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UNKNOWN 1

 ゴリゴリと頭骨を噛み砕く様を見せつけられ、他の冒険者が戦意を喪失していた。

咀嚼し、ゴクリと音を立て飲み込み、舌なめずりをし、こちらの動向を伺っている。

完全に捕食者の目でスレナたちを捉えている。


(頼むから足を引っ張るなよ)

と願うスレナの後ろで怯えた冒険者がスレナに近づき肩を持とうとした。スレナを盾にする気だ。意識を魔獣に集中しているスレナは動けない。スレナはヒヤリとした。


突然、魔獣が威嚇の咆哮をスレナに向けた。空気がビリビリと震えた途端、冒険者は魔獣に背中を向けて走り去った。

魔獣が前脚を一歩、大地を踏み締めるとスレナは構えを変え迎撃するために息を整えた。


 ヨシローは子供達の安全を確かめたあと、外に出た。修道院は門扉がない。魔獣に対する防護柵もない。石造りではあるが魔獣に対しては心許ない建物である。

行雲流水の範囲も建物をカバーできるほどの大きさではない。ずいぶんと索敵能力の精度は上がっただろうがそれでもヨシローは心配する。救いは村の開拓予定地の反対側に修道院があることだ。

安全とはいえないかもしれない。と、思いがヨシローの頭によぎる。


ヨシローは自室に戻り、念のためにと解体用のナイフを手にした。

遠くの森の中で魔獣の遠吠えが聞こえる。

村の冒険者が一人もいない。狩りの真っ只中なのだろう。


森の奥から悲鳴をあげるかのように鳥が飛び出した。

(あの下で魔獣と戦っているのか)

夜の闇の中、凄まじい炎の渦が天にも届くような勢いで燃え盛った。

(スレナが戦っている)

スレナがいるから、あの位置なら村からだいぶ離れているから。安心した気分なはずだが不安がよぎる。

ヨシローは心臓をバクバクさせながら遠くの火柱を見つめていた。


ヨシローは仮設テントへ向かって走り出した。冒険者を探すため。念のため村を自衛する人が残っていてくれているのか。それだけ確認するため走った。


「誰か」

仮設テントには誰もいなかった。

森の奥。火柱は消えていた。木々が焼けたのだろう。暗闇に黒い煙が立ち上っていた。

「村の人かい」

仮眠室にあてがっている小屋から、男が一人出てきた。装備もつけず眠たそうに

「家で避難しとけよ。警鐘も聞いたろ」

ヨシローは怖気付いて一歩下がった。

「魔獣が入ってきたら、俺がやってやるからよ。家に帰んな」

ヨシローはうなづいて修道院に向かって歩き出した。


 黒煙が上がっている、その少し離れた場所で先程と同じくらいの火柱が爆音と共に燃え盛った。

ヨシローは振り向いて炎を見上げた。

眠たそうな男が無言のまま片手でしっしとヨシローを追い払った。


ヨシローは再び歩き出した。眠たそうな男を撒くように民家のかげになるところで立ち止まった。


 王都のような大都市は街全体を囲む城壁があるが、こんな辺鄙な村には簡易的な柵しかないため、どこからでも魔獣は飛び越えて来れるのだ。このような非常事態で眠たそうな男が武器も持たずに落ち着いていることが異常事態なのだ。


ヨシローは意を決して、村を囲む柵までやって来た。

無理はしない。ヨシローの立つ場所は柵の内側。ひらけた視界ではあるが、夜という時間帯に緊張感が走る。しばらく柵の外、遠くを見つめていた。


 目が合った。森の中から光る二つの目玉らしきもの。姿形はわからない。

ヨシローは目を背けないでいる。見失ってはいけないと判断したからだ。

行雲流水の射程距離外。せめてどんな魔獣かわかれば、わかったところでどうにもならないが。戦う選択肢?水斬り?魔獣との戦闘経験はない。ヨシローの頭の中はグチャグチャだ。


ただ、ヨシローは視線を外さず、柵を乗り越え前に慎重に一歩ずつ進んでいた。


魔獣はヨシローをエサと認識すると、ヨダレを垂らし静かに後退りした。ヨシローを森の奥へいざなうようにヨシローの歩みに合わせて、自らの姿を見失わせないようにヨシローを誘い込んだ。

ヨシローは気づかないまま、解体用ナイフを握り締め慎重に間を詰めた。魔獣の罠に嵌められたことに気づかずに。


魔獣は森のひらけた場所にヨシローをいざなうと息を荒くして舌なめずりした。ヨシローは立ち止まり月明かりに照らされる魔獣の姿を初めて確認できた。

白く艶やかなフサフサした毛並みに金色の目。狼獣の亜種ではない。解体屋でも見たことがない別の個体だ。


猫が獲物を叩くようにヨシローを攻撃した。行雲流水の射程距離内だ。高い感知能力に加え回避もできる。ギリギリでかわせた。身体能力が人並みより少し上くらいなので足がすくんだら終わりだ。

そして違和感を感じた。この魔獣の持つ魔力がとんでもないことになっている。

「水撃」

高速の水の弾丸が魔獣の首をとらえた。に見えたが身を屈めてかわされた。しなやかで俊敏に回り込む魔獣は優位な位置で身構える。


違和感。多分、きっとそうだろう。この魔獣自体が魔疽なのだ。

魔獣の討伐が終わらないわけだ。魔獣の数を減らしても減らない。魔疽が特定できずあぐねいている日が続き皆が疲弊している。魔疽が移動するのだ。狡猾に。

しかし誤算なことにヨシローはその辺の事情を知らない。





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