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召喚

「リアーヌは?」

しんがりを務めると言って屋敷に残ったリアーヌがまだ帰って来ていない。


暗闇を照らし燃え盛る炎は容赦なくメゾン・クローズを燃やし尽くした。


 屋敷の裏手側に繋がる藪の中からリアーヌはリタの手を引いて現れた。

「リアーヌー。すごいケガ」

はしゃぐコーラを、あんたもでしょ。とテレーズがキセルで突いた。


 リアーヌはマリアベルたちを見て

「この子でしょう?勇敢なワンちゃん。本当に助かったわ」

リタを抱きしめて言った。


ケガも治りきらず危機を察して駆けつけた小さな英雄はまたボロボロになって、みんなの前に姿現した。


「リタちゃん」

マリアベルもコーラも笑顔で再開を喜んだ。

テレーズもリタを気に入ったようだ。


「ご、」

リタは涙目になりながら折れた剣を抱きしめた。

「ご主人さま」

溢れでる涙をとめるつもりはなかった。ただ感情に任せておもいっきり泣きたかった。


ヨシローも言葉を失いただリタだけが視界におさまった。

リタは膝から崩れ落ちるように泣いた。

ヨシローはただオロオロするしかなかった。


「なーに?二人は知り合い?」

コーラがマリアベルに聞いた。あらあら、とマリアベルも素敵な予感に展開するのを楽しみに待っていた。

抱きしめていた手を離しリアーヌは行っといで、と優しくリタの背中を押した。


駆け出してヨシローにしがみつくリタを見て

「なんだい。うちの子に手を出さなかったのはそういうことかい」

テレーズがニヤリと二人の抱擁する姿を横目で見た。

みんながどういうこと、という顔をした。

「ロリコンだよ」

と呟いた。みんながほっこりした。


「あーあ、まだ燃えてるね」

和んでいる場合ではなかった。

ヨシローはカバンから清流の籠手を取り出した。上手くいくかはわからないが魔力は上がるはずと信じた。

自分から離れたところで魔法を展開するのは難しい。


まず定礎。位置を指定する。

そして構築。魔法を展開する。

最後に発動。魔法が放たれる。


ヨシローの場合、「飛瀑」がそれである。体内魔力を手の上で作り上げる「水撃」や「みかがみ」と違い、文字通り離れ技で魔力を霧散させずに発動させるのだ。


桁外れに魔力操作が上昇したヨシローの「飛瀑」がメゾン・クローズを滝壷に落とすかのように降り注いだ。反動でヨシローはぶっ倒れた。


「ヨシローさん?」

飛瀑の余波が周囲を巻き込むが、みんなが心配して駆け寄った。リタも気が気でなかった。

「あれ」

リタが屋敷を指差した。

「鎮火、してる」

リアーヌがほっと胸を撫で下ろした。


 かろうじてヨシローは意識を保っていた。清流の籠手を外しカバンにしまった。魔力を清流の籠手に根こそぎ持っていかれるところだった。

これは人間が扱っていいものじゃないと思った。


大団円。と言っていいだろう。みんなが安堵感に浸されたそのとき。


 とてつもない魔力を持ったものが側にいた。ヨシローの顔を覗く目はじっとしていた。


まわりの者はみな何が起きたかわからなかったが突然の出来事に声も出ないまま腰を抜かした。


「何を休んでいる。わたしのために働け」

泉で見た鹿のようなものが目の前に立っていた。

竜のような首に鹿のような体だが鱗があり渦巻く魔力を身に纏っていた。


「ヨシローさん」

アグネスが遅れながらやって来た。


「我が名は麒麟。このようなとこで殺生をしよって。まあいい、通訳しろ」

ヨシローは自分以外のものには会話が聞き取れていないのがわかった。


「わかりました」

ヨシローは神獣テスカトルを思い出した。


「あの巫女にわたしと契約しろと伝えよ。拒否は無しだ」

「アグネスさんですか?」

「そうだ。あの巫女の祈りは神にも届く純粋で気高いものだ。わたしと契約すれば年に一度、召喚されてこの地を太平にする恩恵を与えよう。さあ、早く通訳しろ。泉に出会うた時みたいに走り去るな」

「わかりました。アグネスに話しを通してきます」

ヨシローはよろけながらアグネスの元に行った。


「わたしは殺生ごとは嫌いだ。今回はサービスしてやろう。」

そう言って麒麟は回るように闊歩した。

最初にコーラの顔のケガや骨折が完治した。

「あれー?どうなってるの」

リアーヌも斬り傷が塞がり驚いていた。

リタも腫れた目やボロボロの耳も治っていた。左耳のギザギザだけそのままでいた。

他に軽傷者も治癒がされていた。


「ヨシロー。まだか?」

暇つぶしに治癒をおこなった麒麟がヨシローに催促する。


ヨシローは麒麟に大きく両手でマルを作って交渉が成立したことを合図した。


断る理由などない。という自信から麒麟は大胆にアグネスに向かって歩み出した。


「なんだ?我があるじになる巫女がつまらん模様をつけられているな。解せぬ」

麒麟はそう言ってアグネスの胸元を鼻息で奴隷紋だけを吹き飛ばした。


「まったく。神獣と人間は言葉が通じないから不便なものだ。ヨシローよ、祈りは毎日欠かさずだ。そして年に一度わたしを呼べ。そのときこの地に無用な血が流れていなければ何かいいことを置き土産として授けよう。いいな、ちゃんと伝えよ」

麒麟はその言葉を残して空へ走り去った。




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