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堕天使

 いつもならヨシローの前に膝をつくフィムが、つま先が地につく寸前のところで仁王立ちしていた。


「こりゃ、偉え客人だな」

ツヴェルクが身構えた。

「マジかよ?初めて見た」

スクナが槌を武器のように握りしめた。ハジカミが気合いを入れて炉に火を焚べた。


「へえ、あれが堕天使」

ノラは余裕で好戦的に受け取った。


「竜に精霊、ドワーフ。獣人もいる。ヨシロー様のカリスマの賜物ですね。恐れ入ります」

フィムは意に介さず話しを持ち掛けた。


「ヨシロー様とお約束したのはそれではなく、星辰の宝珠のはずですが、気が変わりましたか?」

フィムとヨシローが目線を交わした。


「ごめん。これはケルンの意思なんだ」

「ケルンの復活を拒否すると?」

フィムの目ヂカラが鋭く刺さる。

「ケルンは君と話したいんだ。君は一方的だよ。ケルンの声を聞いてあげて。勝手に漆黒の闇に染まり勝手にケルンを案じる。ケルンの気持ちを考えたこともなく、ケルンから逃げてる。ケルンは君と会うためにあえて漆黒の闇に染まろうとしている。お願いだよ。ケルンと話すんだ」


フィムはしばらく黙って考えた。

「ケルンがわたしと何を話すんだ?嫌味の一言が言いたいだけで堕ちると?くだらぬ。生きて、美しい世界で歌でもうたいながら暮らせばいいものを」

「違うよ。きっと違う。君のほうがケルンのことをたくさん知ってるじゃないか」


「では、わたしを滅ぼすと?」

「それも違う。ケルンのことをもっと真っ直ぐ見てあげないと!」

「…いいだろう。待ってやる。ケルンに伝えてくれ」

(そうだ。わたしはケルンと真っ直ぐ目を見て話しをしたことがあっただろうか?闇に染まる前なら。いや、なかったかもしれぬ)


フィムは姿を消した。

「ヨシロー様」

リタが側に来てくれた。

ノラはフィムの匂いを辿ろうとしたが、痕跡はなかった。


「まったく、とんでもないヤツだな」

ヴィヒテルが腰を抜かして座り込んでいた。

ヨシローが平謝りした。


「おおーい!機械が一瞬止まっちまった。大丈夫か?」

カザードが駆け込んできた。みんなの視線を集めてしまい、なんだか照れていた。


「旦那さま。ケルンの復活は?」

「それがどうすればいいかわからないんだ」

ケルンの欠片と重ねても何も起こらず、何か儀式的なものが必要なのかも分からなかった。

しかし、不完全ながら一度だけ目の前に現れた事実がある。



「もう行くのか?」

ツヴェルクが言った。

「セシリアさんも待たせてるので」

ヨシローが金貨を渡した。剣の代金の請求はされてないが一応ということだ。


「近道を教えてやろう。ついてこい」

ツヴェルクの案内の元地上に向かって行くことになった。

「なんだ、あるんじゃん」

ノラが言った。

「わざわざ遠いとこから来るから、物好きだと思ったぞ。俺たちだって地表に出ることはある。あんな長い道のりをしょっちゅう歩くなんて膝に支障がでるわい」


 地表に出ると、リタは新鮮な空気を吸って、陽射しの眩しさに安堵感を覚えた。

ヨシローもそれに倣った。

「少しの間だったが、刺激的だったぞ」

ツヴェルクとの別れの時がきた。


 ノラが竜化し、背中に二人は乗った。

セシリアが小さく見えるが両手を振っているのがわかった。

「おかえりなさい」

二人はノラから飛び降りてアグネスの元に駆け寄った。

「ノラ。人型に戻って!」

人型になったノラはセシリアに抱きついた。

「やあ、会いたかったよ。セシリア」


その日は、セシリアにドワーフたちとの交流や堕天使とのやりとりを楽しそうに話しをした。

「ノラさん、今日はずいぶん甘えんぼさんですね」

ノラはセシリアの膝枕で寝ている。

「ノラにとって刺激される出来事だったのだろうね」

ヨシローとリタも焚き火を囲みながら束の間の安らぎを覚えていた。


(ヨシロー様、二人になれますか?)

ヨシローの脳にケルンが語りかけた。


焚き火の火が消え、皆が寝静まった頃を見計らい、ヨシローは起き上がった。

セシリアと目が合った。セシリアはニコッとしてどうぞと手で合図した。

ヨシローは静かに森の中に消えて行った。


 光が仄暗く揺れてケルンが姿を現した。

「どうやってケルンを復活させたらいいのか迷いました」

「申し訳ありません。堕天使が一人いるだけで尋常じゃない様子だったので、ヨシロー様と二人になれるよう計らいました」

リタもノラも微かだがケルンの黒に染まりそうな魔力を感じてないようだ。

以前会った時のようにところどころ人でない、機械じみた姿をしていたが。その顔つきは生を失い感情がどこにあるのかわからない雰囲気でいた。

目線はすでに定まっていないが、ヨシローに対して膝をつき礼を尽くしていた。


「本来ならば、わたしはこの朽ちた身体が赦す限りヨシロー様に仕えなければなりません」

「わかっているよ」

ヨシローはケルンの気持ちを察していた。

「二度と戻れないかもしれません」

「そうなんだ」

「恩を仇で返してしまうことにお怒りになるのでは?」

「その時になったら考えるよ」

ヨシローはケルンが発言するたびに頷いた。


「汝、我が魂の楔を解き、汝の心のままに往け」

ヨシローが命じた。なんてね、と格好つけて言ってみた。

「仰せのままに」

ケルンの身体が斑らに漆黒に染まっていく。

ケルンは貫手でヨシローを貫いた。

心臓を貫いた手には楔が脆く崩れ散った。

「これをヨシロー様のために置いていきます。役に立つかどうかわかりませんが」

ケルンは自分の小指を引きちぎり置いて行った。


異様な翼が完全に開ききりケルンは天へと昇っていった。







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