聖女とドラゴン 2
口に含んだ水をゆっくり数回に分けて飲み、落ち着きを取り戻した。
「大丈夫。マシになったよ」
ヨシローがようやく魔力のガス欠から復活した。しかし、全快ではない。
「ノラはなんで僕たちを威圧したのかな?」
敵なのかそれとも気まぐれなのか。
「ん?あたしはね、ここに竜殺しと呼ばれるヤツがいると聞いてきたんだ。そしたら早速魔力の高い二人を見つけてね。喧嘩を売ったんだ」
ノラはあっけらかんとして答えた。
「迷惑です。帰ってください」
リタのノラに対する態度が冷たい。
「でも、旦那さまは竜殺しなんだろ?さっきの技は凄かった。竜を殺した奴なんて聞いたことがなかったけど旦那さまなら納得がいくよ」
リタの視線が痛いほどノラに向かっていく。
「僕は竜と会うのは今が初めてだよ。だから人違いですね」
「ノラ、わたしたちの旅の邪魔です」
何故か、お調子者に見えるノラには呼び捨てにしてしまう二人だった。
「水臭いなあ。仲良くしてくれよ。そうそうあと聖女のお伽話にも興味があったし、ここに来る途中にドワーフとも会ったんだよ。聞いてくれるかい、旦那さま?」
「なんでヨシロー様を旦那さまと呼ぶのですか!」
リタはその呼称が許せなかった。
「ドワーフ?廃石島のことかな」
「そうなんだ。炭坑を見たいって言ったら体がデカ過ぎて坑道が潰れるから駄目だって追い返されたんだ。非道いだろ」
人化の能力をつかわなかったんだろうな。ヨシローはそう思った。
「ノラ、わたしの質問に答えなさい」
リタがヨシローとノラの会話の距離感が近いような気がしてならない。
「いいじゃないか。見た目は地味だけど強いし話しもわかってくれる。旦那さまに相応しいと思ったんだよ。ドラゴンは一体でとてつもなく広い世界を支配するからね。中々つがいになるオスを探すのに苦労するんだよ。基本群れないしね。だから人化の能力を身につければ繁殖する確率は上がるだろ?」
ノラはヨシローの顔を覗き込んだ。
ヨシローは聞こえないフリをしていた。
「ヨシロー様。この野良ドラゴンを仲間に加えるのは危険です。置いて行きましょう」
「…とりあえず、今日もここで野宿かな」
日が暮れる前にはエメラルドグレイスに到着するかもしれないが、ヨシローの魔力の残量が心許なかった。
「そうだ。聖女のお墓まで行こう。近くに四阿があったような」
ノラが得意気に提案した。
「四阿?」
リタは四阿を知らなかった。
「屋根と四本の柱だけの簡素な小屋だよ。聖女のこともあるしそこに行こう」
ノラを先頭に案内をしてもらい、聖女の墓のあるところまで歩いた。
「崖ですね」
リタが言った。崖の先まで見渡す限り墓らしきものはなかった。
「ごめんごめん。墓っていうのは語弊があるな。聖女がここで最期を迎えたとこだよ」
四阿まで辿り着くと野営の準備をした。屋根がある分簡素だが広く寝床が用意できた。
「メシはまだかなぁ」
ノラがあぐらをかいて膝を叩いた。
「ヨシロー様」
ヨシローも頷いた。
「ノラ。食糧が尽きた」
カバンの中の保存食がなくなっていた。わかってはいたが、この辺に村があると聞いていたので油断した。
「今から罠を仕掛けましょうか?」
リタは立ち上がった。
「ノラ。湖で魚は獲れるかな?」
ヨシローの質問に
「そりゃ、たくさんいるだろう」
ノラの答えに二人はじっと視線をノラに集中した。
「なんだよ。あたしだって渦に飲み込まれてダメージが残ってんだから」
ノラは反論するもの渋々仕方なしにドラゴンに戻り湖に羽ばたいて行った。
ノラを見送ったリタは
「便利ですね」
と呟いた。ヨシローもノラに手を振ったあと早速火を起こしにかかった。
ノラが魚を握りしめて戻って来た。
「ノラ。魚を握り締めて潰しちゃダメだよ」
「仕方ないだろ。ドラゴンの手は大きいんだ。こんなサイズの魚がつまめるわけないよ」
ノラが獲ってきたのはヤマメだった。幸い握り潰されたのはなかった。
ヨシローはカバンから塩を取り出して串を打ったヤマメに塩をすり込み焚き火の周りに刺して焼いた。
「あたしが炎で焼いてやろうか?」
ノラは得意気に火を吐いて見せた。
「やめてください。消し炭になってしまいます」
リタが制した。
焼けたヤマメを順番に手渡した。
「内臓は苦ければ残したらいいよ」
リタは初めて食べる魚をヨシローの真似をしながら食べた。ノラは骨ごとバリバリ食べた。これはヨシローは真似しなかったが、リタは挑戦してみた。骨が刺さらないように噛み砕ければ食べれないことはなかった。
「まだあるから、好きなだけ食べていいよ」
ヨシローは追加でヤマメを焼いた。
「ありがとうございます」
リタはびっくりしてヤマメを落とした。ヨシローも手が止まった。ノラは食べてから反応しようと急いで食べた。
ニコニコと笑顔でヤマメを食べる女の子がヨシローたちと食事を囲んでいた。いつの間にか彼女はそこにいたのだ。
「こんな貴重な塩を贅沢に使って魚を焼くなんて貴族さまですか?」
彼女は塩加減がちょうど良く美味しく焼けたヤマメを絶賛した。
三人は誰が先に彼女に問いかけるかを目配せしながら彼女の様子を見ていた。




