掴んだ。





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