廃石島 4
「大昔にな、ここでミスリルが採れたんじゃよ。そのせいでこの山は一気に繁栄してな、世界中から武器の制作依頼が舞い込んでの。その頃には道ができ村ができ、大繁盛したのよ。ドワーフももっといたかな」
一汗かいて水をゆっくり喉を潤おすように飲んだ。
「ミスリルはの、当時勇者と呼ばれた奴のために槍を一本作ってやったのじゃ。ミスリルはあれ以来少しも出んくなったのじゃ。代わりに他の鉄や鉱石は取れるんでな繁盛はつづいたんじゃよ。今はご覧の通りじゃ。他の仲間は何処かの鉱山に移り住んでしまってな。俺たちだけになっちまったのよ」
「鉄すら採れん。一気に冷めたんじゃ。それまであった交通網、村がなくなりここが陸の孤島と揶揄されてしまっての。他所と完全に隔絶されバカにするように廃石島なぞ呼ばれるようになったんじゃ」
ツヴェルクは再びツルハシを手に取った。カーン、カーンとツルハシが掘削する音が鳴り響いた。
ヨシローたちもツルハシを再び手に取った。
「工房が壊れるだろ」
スクナが槌で二人を小突いた。
「名乗りな。お前の名、覚えといてやる」
「ノラだ」
「サラマンダーのハジカミだ」
「野良だな」
「山椒だな」
このやりとりを聞いた途端スクナがもう一度槌で二人を小突いた。
工房の扉が勢いよく開いた。ツヴェルクが泣き叫ぶ。
「出たぞぉー!」
手には鉄鉱石があった。
「ツヴェルク!やったな」
スクナは喜んで鉄鉱石を譲り受けた。
「少し日数をくれ。まずこいつから鉄だけを取り出さなければならないんだ」
「これだけで足りますか?」
リタは心配そうに言った。
「なあに、要らん剣なんかも溶かして精製し直す。問題ない。ハジカミ、ちょうどいい最高火力で頼む」
「まかせろ!」
ハジカミは炉の中に飛び込んだ。
「ヨシロー様、今のは」
「精霊だったね。火の精霊は初めて見た」
「ウンディーネ様を思い出します」
「嬢ちゃんたち精霊王に会ってるのかい?じゃあ本気を出さねえとな」
ハジカミの気合いは充分だ。
「今からここは灼熱だぜ。出て行きな」
スクナが全員追い払った。
しばらく、ヨシローたちはここに滞在することとなった。リタは素振りの稽古を一人で行っていた。
ノラは食っちゃ寝を繰り返していた。
ヨシローはツヴェルクについて歩いていた。
「ずいぶんボタ山があるんですね」
「掘り尽くしておるからの。石炭は稀に出るが、鉱石はとんと出なくてな。閉山も考えてはいるんじゃが、どうも住み慣れてな」
ボタの海と言えばいいのだろうか。案内された地に到着した。
「ただの石ころ、ボタだらけじゃ。昔ここに漆黒の廃魂を捨てたはずじゃがな。どれがそれかはわからんがどうする?」
「探してみます」
ヨシローは深々と頭を下げた。
ヨシローはボタ海の上に降り立った。試しに石ころを拾ってみた。ただの石ころだった。
(さあ、導いてくれ)
ヨシローはカバンの中に手を入れケルンの欠片を握り締めた。
ボタ海の中央が渦巻きガラガラと石ころが吸い込まれていった。
「ヨシローどの?」
ツヴェルクが危険を察知するが、ヨシローはとめた。
石の渦に巻き込まれながら、バランスを崩さないようにゆっくり、渦の中央に向かって行った。
ボタ海の水位がかなり下がったところで渦の中心が光出した。
ヨシローはケルンを離さない。緊張してきた。
ボタ海の渦は止まらない。どんどん吸い込まれていく。
さらに水位が下がり中心の光が天に向かって光の柱を作った。渦は止まらない。
ヨシローは中心に向かって走りだし、渦の止まったところで、光の正体を探し始めた。両手でボタを掻き分け光る石を手に取った。
「漆黒の廃魂?」
ツヴェルクはそれが光ることを知らない。ヨシローの元に駆け寄ってまじまじと石を見つめた。
「その石は、すぐカバンにしまっておくれ。なんか、こう、寒い。ヒトが持ってはならぬ光を感じる」
小声で震えながらツヴェルクは目を逸らした。
ヨシローは言う通りにした。
「これでお前さんも厄介ごとから解放されるじゃろ」
ツヴェルクが落ち着きを取り戻して言った。
「旦那さまー!リタの剣が出来たよー」
ノラが走って来た。
「なんかすごい魔力だったな。旦那さまの件も片付いたみたいだな」
「戻ろう」
ツヴェルクが言った。
「よお。待ってだぜ」
ヴィヒテルがヨシローにグラディウスを渡した。
最初に受け取ったときよりも意匠が施され細かな部分で調整が行き届き扱い易くなっていた。
「嬢ちゃんのもいい具合だ。会ってやんな」
工房に入るとリタが新しい剣を試していた。
「おお、いい塩梅だぜ。久しぶりに腕がなったよ」
スクナが槌を担ぎ満足気だ。
「ありがとうございます。すごく手に馴染みます」
リタが感謝した。炉の中でハジカミも頷いていた。
「どうした、ハジカミ?」
突然炉の中の火が消えた。ハジカミが首を振って俺じゃないと叫んだ。
黒い羽がヒラヒラと舞い落ちた。
黒翼の堕天使フィムが舞い降りた。
その威圧感に耐えられない者はいなかったが警戒心は上限に達していた。
「お久しぶり振りです。ヨシロー様」
フィムの様子がおかしい。




