廃石島 2
「小柄なドワーフにしては広い造りだな」
坑道は下へなだらかに傾斜しヨシローたちを誘った。
魔獣の出るダンジョンと違い歩くペースは順調だった。
「灯りに金網をしてるのは何故ですか?」
至るところに掛けられている炎を目の細かい金網が覆っていた。
「デービー灯だよ。酸素を摂り入れて燃えるけど熱を出さないようにするんだ。炭坑内のガスで爆発を起こさないようにしてるんだよ」
ヨシローの説明にリタは不思議そうに見ていた。
大きな踊り場にでた。坑木といわれる坑道の支柱になる木材なんかが仮置きされていた。
「広いなあ。竜化しても大丈夫そうだ」
ノラの言葉に慌てて二人が止めに入った。
「状態だよ。二人ともあたしを抱きしめてくれるなんて、嬉しいなあ」
「ずいぶん下りますね。もっと枝分かれして迷路になってるかと思いました」
リタが真っ直ぐに続く道のりを歩いて言った。時折り横穴が存在するが道とはならずすぐ採掘を諦めた形跡があるくらいだった。
「すごい!」
リタが驚嘆した。ヨシローも目を丸くした。
「地底湖だ。まだ下に行くぞ」
ノラが先陣を切って道を歩く。
(だいぶ深いな、酸素は大丈夫か?)
リタもノラも顔色は悪くなさそうだ。
「地底湖の水は飲めますか?」
「どうだろうな、重金属が溶け出してるかもだからやめといたらほうがいいだろうな」
ノラがリタの空の水筒を制止して汲むのをやめさせた。
「ドワーフはどこだろうね?」
ヨシローもそろそろ喉の渇きを覚えていた。
かなり深くまで潜っただろう。感覚でいうと平地より深く底まで潜った感じだ。
「二人とも、ドワーフはいるよ。槌を打つ音が聞こえる。期待できるかもだね」
二人には聞こえないがノラの聴力が確かに音を拾った。
「たぁのもー!」
ノラが叫んだ。
ドワーフがここで採掘をしている形跡がある。
資材置き場や何かしらの設備が置きっぱなしになっておりボタの山もあった。
「うるさいわい!」
ドワーフがボタの山の中から出て来た。豊かな髭をたくわえ小柄ながら頑強な身体つきの煤まみれの男だ。
「ツヴェルク!あたしだ。ノラだよ」
ノラが手を振って挨拶した。
「俺の知ってるノラってのはドラゴンだ。バカ言うない」
ノラは手を振るのをやめて、竜化しようとしたが、ヨシローたちにふたたび止められた。
事情を説明して人型であるのを認めさせた。
「ドラゴンに戻ったほうが早いのに」
ノラは愚痴をこぼす。
「まあ信じてやるわい」
ツヴェルクが譲歩してくれた。
「しかし、何の用じゃ?こんなボタしか採れんとこまで来て」
ツヴェルクは座り込んで袋から石を取り出した。石を眺めるとボタ山に向かって投げ捨てた。
「そうそう、この二人に剣を作ってやってよ」
ノラは二人を紹介した。
「なんじゃ。鉄が採れんのに鍛治仕事なぞできんぞ」
二人は挨拶をした。ツヴェルクは興味無さそうに頷いた。
「あの、見てもらっていいですか?」
リタが折れた剣を差し出した。
ツヴェルクが剣を受け取ると何度も刃こぼれやグリップの摩耗具合を確かめた。
「ずいぶん、魔力を流し込んだな。酷使し過ぎじゃ。お前さんも見せてみろ」
ヨシローも剣を渡した。
「お前さんも似たようなもんじゃ」
ツヴェルクは二人の剣を捨てた。二人は唖然とした。
どこからか鐘を叩く音がした。
「メシの時間じゃ。息苦しいじゃろ。ここには充分に新鮮な空気が送り込まれとる。取っていいぞ」
ツヴェルクが鼻と口を保護していた布に指差した。
「ぷはーっ。息苦しかったんだよね、これ」
ノラがまず布を外した。
洞窟の地形を利用した部屋に案内された。粉塵に気を使っていた二人がようやく布を外した。
どうやってるのだろうか。空気の循環も換気もできている。
「昔はここも人手は多くてな、人力でポンプを使って外の空気を送ってたんだがな。今はくる途中に地底湖があったろ、あれを堰き止めて水流を作りその力でポンプを回してんだ」
かなりの大部屋だ。
「ツヴェルクさんは一人ですか?」
ヨシローの問いにツヴェルクは食事を不器用にとりながら答えた。
「いや、いるぞ。みんな鐘の音で仕事に区切りをつけてるわけじゃねえ。その辺は適当だ。俺たちは仕事に根詰めると時間を忘れてしまう。睡魔に襲われようと体力が尽きようと納得するまでやっちまうんじゃ。それが普段にも表れてルーズな種族だと思われてしまう。気にせんがな」
ヨシローがカバンから酒瓶を三本取り出した。
「よかったら、仕事の区切りがついたときにどうぞ」
ツヴェルクは目を丸くして震えだした。
急いで鐘を力強く三回叩いた。
ノラとリタが何事かと耳を塞ぎ、何が起こるのか待っていた。
「うるさいわい!」
ドワーフが入って来た。真っ白な毛に覆われた鼻のデカい男だ。
「お前らか?他所者どもが…」
テーブルの上の酒瓶に目が留まった。
「儂、カザード。今のはちゃめっ気が過ぎたかのう」
カザードはデカい鼻をテーブルにもたれさせ酒瓶に近づいた。目がデレていた。
「わっはっは。カザードは技師でな。ここに空気を送るポンプや色んな機械の整備をしちょるんじゃ」
ツヴェルクがカザードの肩を叩いて紹介してくれた。
「儂、おりこうさん」
カザードはテーブルについて大人しくしていた。




