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これだよ、これ

 






 チリリンッ…


 右の耳から涼しい音が聞こえた。


「どうしたんだい?エスエル。もしかして、方角がズレたのかな?」


 そう呟くと、今度は左の耳から涼しい音が聞こえた。


「ありがとう。確認して進むよ」


 ここは道なき道。森だったり山だったり、兎に角目的地へ向けて真っ直ぐに進んでいる。

 そして道を間違えたら、頼りになる旅の供がこうして教えてくれるのだ。


 現在、僕の両耳たぶにはイヤリングがぶら下がっている。

 これは街で見つけたオーラツールで、当然だけど僕には動かすことが出来ないもの。

 形は鈴そのもので、効果も鈴そのもの。

 オーラを感知して鳴る、ちょっとした防犯装置なんだけど、それを利用してエスエルと意思疎通が図れるかもしれないと気付いたんだ。


 結果はご覧の通り。

 右を鳴らせば止まれ、左を鳴らせば下がれ。

 止まった状態だと、左がイエスで右がノーだ。


 簡単な意思疎通しか出来ないけれど、それでもかなりの進歩だった。


 エスエルの指示通り木を登り方角を確かめる。

 やはり少しズレていたようだ。

 流石大精霊。


「ありがとう。エスエルのお陰で迷いなく安心して旅が出来るよ」


 チリリンッ……


 左の鈴が鳴る。僕の感謝が伝わったようだね。


「もう少しで一つ目鰻の生息地だね。ギルドでは一日の距離って聞いたけれど、一人だけで尚且つ方角を見失わないから半日くらいで着くはず」


 希望的観測も十分含まれているけれど、殆どの冒険者は気をつけながら進むはずだし、それを考慮しての一日なら僕にとっての半日の距離でもおかしくはない。


 何せ、危険が迫ればエスエルが教えてくれるし、それがなくとも僕にはテリトリーがある。

 そのテリトリーも、剣の里で僕のものが異常なほどに広いことも判明したし。


 エスエルが帯同している僕に死角はない。


 普段はそんな油断をするようなことはないんだけど、僕から見て化け物のハイエルフが崇拝している相手だからね。

 大精霊様々だよ。ほんと。












「見えた。湖って聞いていたけれど…沼だね」


 ドジョウであれば沼でもわかるんだけど、鰻って綺麗な川じゃないといないってイメージなんだけど?

 どうなんだろうね?


「待っていても仕方ないし、探し方を考えよう」


 透き通る程じゃなくても、綺麗な湖だったら泳いで探そうかと思っていたんだよね。

 釣り道具もないし、そもそも釣れるのかすら不明。


「魔獣らしいから、やっぱりテリトリーで探すのが無難かな」


 とりあえず、沼地へ向けてテリトリーを伸ばしてみる。

 少し抵抗を感じるものの、そこは沼。何とか内部までテリトリーを伸ばすことに成功した。


「…え?これって……」


 ここは人里離れた沼地。

 四方は森に囲まれていて、その先は山が囲んでいる様な僻地でもある。

 ここはその中でも一段と低いようで、雨水が集まってこの沼を形成していることは想像に難くない。


 見たことはないけれど、恐らく琵琶湖並みに大きな沼地なんじゃないかと予想する。


 そんな沼に伸ばしたテリトリーが伝えてくる異変。


「…ドジョウどころじゃない。ましてや鰻なんて可愛いものじゃないじゃないか…」


 ゴゴゴゴゴ……


 僕のテリトリーに触れたナニカは、即座に反応して動きを見せた。


 沼は濁っていて分かりづらいけど、足裏に伝わる振動がそのものの巨大さを伝えてきた。


「うわっ!泥がっ!?」


 沼地から姿を現したもの。それは巨大なナニカだった。

 わからないのは、泥に塗れているから。


 沼を突き抜けて現れたそれは、鎌首を下げてこちらを睨んでいるようだ。


 泥の雨が降ってくるが、何かの力により、その泥が僕へと降りかかることはなかった。


「ありがとう、エスエル」


 チリリンッ


 左耳から澄んだ音が聞こえた?


「でっかいね…どうしよ?」


 フォルムはネッシーなんだけど、多分アレが一つ目鰻なんだろうね。

 こんなに大きいならギルドのお姉さんも教えてくれたら良かったのに……


「流石に沼地に踏み込むのは悪手だよね」


 そもそも。入りたくはない。

 地球のように汚染されていたり、ガラス片があったりはしないだろうけど……山ビルくらいはいるだろうし。


「出てきて早々悪いけど、これも約束なんだ」


 本来であれば、剣の里で鍛えた剣を使いたかった。

 でも、汚れるのは……


氣弾(オーラショット)


 外敵が来たと、姿を現してくれて良かったよ。


 バァンッ


 沼地だし、あの巨体だ。敏捷に動けるはずもなく、オーラショットが直撃すると、頭部だろう部位は爆散し、泥と体液を撒き散らした。


 バシャーーンッ


「あ……どうやって回収すればいいんだろう…?」


 倒したのはいい。

 でも、奴は岸から20mくらい離れた場所に姿を現していたんだ。


「………行くしかない?」


 チリリンッ


 左から聞こえた音を無視したくなったのは、これが最初で最後であって欲しいな……










「ぷはっ!ありがとう!もう大丈夫だよ」


 沼へ飛び込み、何とか一つ目鰻を岸まで運ぶことが出来た。

 そして解体が終わると、大きな体にしては小さな肝が採れた。

 残すは泥臭い身体。

 流石に全部脱いで入ったけど、川を見つけて洗い流すまでは全裸かな……


 そう思っていた矢先、突如として上から水が降ってきた。

 そう。エスエルの力だ。


 エスエルはどうやったのか綺麗な水を作り出し、その水を僕に掛けてくれた。

 臭いものに蓋をしたわけではないと、僕は信じている。

 信じて、いいんだよね…?


 チリリンッ


 左から聞こえるいつもの音は、何だか小さく聞こえた。


「さて。スッキリしたし、用も済んだ。次の目的地へ向かおう」


 チリリンッ


 次は翼竜。

 場所はあの街から北東に二日の距離。

 今が大体昼過ぎだから、夜までには着けるかな?


 ただ、次はそこから探し回らないといけないけれど。


 それは着いてから考えよう。

 気を取り直し、一路北北東へ向かった。















「ここがデアスゴの村であっているかな?」


 北北東へ進み辿り着いたのは、山間の小さな村落。

 魔獣対策だろう村を囲む煉瓦造りの壁はあるものの、それも大したものではなかった。

 いや。木の柵に比べれば頑丈だし、中の様子もわからないから山賊避けにもなるだろうけども。


 決して馬鹿にしているわけじゃないんだ。


 煉瓦の壁の高さは二メートルくらいだし、門番も見当たらないから、本当に気休めなんだろうと思っただけ。


「ん?そうだけど。兄さん、余所者かい?」


 そんな村に入って一番初めに見つけた人に声を掛けると、何故か警戒された。


 それなら門番くらいおこうよ……とは、余所者の勝手な言い分。

 様々な事情があることくらい、想像が出来なくとも理解くらいは出来る。


「うん。勝手に入ってごめんなさい」

「この村には宿も飯屋もないぞ?もう日暮れだから仕方ないが、入り口辺りで野宿するのが無難だ」


 荷物の少ないたった一人の僕を見て、旅人か冒険者だと思ったようだ。

 少し排他的な気配は感じるけれど、田舎の村なんて何処もそんなもの。

 それは今世も前世も関係なく。


「実は、翼竜を討伐するためにここへ来たんだ。被害があったんだよね?」

「…随分若そうに見えるが」

「冒険者に歳は関係ないよ」


 そもそも、冒険者ではないけど。

 嘘は言っていない。


「倒してくれるのか?」

「勿論。また被害があったの?」


 あったのなら教えて欲しい。


「…ああ。だが、依頼料は…」


 ああ。そういう話か。


「安心して。僕は強い魔獣と戦いたいだけの変わり者だから。

 だから今回も被害を聞いただけで、依頼を受けたわけじゃないんだ」


 翼竜の被害があった。

 ギルドで聞いた話の全てだ。


 本来であれば、冒険者や自警団などで討伐隊が組まれたり、何らかの対応があって然るべき相手。

 空から急に現れるんだからね。生活どころか常に命を脅かされている状況といっても過言ではない。


 なのに、聞かされたのは被害があったことだけ。

 つまり、依頼として受理されなかったんだ。

 もしくは、受理したけど依頼料が安くて誰も受けていないだけか。


 このお兄さんの反応から、前者であることが判明した。


「タダで倒してくれるのか?本当だな?後で請求されても、払えんぞ?」

「大丈夫。その代わり、翼竜を探す間の宿とご飯くらいはつけてくれるよね?」


 タダより高いものはない。

 それも世界共通らしい。

 わからなくもない。この人達村人は、搾取される側なのだから。


 だからタダではなく食事を寄越せと伝えた。

 その方が安心できるならね。


 僕としては別に野宿でも構わないし、食事も同じく。


「俺の親父がこの村の村長をしている。紹介するから、後はアンタが説明してくれ」

「ありがとう。それでいいよ」


 食事や宿ではなく、情報が得られるかどうか。

 それはこの後会う村長との話し合いでわかる。


 でも大丈夫。

 其方にリスクがないことを説明するだけだからね。


 ここに来て、異世界で初めて冒険らしい冒険をしている。

 冒険者ではないけれど、これは僕が望んでいることに近い。


 そう。異世界転生といえば、これだよね?

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