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手紙 2

 ヨシローはテーブルに紅竜の真眼と清流の籠手を並べた。カバンからフィムから預かった包みを取り出した。ケルンという名の天使の欠片だ。


あとひとつ。ヨシローは少し安堵した。


「ヨシロー様。ヨシロー様」

女性の声がした。

行雲流水は反応しない。いや、反応したのはテーブルの上だ。


「ケルンと申します。ヨシロー様のおかげで意思疎通ができるようになりました」

テーブルの上が淡く発光した。何か気配を感じる。


異様な空間に包まれた雰囲気がした。自分以外の時間が止まり不思議な感覚を覚えた。


白い大きな翼が部屋の中いっぱいに広がり、静かに折り畳んで舞い降りたかのように天使はヨシローの前に現れた。


「ヨシロー様。フィムの理不尽な行いに付き合ってくださり、申し訳ありません」

ケルンは地にひれ伏そうとしようとしたが、ヨシローは止めた。


ケルンは身体のあちこちがまだ完全ではなく得体の知れない人形のような部分がところどころつぎはぎのように、それでいてヒトの形をしていた。

片翼は羽が揃ってなく、左肩から肘までは肉がない。右足も義足のようで、顔の半分も完全ではなかった。想像するに服の下も不完全なのだろう。


「このような姿で申し訳ありません。ヨシロー様にお願いがあります」

「なんでしょうか?」


「わたしはこの世から一度はいなくなった身です。フィムの望みだとしても許される神のみわざではありません。最後の星辰の宝珠ですが諦めてください」

「ですが、あとひとつですよ。頑張ります」

ヨシローの気持ちにケルンは首を振った。


「代わりに漆黒の廃魂をお探しください。それは廃石島にあるドワーフの炭坑にあります」

「いいのですか?」

「はい。フィムの責任はわたしがとらなければなりません。なにとぞ星辰の宝珠ではなく漆黒の廃魂をよろしくお願いします。漆黒の夜に対抗するためには漆黒の力が必要なのです」

これを最後に現実の世界に引き戻された。


 次の旅の目的地が決まった。

テーブルの上をカバンに大事にしまってベッドに寄りかかった。不思議と何も考えられずに深い眠りについた。


 翌朝、やはりメゾン・クローズからの馬車が迎えに来ていた。

旅立つことを報告しよう。アグネスのことも気掛かりだが旅立たなければならない。


 テレーズはヨシローに会うやいなや

「マリアベルに会ってやっておくれ」

とマリアベルの部屋に急がせた。


「こんにちは」

「ヨシローさん。まだ旅立ちに猶予はありまして?」

「いえ、次の目的地が決まりました」

そうですかと優しい眼差しでマリアベルは呟いた。


「このお屋敷の仲間には今朝お話ししました。もちろんマダムテレーズの耳にも入れてます。ヨシローさんにも伝えたくて一番にお会いしたいとお願いしましたの」

「どうしたのですか?」


マリアベルは封を切った手紙を持ち出し

「ついに返事がきましたの」


手紙の内容は、マリアベルの愛する人は兵役に出たあとに自分たちの子供を置いて出て行ったと誤解していたそうだ。自分の知らないところで両親が心無い仕打ちをしていたことも、子供の薬も、手紙のことも全て知らなかったのだ。退役した後もマリアベルのことを愛し続け、マリアベルに生き写しの子供を愛情をもって育ててきたこと。事実を知って絶望に突き落とされ後悔してることを書きしたためられていた。


「マリアベルさん。これは」

「嬉しいの。愛は間違ってなかったの。子供の病気も完治していたわ。名前も手紙に書いてあるの」

手紙の内容が嬉しい結果でヨシローはほっとした。


「家族の方は迎えに来られるのですか?」

ヨシローは愛する人がマリアベルと幸せになるのだと思った。

「いいえ、来ないわ」


ヨシローはどんな顔をすればいいのか困った。

「彼はすでに再婚してるみたいなの。子供のことも愛してくれてるのよ。彼の幸せを邪魔できないわ。それにわたくしここで春を売ってるなんて言えないですもの。母としても妻としてもダメなのよ。会うのが怖いわ」


「マリアベルさん。すみません。どう返事したらいいかが思いつきません」

「そうね。みな同じ反応だったわ」

マリアベルは喜んで欲しかった。笑い飛ばして欲しかった。


「僕はマリアベルさんこそ、幸せになってもらいたいのです。みな同じだと思います」


「少しの間だけ…」

そう言ってマリアベルはヨシローの肩に頭を置きそっと泣いた。ヨシローは何も言わず動かなかった。


 テレーズの部屋に戻った。

「ありがとうよ。ヨシロー」

キセルを置いてテレーズは言った。ため息が漏れた。


「まだ、何かあるのですか?」

「まあ、いいっちゃ、いいんだけどね。貴族の方からドレスや装飾品を贈り物としていただけるらしいんだが、到着しなくてね。追い剥ぎにやられたらしい」


ここ最近、追い剥ぎが頻発するそうだ。狙われるのはメゾン・クローズに関連する馬車らしい。ブロッセル内では馬車を走らせても安全だが、辺境伯絡みになるとブロッセルから辺境伯領への道のりは危険が増すようだ。


そして謎がひとつ。追い剥ぎが徒党を組んでる訳ではないのだ。徒党を組み根城があるならば、そこを一網打尽にできるようだが、個々に活動してるようだ。これではキリがない。







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