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ハイエルフと大精霊

 





「ところで、どうやって入れ物…エスエルの身体を作るのかな?」


 あの作業小屋の悪臭はハイエルフといえど臭いらしく、今はヒューリーのお家にて話し合いの最中。


「集めた素材を、精霊力やオーラ力を使って加工するのじゃ。素材によって出来ることが変わるでの。最高の大精霊であるエスエルには、やはり最高の入れ物が必要なのじゃ」

「へえ。そんな使い方も出来るんだね」

「儂がその技術を会得するまでに掛かった時間は200年。勿論、それまでに精霊力もオーラも修行したがのう。全部で500年は掛かる」


 じゃあ、僕には無理だね…いや、使う理由もないから別にいいんだけど。


「それって、多分一度入れたら出せないんだよね?」


 出せるなら、試作段階でエスエルを器に入れているはず。

 つまり、入れ物に入れるのは一度きりなのだろう。


「出来なくもないが、それには痛覚を刺激することになるからのう。彼女に痛い思いをさせたくはないんじゃ」

「成程…。もう一つ質問しても良い?」


 僕の言葉にヒューリーが頷いてくれる。


「これまでに、一体どれくらい入れ物を作ったの?」

「百…に届かないくらいかのう?いくつ作ったかはどうでもいいのじゃ。作るべきは完璧な入れ物だからのう」


 成程ね。

 流石エルフ…いや、ハイエルフだったか。時間は無限に感じられるほどあるもんね。


「それで…僕が集めるのはなにかな?」


 多分だけど、僕が生きている間には完成しない気がする。

 ヒューリーの拘りはそれくらい強く見えるから。


「ここに記してあるモノを手に入れて欲しい。中には人里で買えるものもあろう。金が必要なら、そこの棚に入っているから好きなだけ使ってくれてかまわん」

「なになに〜。一つ目鰻の肝。翼竜の皮膜・・・。うん。見てもわかんないや」


 渡されたその紙には、聞いたことがない素材ばかりが羅列されていた。


「え?エスエルも一緒に行くのかい?」


 びっくりしたなぁ。急に年寄り言葉をやめるのやめてくれないかな?


「わかったよ。ジンが心配なんだね。そんな君が好きなんだ。気にしなくていい、私は一人で大丈夫だよ。

 …という、わけじゃ」

「何が、というわけじゃ、なのかな…?普通に話せるなら普通に話せばいいのに…」


 何の拘り?自分が見た目と違って年寄りだってアピールしたいのかな?


「ごほんっ。エスエルがジンのお使いに同行してくれるそうじゃ。彼女が居れば心強いぞ?

 何せ、大精霊じゃからのう」

「よくわかんないけど、強いってこと?戦えるの?見えないのに」


 今も気配は感じられない。

 テリトリーにも何の反応も見られない。

 まさかとは思うけど…実はこのエルフ、呆けてるとか?

 認知症?


「馬鹿を申すな。大精霊であるエスエルに出来なことはないぞ?加勢するどころか、その気になればジンを空に飛ばすことも出来るのじゃ」

「空を?それは凄いね」


 そーらを自由に…おっと。


「では、任せたぞ」

「うん…とりあえず、やれるだけやってみるよ」


 呆けてはなさそう。かな?


「えっと…見えないけど。エスエル、よろしくね」

「任せてと申しておるぞ」


 本当かなぁ……よくわからないけど、見えない何かを味方につけ、僕はヒューリーの自宅を後にした。








「先ずは下の街へ行こうと思う。素材が何処にあるのか、どんなものなのかもわからないからね」


 ……独り言じゃないよ?

 いるんだよね?いないと恥ずかしいんだけど?


「…ま、まあ。兎に角、ここを降りようか」


 やって来たのは登ってきた崖。

 上から覗くととんでもない高さだね。

 我ながら恐怖心もなくよく登ったと思うよ。


 崖の高さは50m以上はある。

 落ちたらただでは済まない。普通は死ぬけど、僕は多分助かるかな。


「それでも、そんなことを試す気はないし」


 格好悪いけど、登った行動の逆を行う。

 カッコよくピョンピョンと壁面を飛び降りたいけど、そんな足場もないから仕方ない。


「よし。いこ……うわぁぁっ!?」


 崖とは反対を向いて、降りる準備に取り掛かろうとした矢先。

 突風に飛ばされ、僕の身体は崖の外に放り出されてしまう。


「うおぉぉぉっ!?」


 当たり前に落ちていく身体。

 抵抗しようにも崖からは10m程も離れてしまったので、ただただ恐怖に身を任せる他ない。

 数秒後に必ず訪れる痛みという恐怖に思考が支配された僕は、ニュートンにはなれそうもない。


 アレは自分が落ちたわけじゃないけど……


 現実逃避に意味のないことばかりを考えていると、地面が目の前に迫る。

 転がりながら着地しようか、思い切って足から着地しようか。


 そう悩む時間もなさそうだ。


「くそったれぇぇ……ええ、え?」


 足から着地することを選んだ僕は、オーラを全開にして衝撃に備える。

 しかし、一向にその衝撃はやって来なかった。


「浮いてる…」


 馬鹿な……追い詰められた僕は舞空術を使えるようになったのだろうか?

 …そんなわけないよね。


「ありがとう、エスエル。もう大丈夫だよ」


 そういうと、重力から解き放たれていた僕の身体は、再び重力の影響下に置かれた。


「やっぱり君のしわ…ごほんっ。お陰だったんだね。ありがとう。お陰で早く降りられたよ」


 元凶の突風もエスエルの仕業だったのだろう。

 普通の人なら兎も角、僕を吹き飛ばす程の風が気付くことなく自然に起こるとは考え難い。


 再び感謝を伝えると、僕の頬を暖かい風が撫でた。


 僕には見えないけど、これはエスエルの返事だと確信する。


「よし。気を取り直して街へ向かおう」


 街へ向かう僕の背を急かすように、僕へ向けて追い風が吹いた。












「一つ目鰻でしたら、ここから東へ一日の距離にある湖に生息しています」


 崖を登ったのが早朝。

 降りたのが昼過ぎだったこともあり、休むことなく情報収集に励んだ。

 訪れたのは冒険者ギルド。

 素材のことならここで間違いないよね。


「ありがとう。それともう一つ教えて欲しいんだ」


 そう言って、大銀貨を受付の女性に握らせる。


「なんでしょうか?私にわかることだといいのですが」


 握ったお金を返したくないと、女性の顔には書いてある。

 やはりこの手法は効果覿面なようだ。

 頑張って答えてね。


「翼竜のいる場所も知りたいんだ」

「そうですね…少々お待ちを」


 記憶にはないけど、調べたらわかるのだろう。

 受付の女性が奥へ引っ込むと、答えが出るまでゆっくりと待つ。

 焦っても仕方ないし、そもそもこの依頼に期限はないからね。


「お待たせしました」

「うん。それで?わかったのかな?」


 まさか金だけ持ち逃げしないよね?

 そう思い始めたところで件の女性が戻ってきてくれた。


「はい。ここから北東に二日の距離にあるデアスゴという村から、翼竜被害の報告が半年程前にありました。

 翼竜は縄張り意識が強い魔獣ですので、その近辺の山に生息している可能性があります」

「近辺って、どれくらいの範囲だろうか?」


 時間はあっても、無駄足は避けたい。

 あの時もっと詳しく聞いておけば…なんてことは往々にしてあるからね。


「翼竜の生活圏は凡そ20キロだと言われています。巣立ったばかりの子供であれば分かりませんが、目撃情報は大人の翼竜のようですし、恐らくその辺りかと」


 この程度の情報じゃダメなのかな?と、受付の女性が上目遣いで見つめてくる。

 元々、些細な情報でも仕方ないとお金を渡しているから、こちらとしては十分かな。


「ありがとう」

「こちらこそ!」


 食い気味に答えられ、僕は苦笑いを浮かべてギルドを後にした。


「この後、買い出しをして、それから宿に泊まる。素材探しは明日からだね」


 ギルドを出たところで、聞かれても恥ずかしくない独り言を呟いた。

 勿論これはエスエルへ聞かせるためのもの。


 サボってるとは思われないだろうけど、何も聞かされずついていくだけなのは辛いからね。


 これからも、出来る限り独り言を呟いていこう。

 そう決めた激動の一日だった。

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