抗ってみせるさ
ここは初めてリアーヌたちの馬車と遭遇した場所。
何もわからなければそれでいい。ヨシローは頻繁に襲われるようになったメゾン・クローズの馬車をなんとかしてやりたいと思っていた。
彼女たちの衣装や装飾品、化粧品は高価なものだ。辺境伯の屋敷に招かれるのだからそれなりに着飾っているのだろう。護衛も辺境伯側からつけてもらっているのに襲われるというのだ。
ブロッセルから馬車が走ってきた。ヨシローの前を通り過ぎて止まった。
「ヨシローさん!」
馬車から飛び出して駆けてきたのはコーラだった。
「嬉しいな!心配してくれたのですか?」
言うなりヨシローに抱きついてきた。
護衛の男が馬を走らせ近づいてきた。
「何者だ。離れろ。失せろ」
馬上から怒鳴ってきた。
ヨシローがコーラから離れると
「この方はこちら側から用意した護衛の方です。問題ありますか?」
コーラは誤魔化すように見栄を切った。ヨシローは違うとは言えず、その場の成り行きに従った。
「そんな話しは聞いておらん」
護衛の男は反論した。
コーラと護衛は互いに譲らなかった。しばしの時間、一悶着が続いた。
焦り出したのは護衛だった。護衛の男は馬から降りない。
イライラを隠しきれなくなった護衛の男は舌打ちをして馬に鞭を打った。護衛は逃げ出したのだ。さらに悪いことに追い剥ぎが襲ってきた。
ヨシローは覆面をした三人の追い剥ぎを確認した。
「ヨシローさん。遠慮なくお願いします」
コーラの即座の判断により「水撃」であっという間に二人仕留めた。たじろぐ残りの一人は馬車を襲うためドアに手を掛けたが「水斬」で追い剥ぎの腕を切断した。
「ヨシローさん。ありがとうございます」
コーラが後ろから抱きついてきて離してくれない。
「大丈夫ですか?」
ヨシローは馬車の中の人たちの安全も含めて気にかけた。
「はい。ですが、今回は戻りましょう。マダムにも報告することができました」
コーラは馬車に戻ると仲間の女性たちとキャッキャと楽しそうにおしゃべりを始めた。
ヨシローは御者の隣に座らせてもらい、共にメゾン・クローズへ戻った。
屋敷でずっと手を振るコーラと一緒に馬車にのっていた女性たちが笑顔で別れてテレーズの部屋に通された。
「ヨシロー。また借りができたね」
「お気になさらずに」
テレーズは笑ってキセルに火をつけた。ヨシローは落ち着いた様子を見て説明を求めた。
「毎度のことだからね。探りを入れなきゃならないわけさ」
キセルの煙を天井に向けて吹いた。コーラがノックして入ってきた。
「ヨシローさん。みんなお相手したいって言ってたよ。おっと、マダムテレーズ。ごきげんよう」
コーラが揃ったところで女給は退室した。
「コーラ。どう見る?」
テレーズが状況の説明を求めた。
「辺境伯からの護衛は追い剥ぎが来る直前に逃亡しました。辺境伯は黒だと思います」
「散々快楽を求めてきたくせにね。立場がやばくなったからトカゲの尻尾切りかい」
テレーズとコーラの意見のラリーを見ながらヨシローは沈黙を守っていた。
テレーズはヨシローを見た。
「コーラさんは危ない橋を渡ってますよね。大丈夫ですか?」
ここに来た時に諜報活動もしていることは伝え聞いてていた。
「わたしら諜報活動っていってもピロートークの延長程度だからね。そもそも戦えないし」
「あたしらの敵はね。辺境伯じゃなくその奥方様たちなんだよ。今ははした金で追い剥ぎを雇っては襲撃を繰り返してるがね。いずれは大きな災いに発展する前にあたしらと縁を切りたいのさ」
テレーズは続けて話しをした。
「辺境伯の主催する参加者はね。辺境伯が成り上がるのに援助した有力者たちなんだよ。今まであの手この手ですり抜けてきたけどね。潮時ってやつかね。ただメゾン・クローズを必要とする貴族階級が無くならない限りあたしらは存在し続けるんだよ」
「お客さんはお金さえ払えば町人でも冒険者でもとるからね。なかにはビアンもいるんだよ」
コーラが追加で存在理由を説明した。
「華やかな世界ではないのですね」
どちらも無くなることのない立場と影の部分がある。
共存ではなく、それぞれが生きるために必死なのだということなのだ。
「メゾン・クローズは長い歴史と需要がある。抗ってみせるさ」
テレーズは引かない覚悟をみせた。
ヨシローは帰り道、アグネスがランタンひとつを手にして泉に向かうのを目撃した。
「こんな遅くにもお祈りに行かれるのですね」
アグネスはお辞儀をした。
「私はこれだけしかできませんので」
「馬車の襲撃と僕のことを予言されたと聞きました」
「この能力のせいでずいぶん辛い思いもしました。見せ物小屋に送られる前にテレーズさんに拾ってもらいました。ヨシローさんのおかげで恩返しができそうです」
予言は何度も見えたり、狙って見ることはできないそうだ。不思議といつのまにか降りてくる。というのが予言の感覚らしい。
いつも通り泉に着いて祈りを捧げていると、対岸に何かがいた。
「鹿、ですか?」
二人は夜目が効かず確認できなかったが、たしかにいたとだけ感じることができた。共通の認識としては神々しい。という感覚だった。




