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火のスレナ 5

 スレナは心の奥底に追いやった感情を引き寄せる思いになった。


「スレナ。人の手が足りないんでしょ」

スレナは眉間にシワを寄せてリオットを睨みつけた。

「私、役に立つよ。冒険にも連れて行ってよ」

「リオット。何をした」


リオットはフードを外し

「なんでもする。私そこそこ強いんだよ」

スレナはリオットの目を見た。生気を失っているというほど堕ちた人間の目をしてた。

「リオット」

「スレナは私の憧れなんだ。一緒に冒険して…」

「リオット」

「スレナみたいな英雄になりたいんだ。弟子にして。雑用からでも大丈夫。すぐ追いつくから」

「リオットー!」


スレナはテーブルに握り締めた拳を叩きつけ、リオットを黙らせた。食べかけの食器がひっくり返り、落ちた食器がカラカラと余韻を残すように音を立て鎮まった。

店内も静まり返り。固唾を飲むようにスレナたちに注目する。


ガシッとリオットの左腕を掴んだ。そのまま力強く高く上げ

「これはなんだ」

スレナが低く押し殺した声で問う。

手首から先を失い包帯を痛々しく巻いたリオットの顔は苦痛にひきつっていた。


しばらく無言が続いたあと、スレナは手を乱暴に放し飯屋にお代を置いて出て行った。


リオットは。スレナが消えたあともその場に立ちつくし左腕の猛烈な痛みを残った右手で押さえ床に屈した。リオットがありったけの声で叫んだ。


 リオットの件があった日から、空間の歪みがなくなっていた。黒く短く刈り込んだ頭をかきながらヨシローは森の中で立ちつくしていた。

歪みは世界中を漂うように移動すると言っていた。きっとそういうことなんだろう。

気まぐれでも授かった魔力の使い方だ。間違いのないようにしなくてはいけないはずだ。リオットたちにしたことは正しかったのだろうか。いまだに手が震える。


ヨシローは変わらずの日々を過ごしていた。ただ、静かに暮らしていた。

あいかわらず、村は開拓事業で忙しく外からの人間が行き来して慌ただしい。さらに魔獣が出没するとかで、新しく始めた魔獣の解体と素材の回収の見習いを始めていた。酒場の出禁は解けていない。


夜、ミトンを作業台の上に置いて解体用のボックスエプロンを脱いだ。魔獣の皮をなめしたものだが無骨なつくりでかなり重い。

肩を回しながらコリをほぐし、親方に挨拶して作業場を出た。慣れない見習いとはいえ、こんなにも大変な作業なのか。


修道院に戻ると静かで暗い聖堂で祈りを捧げた。

「ヨシロー」

ヘイレンが蝋燭を片手にやってきた。

しばらくお祈りをしたあとヘイレンに向き合うように立ち上がった。

「あなたが、真摯にお祈りを捧げるようになったのはいいことですが」

「姉さん。僕は、こんなことしかできないんだよ」

「あなたが思いつめると、下の子たちが…」


真夜中、けたたましく警鐘が村全体に鳴り響いた。ヨシローはベッドから飛び起きると、子供部屋に向かって全力で走った。

「ヨシローにいちゃん」

無事を確認すると抱き寄せて

「大丈夫。怖くない」

何度も言い聞かせた。

外で村人が魔獣の襲来を叫びまわっている。


村中で戸締りを再度厳重に確認してさらには扉や窓にテーブルやタンスをバリケード代わりに置いて息を潜め続けた。ここ最近頻繁な光景だ。

魔獣の討伐と出没が比例しない。


警鐘が鳴り響く下で、冒険者たちが各々に松明を手に武器を取り、我先にと討伐に出向いた。

個々が一攫千金を狙った冒険者の寄せ集めなのだから編隊を組むも、連携をとるもへったくれもない。

スレナが仮設テントに現れて見回すと、指示を仰ぐのを待っていた少数の冷静な冒険者たちだけが残っていた。

「狼獣か」

野生の狼より大きいが群ることと夜行性であり村の敷地に平然と侵入することもある厄介な魔獣である。

「アンノウンです。大型の魔獣としか確認取れてません」

「単体で村に接近するのを確認しました。見張りが弓で威嚇しました」

「森の中か…」

夜の森はまずい。夜目が効かない人間は不利だ。松明を携えるだけで的になるのは明白だ。


何度もこのような場面には遭遇したが不利な状況に迷い込むことはなかった。

アンノウン。未知の魔獣というだけで冒険者の心をくすぐったのだろうか。


この世界には月が3つある。重なるような連星で月明かりは夜道を照らしてくれる。しかし、森の木々はその明かりを遮ってしまう。完全に不利なのだ。


「仕方がない」

スレナがそう言うと、冷静な冒険者たちは武器を取って魔獣を追いかける準備をした。彼らも手柄を立てたいのだ。


アンノウンは人や家畜を襲おうとしたのだろう。弓で威嚇したくらいで森の中に隠れたわけでなく人間が追ってくるのをわかっていてワザと森に身を隠したのだろう。エサが自らやってくるわけだ。かなり狡猾な魔獣だ。


森の中に進むとワザとらしく木に爪痕を残し、おびき寄せている感じがした。

「たいした、おもてなしだな」

スレナたちは早めに森の中でもひらけた場所に陣取った。


少し離れた場所で魔獣の遠吠えがした。が、すぐにスレナは剣を抜き身構えた。茂みがガサガサ揺れたあと大型の魔獣が勢いよく現れた。

「すばしっこいヤツだな」

スレナが魔獣の間合いを図ると、後ろで冒険者が詠唱を始めた。

「バカっ。敵が現れてから詠唱するやつがいるか」

スレナが飛びかかる魔獣に一閃。攻撃をヒラリとかわした魔獣は着地する前に詠唱者の頭をかじりとって余裕で凌いだ。




 



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