火のスレナ 3
森が騒がしくなった。この辺の鳥たちが一斉に逃げだすように飛び立った。
ヨシローが森の茂みから抜け出してきた。
リオットが唾を吐いて
「クソが」
どうやったかわからないが手下二人を上手いこと撒いてきたと思ったのだろう。
「立ち回りが上手くなったみたいだな」
スレナは私を見てくれない。こんなにスレナを尊敬してるのに。話しかけても相手にしてくれない。私の声が届かない。ここにいるのに、スレナの隣に立って一緒に活躍するはずなのに。一生懸命頑張ってきたよ。魔法はね、スレナと同じ火の属性。最高にカッコイイでしょ。スレナは私を見てくれない。
こいつはヨシローってやつ。変な名前。スレナの前で怖気付いてオドオド身を隠すやつ。暗い顔して一日中疲れても働いてる根暗。
なんでスレナはこいつが気になるんだよ。私を見ろよ。私だけを見ろ。
リオットは自分の中に芽生える殺意が抑えきれなくなった。
「お前を丸焼きにしたら、修道院も燃やしてやる」
「水斬り」
ヨシローの右手が空を払った。直後リオットの左腕がスパッと切断された。ボトリと落ちた左手の魔法の火の玉が生気を失うかのようにチリと消えた。
リオットは何をされたか一瞬わからなかった。唖然として声も出なかったが無くなった左手の切断面から勢いよく血飛沫がドバドバと溢れかえった。
痛みと恐怖に支配されて絶叫した。出血を抑えることもできず気を失って前のめりに崩れて倒れた。
スレナは静かに目を閉じていた。
何度も思い返す。そして何度も自責の念に囚われる。
その日も魔獣討伐、毎日毎日魔獣を討ち取って精神的にも肉体的にも疲労のピークに達していた。
こんなに魔獣が群れることは滅多にない。小型の狼獣だが狡猾なやつで、雨の日だろうと夜中だろうと朝方だろうと警備が手薄になると隙を突いて村の防衛ラインを超えてくる。それが何十頭も数の暴力で襲ってくる。警鐘が鳴るたびに疲弊した体に鞭を打って討伐に出た。
多分、その日は限界を超えてしまったためいっ時の休息をもらった。と思う。警鐘が鳴れば剣を構えるつもりだった。装備ははずさなかった。
神経が研ぎ澄まされた感覚だった。いや、剥き出しになった感覚がわたしを追い詰めていた。ただ思考が完全にバグっていた。
わたしは剣を抜いていた。
「しまった」
わたしは何をした。後ろで気配がした。それだけだ。何を斬るか見定めてない。恐ろしくなって振り返った。
子供が顔を押さえて倒れていた。食事を運んでくれたのだろう。食器も中身もぶちまけてしまった。鮮血が広がっていく。わたしは慌てて助けてを呼んだ。必死になって子供の傷を押さえて、誰かが来るまで助けを呼んだ。
わたしは何を斬ったのだ。疲れて休んでいたところなのに何故斬りつけたのだ。思うに魔力を感じたはずだ。無邪気な魔力。ヒトは微量でも魔力を宿している。わたしが斬ったのは異常なほどの魔力量を持った幼いヨシローだったのだ。




