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旅立ち

 リタはこぢんまりと正座していた。耳が垂れ、尻尾も元気がない。目を閉じて黙って覚悟を決めていた。

リタの前にはヨシローが座っていた。ヨシローも黙ってリタを見つめていた。


「感動の再開じゃないの?」

コーラが小声で言った。

「雲行きが怪しいわ。どうしましょう?」

リアーヌは声をかけた方がいいか、二人きりにしてあげたほうがいいか迷った。

「リタちゃんに対して真剣なのよ。でも気になるわ」

マリアベルは楽観的に考えた。


 テレーズはキセルの雁首に煙草を詰めるために葉を刻んでいた。屋敷が全焼したためメゾン・クローズはしばらく休業することになった。復帰の目処は立っていない。我関せずを貫いていた。


 しびれを切らしたリタがもじもじし始めて何か話しを切り出そうとしていた。しかし、最初の言葉が見つからない。

後ろで見ていたコーラたちが三人顔を見合わせて間を取ろうと頷きあった。


「ここまで来るのに辛かったでしょ?」

ヨシローが初めて喋った。

後ろの三人が踵を返すように元の位置に戻り静観した。

「僕は里で自活できるように手を貸したつもりだったんだよ」


リタは膝を握り締めしっかりと言葉を受け止めた。ヨシローの顔がまともに見れず下を向いていた。


 そこにいた全員のお腹の虫が盛大に鳴った。

アグネスがひょっこりやって来た。

「みなさんお食事の用意ができましたよ。昨日は大変でしたから大目に作って貰いました」


食堂では遅くなった朝食が待っていた。

リアーヌがリタを連れて女子同士で固まって席についた。しばらくすると賑やかになりマリアベルが楽しそうに笑っていた。


端の方でヨシローはサンドイッチを食べていた。

「どうすんだい?」

テレーズがヨシローのサンドイッチをひとつもらった。

「連れて行きますよ」

ヨシローは逞しくなったリタを遠目で見て言った。


「何処に向かうんだい?」

「廃石島です」

「はいせきじま、ハイセキ島。ああ、随分と遠いね。昔はミスリルが採れて賑やかだったって言うじゃないか。冒険者が必ず訪れるとこだったんだよ」

「知ってるのですか?」

次の目的地の道が開けた。

「行ったことはないよ。四十年くらい前かね。活気があったのは。旅の行き先にケチはつけないよ。まあ仲良くやんな」


「島って言うくらいだから海か湖を渡るのですか?」

「いや、確か陸の孤島と呼ばれてたよ。行ってみな」


ヨシローはお礼を述べてテレーズにそっと金貨の入った袋を渡した。

「あんた、最後までいい男だね」

換金すれば屋敷の再建もできるし、営業も再開できるほどのドレスや支度金にはなるだろう。


 リタは三つ指を立ててメゾン・クローズの面々にお礼を申し上げた。

「あれは装着してるのかい?」

リアーヌがこそっとリタに耳打ちした。リタは頷いた。

「まあ、サイズは調整できるやつだからいいけど」

横でマリアベルが何かしら、とニコニコしていた。


リタはヨシローに駆け寄った。

「ご主人様。これは必要な時に使ってください」

ヨシローの手に小さな鍵を渡した。

ヨシローは頭上にはてなマークを立てながら頷いた。


「なあに?女の秘密ならわたくしも共有したいわ」

マリアベルがリアーヌに近づいた。

「貞操帯が欲しいって言うから、わたしのお古をあげましの」

「ヨシローさんはいつ鍵を開けるのかな」

コーラも加わりニコニコとヨシローを見つめた。

ヨシローは視線が集まるのに、はてなマークを生やすばかりだ。


リタは何度もメゾン・クローズの人たちと抱擁し別れの時を惜しんだ。

「挨拶は済んだ?」

ヨシローの言葉にリタは頷いた。


 ブロッセルを両手を振って出た。

「リタ。これからだけど、僕たちは旅の仲間だ。ご主人様は無しでいこう」

「わかりました。ご主人様」


「あと、リタの剣だけど。新しいのを新調しないと」

大事にしてきた剣を手放したくないリタは戸惑いの表情を見せた。

ヨシローは自身の剣を抜いて見せた。

「旅をするとメンテナンスが疎かになるよね。手入れも研ぐことも、次の町までできなかったりするんだよ。僕の剣も獣人の里で出会った時のものとは違うし、正直悲鳴をあげてるくらい酷使してきた」


リタは頷いた。

「お金はね、これは換金すればすごい額になるんだよ」

ヨシローの手に一枚の古代金貨が光っていた。太古の統一国家時代の古銭だそうだが、かなりの価値があることがわかった。


「ドワーフは鍛治職に長けた種族と聞いたことがあります」

リタが言った。

「期待できるね」

ヨシローが笑顔で答えた。


 世界は広い。もしかしたら二度と出会うことのない旅をお互いにしていたのかもしれない。数奇な運命を感じる。奇妙な友情すら感じた。友情よりももっと不思議な感情かもしれない。


一歩外へ踏み出せば、世界は多くの美しい景色を見せてくれるし、様々な人たちと出会い彼らの人生の矜持を感情を揺さぶる勇気に触れる機会を与えてくれた。


ずいぶん逞しくなったな。リタを見て思った。二人で見てまわる世界も悪くはないと思った。


「ご主人様。廃石島に向かうのですよね、道が逸れてしまいます」

リタの問いにヨシローはじっと見つめた。

「ヨシロー様。廃石島に向かうのですよね、道が逸れてしまいます」

ヨシローは笑顔で答えることにした。


「まだ遠いからね。この近くに村があるようだからそこを中継して行こう。急ぐ旅じゃないしね」

「わかりました。ヨシロー様」

リタは笑顔で返事した。






 





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