またも英雄は名を残す
「バレたら仕方ないよね」
足元には首のない翼竜の死骸。
そして20mほど離れた場所ではギャアギャアと煩い翼竜が二体。
岩陰に姿を隠し間合いまで近寄った僕は、寝そべる翼竜へ飛び込み、首目掛けて剣を一閃した。
その結果が足元に転がっている。
やはり、バンジージャンプだったね。
一度飛べたから、恐怖心はもうない。
どれだけ吠えようが、ね。
「そう来たか…出来れば、逃げて欲しかったんだけど。仕方ないね」
大きな翼竜が二回り小さな翼竜を背に隠しながら、ゆっくりと飛んだ。
完全に背に隠しているからもう一体の翼竜の姿が見えなくなったけど、地面にいないということは空にいるということ。
そのまま逃げてくれたら良かったんだけどね。
これは群れの絆か、それともプライドか。
考えちゃダメだ。
テリトリーを剣の間合いまで広げ、オーラで身体強化をする。
そして目を閉じてその時を待った。
キィィィン……
心眼とテリトリーで捉えたモノ。
それは僕を一口で噛み殺そうと突っ込んできた。
そして確かな手応えが、戦いの終わりを僕に教えてくれた。
他にも沢山の素材を探し続けること四ヶ月。
漸く全てが集まり、僕は上台地へと戻ってきていた。
一応報告の為に寄ったデアスゴの村では、村をあげての歓待をまた受けていた。
それ以外にも、他の素材を集めた時にも不可抗力で人助けをしていて、沢山の人から感謝されたよ。
人助けは良いけど…そもそもそれ目的じゃないから、素直に喜ばれる度に心苦しく感じていたけれど。
「どうかな?これで作れそう?」
問いかける相手は上台地の主。
ちなみに下の街がロックヤードバニアと呼ばれていることがこの四ヶ月で判明している。
「作れる。良くやったのじゃ。そして、エスエル。君に会えない日々はとても退屈だったよ」
「そ、そう。それは良かったよ…」
口調を統一してくれないかな?出来れば年寄り口調じゃない方で……
「どれくらいで完成するのかな?」
「急げば二ヶ月ほどじゃが、急ぐものでもない。季節が変わる頃に完成させる予定じゃ」
もう少しで年越しだね。
つまり、出来上がるのは雪解けの時期ってことか。
「して。そのオーラツールは何じゃ?ジンは使えんのじゃろう?」
「ん?ああ、これ?これはエスエルと意思疎通する為の物だよ。使うのは僕じゃなく、これまでエスエルが使ってたんだ」
見ただけでオーラツールかどうかわかるものなんだね。
僕にはサッパリだよ。
勿論、テリトリーを広げればわかるけど、それはあくまでも中身が複雑な機構だなって意味でわかるだけで、元々複雑な物であればそれがオーラツールなのか何かしらの機械なのかの判別は僕には出来ない。
「流石じゃ!流石ジンじゃ!素材などよりもそちらの方が素晴らしいわい!」
「そ、そう?」
急にテンション上がるとこっちは醒めちゃうの何なんだろうか?
「そのような使い方、長く生きてきたが思いもつかなんだぞ。そうか…エスエルも寂しくはなかったか…」
ヒューリーは慈愛に満ちた視線をあらぬ方へ向けている。
そこにエスエルがいるんだね。
この二人を見ていると何だかホッとする。
両者ともこの世界で上位の強さがあるし、僕より先に寿命で死んでしまうこともない。
僕はこの世界に来て失ってばかりだったから、この二人には僕が死ぬまでずっと一緒に幸せでいて欲しいと強く願う。
僕にとっての幸せの象徴であるかのように、いつの間にか二人のことをそう思うようになっていた。
「出来たぞ」
春を迎え、暫く経った頃。
最近作業小屋に篭りっきりだったヒューリーが、森で修行していた僕のところまで報告にやって来た。
「良かった。忘れていないかと心配していたよ」
「歳はとっておるが呆けてはおらんのじゃ」
予定よりも一月以上長かったからね。
僕は普通の人だからその時間感覚に不安を覚えるんだよ。
「見せてくれるのかな?」
「当たり前じゃ。ジンのお陰でもあるからのう」
そう言ってくれるのなら、頑張って素材を集めた甲斐もあるというもの。
「そちらは順調か?」
「うん。教えてもらったオーラの応用も大分様になって来たよ」
「それは重畳。では、参るかの」
頷く僕を確認して、ヒューリーは作業小屋を目指す。
僕も遅れないように身体を伸ばしたらすぐに後を追った。
「へぇ。綺麗だね」
相変わらず腐臭はキツいけど、机の上には美しい完成品が置かれていた。
「まるで寝ているみたいだよ。よくあの素材がこうなったね」
机の上に置かれた入れ物。
それは完全に人の姿をしていた。
見た目は二十歳くらいの女性。
髪は緑色で鼻筋が通っており、誰が見ても美人だと思うだろう。
「でもね?せめて服を着せてから僕に見せようね」
次があるかどうかはわからないけど、これは言っておかなければならなかった。
「人は…特に年頃の女性は、他人に肌を見せないんだ。ましてや裸は論外。
エスエルも嫌だと思うよ?」
「そうなのか?エスエル。嫌だったのかい?」
大精霊に性別があるのかは不明だけど、これから人になるんだ。入れ物も女性。つまり、エスエルは女性なのだ。
嫌に決まっている。
「何だ…ジンの早とちりではないか」
「え!?嘘!?ホント?」
大精霊とハイエルフの感覚はわかんないなぁ……
いや、そこはどうしても分かり合えないよ。
「嘘を吐いてどうするというんじゃ…」
「だよね…でも。人なら恥ずかしいから、その辺も勉強だね。二人とも」
入れ物が完成した後。
ヒューリーとエスエルは二人で旅に出るらしい。
僕も誘われたけど、それが明日なのか100年後になるのかはわからないとのこと。
丁重にお断りしました。
「むむ…そうだな。ジンがいる間に、人の常識を書き留めておかなくてはならないのじゃ」
「それが良さそうだね」
二人は文字通り人外な存在。
力でどうとでも出来るのに、決してそれはしない。
人が一生懸命生きていると知っているからだ。
勿論、人の中にはそうじゃない人も沢山いるから、そうしたことも、僕の価値観ではあるけれど教えておかないとね。
「それで?これで完成だよね?次はどうするの?」
見た感じ、これ以上はない出来栄え。
これで完成じゃないなら、何が完成なのかわからなくなる。
「これは完成品ではないのじゃ。儂の描くエスエルは、もっと神々しく、もっと慈しみのある顔つきなのじゃ。じゃから、次はない」
「はあ?これで?」
つい、心の声が……
でも、それは仕方ないね。
だってこの人でも、国一番の美女だと言われたら頷けるくらいには美しいのだから。
「儂の拘りはすごいんじゃよ」
「…でしょうね」
待たされるエスエルの身にもなってあげてよ……
この入れ物作りはヒューリーの自己満足ではなく、エスエルも待ちに待っているのだから。
二人の絆はとても深い。
何せ、1000年単位で続いている仲なのだから。
あ。そうか。エスエルも無限の時を生きる存在だったね。じゃあ後100年待たされても平気か。
「次の材料集めじゃが…」
「また集めさせるのか!?」
ヒューリーの歩みは止まっていなかった。
少しくらい休んでも、バチは当たらないよ?




