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火のスレナ 4

 酒場は静まり返っていた。酒場の店主が耳をほじりながら怪訝そうにホールをぼんやり眺めている。


陽が沈み、月が3つ高い位置に鎮座し、刻一刻と時間が過ぎる。いつもは賑やかな酒場も異常事態の空気を孕んでいた。店はやっている。客が威勢よく入ってくる、肩を落として踵を返す。一人の客が凄みを増して人を寄せつけないでいる。


スレナは待っていた。リオットでもいい。ヨシローでもいい。嫌な予感は的中するものだ。

二人の確執も知らないわけではない。二人が幼かった頃は子供同士の喧嘩だとばかりに大人を振る舞っていた。だが今は大人の問題に昇華している。それでもいちいち首をつっこむわけにはいかないのだ。スレナの立場が日々忙殺されているのもある。スレナは自身が逃げていたことを痛感した。


夜が明けた。割れたガラス窓から朝日が差し込んできた。店主は腹を出していびきをかいている。

スレナはじっと動かない。


昼頃、陽が天高く昇りようやくスレナは酒場を出た。

酒場の店主はカウンター越しに天井を見上げ緊張感と苛立ちを混ぜ合わすかのように大きく息を吐いた。

それからは何事もなかったように徐々に酒場特有の下品な活気が戻ってきた。そんな日々が続きあのスレナの異様な雰囲気と沈黙の圧迫感を話題にあげる者はいなくなった。


 村の防衛ラインの外側、さらに奥地。

森の木々の高さを超えるほどの火柱がそびえた。

火の魔法の使い手はスレナ。瞬時に新手の魔獣が襲いかかるもスレナの剣の一振りに業火の如く火魔法が魔獣を返り討ちにした。

散開してスレナたち冒険者を有利に取り囲んだはずだった魔獣の群れは散るようにして逃走した。


「スレナさん。森の中で火魔法は危険ですって。もっと出力抑えてくれませんか」

剣を納めてスレナが言う

「ギリギリに抑えてはいるんだ。こっちの被害はないだろう」

周りで他の冒険者たちが自らの外套や上着を脱いで消化活動を行なっている。火の粉を追いかけあっちだ向こうだと走り回って火元をはたき、あわあわとしていた。

「山火事にでもなったら、俺ら死んじゃいますよ」

「そこまで大袈裟にはならんだろ」

スレナはまた別の冒険者から水筒を受け取りラッパ飲みで一口もらい、広げられた地図にバツをつけた。


「何ヶ所かに当たりをつけてみたが、ここもハズレだな」

「いったん、引き上げましょう。もう一度作戦を練り直すべきです」

スレナは任せると地図をたたみ冒険者の胸に託した。

「撤収だ。全員に伝令」


 この世界には魔疽というものがある。魔力には魔素と呼ばれるもっと根源的なものがある。それは空気中に漂い存在するものだ。しかし、それが吹き溜まると魔獣の類いが引き寄せられるように集まってくるのだ。この邪な魔素の腫れものを魔疽と呼んでいる。

魔疽が溜まりやすい廃墟や洞窟などをダンジョンと呼ぶ。

ダンジョン内の魔疽に引き寄せられた魔獣たちはそのままダンジョンを縄張りとして、滅多なことでは外には出てこないが、スレナたちが探しているのはダンジョン外にある魔疽の探索であった。地表に魔疽があるということが村にとって脅威となり得るのだ。


ここ最近、村の近くで大型の魔獣や群れをなす魔獣など多くの種類が確認されている。他所から冒険者が流れて来ている今が手の打ちどころなのだ。しかしまだ人の手が足りない。


「増援の嘆願書はどうなってる?」

「領主様には届いてるはずです」

村を運営する身なりの上品な男が答える。

スレナは村長を見た。

「修道士様も尽力してくださってる」

「国に動いてもらいたいものだが」

「騎士団を動かすと?大規模ですね」

村長は深いため息をついた。一村長にそのような権限はない。そして身なりの上品な男は事態を軽視している。

スレナはバツのついた地図をテーブルに広げて

「この短期間で14ヶ所、目星をつけて魔疽を探したんだ。これだけ広範囲で探索にあたっても見つからないんだ。ローラー作戦くらい想定するべきだ」


話しは進まないまま終わった。

神妙な面持ちでスレナは自分の部屋に引きこもった。しかしすぐに部屋を出た。

(ダメだ。独りになると余計なことばかり考えてしまう)

仮設の作戦会議のテントに向かった。冒険者たちも疲弊していた。装備を脱ぎさりうなだれる者。地図の周りに集まり議論を重ねる者もいた。スレナは任せると言って丸投げしてきたのだ。そこに入ってしまうと緊張感が走り、兼ねていた休息の意味もなくなってしまう。一人の冒険者がスレナに気づいたが、スレナが気にしなくていいと軽く手を挙げて仮設を後にした。


 飯屋の方へ足を運んだ。心の片隅でリオットとヨシローのことがずっと引っかかっていた。何も音沙汰がない。リオットは消えた。ヨシローは変わらず修道院で働いているらしい。

飯屋のドアを開け、店内が一同にスレナに視線を向けたが、無視を決め込み片隅のテーブルに着いた。パンと豆のスープ、エールを頼みおとなしく店内の喧騒に耳を傾けていた。悩みの種は尽きない。


 外套に身を包みフードを深く被ったリオットが現れた。リオットはスレナを見つけると真っ直ぐ歩んで間近に立ちつくした。



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