表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/99

鰻はネッシーで、翼竜は……

 






「では、頼みましたぞ」


 翌朝、村長含む村民に見送られながら、僕の翼竜探しが幕を開けた。


 昨日は大変だった。

 説得はすぐ終わったのだけど…その後の決起会がね……


「お腹いっぱい郷土料理を食べさせてくれたんだ。期待に応えないとね」


 見送る村人達へ手を振って応えた。


「被害は三回。始まりは半年前で、山へ出ていた木こり達が襲われた。被害者は一名だけど、未だ安否は不明とのこと。

 二回目は村の前で、遊んでいた子供が攫われてしまった。これも同じく安否不明。

 三度目は人的被害こそないけど、村の力仕事を引き受ける牛が捕まってしまった、と」


 どう考えても味を占めている。


「同じ個体かどうかはわからないらしいけど、多分同一個体だろうね。

 そして、恐らく群れている」


 そう考えた理屈は単純。

 仮に群れていなかったとしたなら、その翼竜が村を襲う間隔はもっと短いものになっていただろう。

 複数回襲うにしては間隔が空きすぎている。


 理由は単純。

 翼竜が群れていて、狩りが順番制になっているから。

 だからその個体が自分の番になった時にだけ、デアスゴ村が襲われるようになってしまった。


 そう考えると辻褄が合う。


 仮に同一個体ではないとして、群れていないのであれば、かなり運の悪い…翼竜に襲われやすい村ということになる。


 それだと僕は困る。

 流れの翼竜を見つけることは運任せになってしまうから。


「僕は南側を調べるから、エスエルには北側をお願いしてもいいかな?」


 チリリンッ


 左の鈴が鳴った。


 さて。何処にいるのだろうか。

 相手は空を飛ぶけれど、必ず羽を休める場所があるはず。

 お伽話では山の中腹や山頂に巣を作っているイメージなんだけど、この辺りはそもそも山脈地帯だから何処に巣を作っていてもおかしくはない。


「虱潰しで当たる他なさそうだね」


 それでも二馬力。

 いや。エスエルは僕よりも優秀なのだからもっと上か。


 一人きりじゃないことを心強く感じ、それだけで僕の足取りは軽くなるのだった。












「ふう。この辺りまでかな」


 全力で南へ駆けること三十分。

 見知らぬ山の山頂へ辿り着いた。


「ギルドのお姉さんが言っていた通りなら、村から離れていても20キロぐらい。じゃあこの辺までだね」


 山頂から見下ろす景色は、とても綺麗だ。

 標高が高いせいで周囲に高い木々はなく、世界が一望出来る。

 ま。目視しやすいように一番高そうな山を選んで登ったのだから当然か。


「『領域展開(テリトリー)』」


 前方へ向けて目一杯にオーラを伸ばしていく。

 薄くしていく過程で、風に乗り自然と広がっていく。


「薄く…大丈夫。連れて行かれないさ。きっとね」


 どんどん伸びていくオーラは、やがてピタリと止まる。


「ここ◆が限■界か」


 意識が朦朧とする。ううん。五感以外から入ってくる膨大な情報に脳がパンクしそうになっているんだね。


 ここまで伸ばすのに要した時間は一時間ほど。

 限界到達点は5キロといったところだろう。


 ただ真っ直ぐに探すだけなら走った方が早い。でも、探す範囲は放射状に広がっているんだ。

 線ではなく面を探さなくてはならないということ。


 どっちが早いのだろうか?

 やはり走った方が早い?

 対象は翼竜。

 ドラゴンほどではないにしろ、翼を広げれば横が五メートル以上にもなる大型の肉食魔獣。


 今更どうしようもないことを考えていると、初めての感覚が僕を襲った。


「まさか…エスエル?」


 テリトリーで捉えた反応はとてつもない速さで僕へと迫っている。

 その速度は時速換算で300km以上は確実。


 チリリンッ


 あっという間にその未確認物体は僕へと辿り着き、案の定左耳の鈴を鳴らしてくれた。


「エスエルだね。どうしたの?もしかして、見つけた?」


 この状態を維持することは難しく、広げたテリトリーを急ぎ畳んでいく。


 チリリンッ


「そうなんだ。ありがとう。案内してくれるかい?」


 チリリンッ


 またも左の鈴が鳴り、僕は頷いて応えた。















 北へ向かうと、道中で何度か右の鈴が鳴り僕の歩みは都度修正された。

 流石は大精霊。

 未だにそれが何なのか全くわからないけど、僕のテリトリーでも()()出来たんだ。

 この世に存在していることがわかっただけでも大きな進歩だよね。


「あっ。わかったよ。左の山だね」


 大精霊エスエルの案内により、翼竜の棲家へと近づけた。近づけたなら僕でも探すことは簡単。

 それはテリトリーだったり、視覚だったり。

 今回は視覚の方。


 鬱蒼と繁る木々の真下にいる僕らの頭上を、大きな何かが通過した。

 見えたのは影だけだったけれど、近辺が真っ暗になる程の影だったのだから鳥ではないだろう。


 その影が向かった方角が左の山。

 ここからは木々が邪魔をして見えないけど、恐らく合っているだろう。


「数は五より多い?」


 チリリンッ


 右の鈴が鳴る。


「三よりも少ない?」


 右の鈴が鳴る。


「四かな?」


 右の鈴が鳴る。


「三だね。ありがとう」


 普通に歩けばまだまだ時間は掛かるけど、僕にその気はない。

 つまり、戦うまでに残された時間は少ないんだ。

 そして戦う前に情報を集めるのは、戦いを生業にしている者にとっての定石。


 翼竜の数は三。

 大精霊が間違うはずもない。

 もし違ったのなら、それは数の数え方が人と精霊で違うだけだ。


「もし、翼竜が飛んだら落としてもらえるかな?」


 飛ばれても、逃げる前にオーラショットで仕留めることは出来ると思うけど、その場合素材の保証は出来ない。


 だったら、初めから頼んでおいた方が無難だろう。

 エスエルの身体の一部になるのかもしれないんだ。無碍にはされないだろうね。


 チリリンッ


 やはり左の鈴が鳴る。

 でも少し間があった。


「もしかして、あまり干渉したくない?」


 僕に干渉することは問題なさそうだけど、世界への干渉は嫌なのかもしれない。

 特に生き物への。


 …チリリンッ


 左の鈴が鳴った。


「そう。ごめんね。無理しなくていいからね?僕が飛ぶ前に一体だけ仕留めたら良いだけだから」


 その言葉には返事がなかった。

 どういう思考回路なのかもわからないし、感情がどれほどあるのかもわからない。


 人の物差しでは測れない存在だけれど、歩み寄りは人同士と同じで必要だよね。


「よし。行くよ」


 チリリンッ


 今度は左の鈴が涼しい音を奏でた。












(見えた。って、ドラゴンじゃん…)


 山登りを始めて暫しの時間が経った頃、漸く山頂付近へ辿り着いた。

 そこは花畑になっていて、天空の園のように綺麗な風景が僕を楽しませてくれた。


 知能の高い魔獣にはテリトリーを使うとバレてしまうので、僕は五感だけを頼りに息を殺してここまで進んできた。

 そんな僕の視界に飛び込んできたのは、花畑に似合わない恐ろしい顔を持つ翼竜だった。


(数は三。どの個体が素材に適しているかなんて僕にはわからないから、一番近いアイツを狙おう)


 その個体は大きい二つの内の一つ。

 恐らく大きいのが番かな?

 小さいのが子供?


(やめよう…この思考は危険だ。僕に恨みはないけど、魔獣は人の生活と生命を脅かす存在。

 行き着いた先に可哀想だとか考えてしまうと、僕はこの世界で生きていけなくなってしまう)


 大丈夫。オーラは一瞬でいい。

 僕なら出来る。


 見える翼竜のサイズは乗用車2台分はある。

 羽を広げたらとんでもないサイズだ。


 でも、僕には大型の魔獣討伐の経験があるからね。

 恐れはない。

 あの一ツ目鰻も楽に倒せたんだ。

 アレよりは小さいのだから、一撃で事足りる。


 見た目が怖いだけでここまで不安になるんだね……


(よし。エスエルも待っていることだし、これはバンジージャンプと同じだよ)


 一度飛んでしまえば簡単なもの。

 そう言い聞かせ、僕は腰の剣を静かに抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ