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聖女とドラゴン 1

 長く続く一本の畦道はようやく開けた場所に出た。見晴らしがよく切り立った山がふたつ、その間に大きな街、いや都市が見下ろせた。

「あの街が廃石島?」

廃石島の名のイメージからはほど遠い都市化した実物にリタは唖然とした。

「いや、あれはたしか」

ヨシローは地図を広げた。


 現在地が湖の側にいて前方のふたつの山あいに都市がある。地図で指差しながら

「目的地はここで間違いないんだけどね、村らしきものがない。ちなみにあの都市は聖女伝説の伝わるエメラルドグレイスという都市だよ」

眼科に広がる中央に大きな大聖堂を構えた都市を見回した。左右を切り立った山が囲み、前方にヨシローたちがいる巨大な湖があった。鉄壁の自然要塞だ。


「湖の高さがあの街より高いですね」

「山々に囲まれた湖だね。ここに村があって一晩泊まるはずだったんだけど…」

廃村になったのだろうか。あれだけ立派な都市が発展しているのだ。きっと移り住んだのかもしれない。

しかし、村の跡地すらない。


 ブロッセルを出てから何度か野宿をしてきた。そろそろ見張りをたてずにゆっくり屋根の下で眠りたい。

リタは平然としているが、やはり女の子として扱わなければならないという思いもある。


「ヨシロー様。聖女伝説とはなんですか?」

「ん、僕も詳しくは聞かなかったんだけど。大昔に数々の奇跡の魔法を使って民を導いたという伝説があるんだけどね。その女性が後世に聖女と崇められて、あのエメラルドグレイスが建立されたんだよ」


「奇跡の魔法とは一体なんでしょうか?」

「エメラルドグレイスに行ってみるかい?きっと調べられるよ」

ヨシローは廃石島が目前なのに寄り道を気の向くままに決めてしまう。リタはわたしのためなら大丈夫です。と断った。

「これからの旅は二人でいろんなものを見ていく旅だと思うんだ。たから興味があるなら行こう。僕だけの旅ではないんだよ」

「ですが、わたしは字が読めないし、知識も乏しいです。説明を受けてどこまで理解できるものか…」


ヨシローはリタが頑なに遠慮してるのかなと思った。

「僕が育った村でね、怪我をあっという間に光って治癒してくれた人がいたんだ。その人は恩人なんだけど。それ以来、治癒魔法を見たことがない。これは奇跡の魔法なんじゃないかと思っているんだ」

「ブロッセルの麒麟さまが使ってましたね」

リタ、リアーヌ、コーラのひどい怪我をたちまちにして治癒したことを思いだした。


「特別な何かなんだろうね。僕は興味が湧いてきた」

「わたしはヨシロー様について行きます」


 突然、空が暗くなった。もの凄い恐怖心を煽られる影に二人は緊張感が走った。

空を見上げると一匹の大きな翼が空を舞っていた。

「ドラゴン?!」

リタが叫んだ。

かなり大きい。二人の頭上を旋回していた。叫び声が耳をビリビリとさせる。

二人は耳を塞ぎ大地の振動に身を屈めた。


「襲ってきますか?」

「わからない。ただこっちに気づいてる」

ドラゴンは旋回しながら威嚇するように炎を吐き散らした。


「ヨシローさま?」

「やってみる」

ヨシローは大空を支配するドラゴンに狙いを定めた。


「縲渦!」

ドラゴンの真下を巨大な渦潮がうねりをあげてドラゴンを飲み込んだ。ドラゴンが暴れているのか、渦が安定しない。

幽霊船で出会ったルイカの「メールシュトローム」は破壊力も魔力安定感も完璧だった。

今、ヨシローとドラゴンの綱引き状態が大渦の中で繰り広げられている。


「ぐぅ、っ。腕が、ちぎれる、」

ヨシローが渦にドラゴンを強引に沈める。

「ヨシロー様!」


「どうだ!?」

ヨシローがドラゴンを引き摺り落とした。


森の中に落ちたドラゴンをしばらく見つめたまま動けなかった。効いてなければ絶対絶命だ。


「痛たたた、まいったよ。やるな、人間」

ひょっこり出てきたのは赤髪の女性だった。

女性を見た瞬間リタは逆毛が総立ちになるほど怯えてしまった。ヨシローは魔力量がガス欠寸前で対応できず目眩がした。


「わりぃ、わりぃ」

女性はおとなしくしようとゆっくり呼吸を整えた。

「どうだ?幾分マシか?これ以上は抑えきれないぞ」

リタは身体に走る恐怖感がマシになった。ヨシローを見ると息を整えるのにまだ時間がかかりそうだった。


「あたしの名はノラ。あんたかい、竜殺しってのは?たいしたもんだ。番になってもいいよ」

ノラは赤い髪からドラゴンの角をのぞかせた。硬い鱗の尻尾もある。

先程のドラゴンが人化した姿である。


ヨシローは首を振った。それが精一杯の返事だった。

リタはつがいという発言にムッとしていた。

「やあ、これは何かの縁だな。二人は何処に行くんだい?ついてっていいかな?」

ノラは笑顔でヨシローたちの仲間に加入した。


「わたしたち、エメラルドグレイスに行くんです。そこまでなら」

「硬いこと言うなよ。すぐそこじゃないか。もう少し先まで一緒に旅しようぜ」

リタは首を振った。


「いいかい。強いオスと番になるのは当然のことなんだぜ。だけど、君が正妻だってわかったからこっちは一歩譲って一緒に旅しようって言ってんだ」

ノラはニコニコしてリタをなだめた。リタも正妻という言葉にドキッとしたが、色々訂正しなければならないことがあって、何処から手をつけていいか整理できないでいる。


「あと、エメラルドグレイスっていや聖女のお伽話だろ?ばあちゃんが言ってたよ。昔はこの土地の空だけが聖女の結界に守られて自由に飛べなかったって」

あたしは飛んだもん。と得意げにノラは自慢した。


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