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私のオーラ量は530,000です

 





「おい…おいっ!」


 目を瞑り、精神を落ち着つかせてオーラを水の様に展開している。

 不躾な闖入者がその水を踏んだことにより波紋は広がり、その者のオーラ量と身のこなし、はたまた姿形さえも僕に教えてくれる。


「…アイン、か」

「アインか、じゃねーよ…何日そうしているつもりなんだ?いい加減飯を食わねーと死んじまうぞ?」


 以前、何処までテリトリーを引き伸ばせるのか試したことがあった。

 その時に感じたものは『この世界に溶け込んで消えてなくなりそう』という感覚。


 今は逆に、テリトリーをそれほど大きくは広げず、感覚だけを世界へ溶け込ませようと試みていた。


 そんな現在は、目を開けてみると夜だった。

 星が沢山出ていて綺麗な夜空だけど、それにすら気付かないほど没頭していたみたいだね。


「…ああ。忘れてたよ。今日の分はまだあるかな?」

「忘れてたって……あるぞ。ベルがお前のことを心配して今日も置いといてくれてるはずだ」


 今日も…?


「もしかして…」

「ああ。ここ三日のお前の分は、朝皆んなで分けて食ってるよ」


 しまった…申し訳ないことをしてしまったね。

 自分のことばかり考えてしまい、配慮が足りなかったようだ。


 普段のみんなはぶっきらぼうだけど、根は良い人達ばかりだってことを失念していたよ。


「今から行くよ」

「おう……って、どうした?」


 行くと言った僕が動かない様子を、アインは不思議そうに見つめる。


「…立てない」

「…かあっ!馬鹿かよ…」


 アインは呆れながらも、肩を貸してくれた。











「そこまで!」


 今日は月に一度の剣王御前試合の日。

 以前テリトリーを使用せずに臨んだらこっぴどく叱られたので、今では全力を尽くしている。


「く…ジンに勝てなくなってしまった」

「ギルテン。君は心眼に頼り過ぎだよ」


 最近の僕は無敗。

 オーラを使えばギルテンに勝てるまでに剣も上達している。


「今月も序列一位はジンだ」

「はい。ありがとうございます」


 剣王から試合の感想を伝えられる。

 この機会は非常に貴重で、いつもその助言は的確で僕がぶち当たっている壁の乗り越え方を教えてくれた。


 序列とは、兄弟弟子のランクのようなもの。

 僕が勝つまではギルテンが十五連続の一位で、次期剣聖間違いなしという周りの評価だった。


 そんなギルテンは大きな壁に立ち塞がれている。

 その壁はオーラ。

 正確にはテリトリーだね。


 テリトリーの習得には凡そ五年掛かるも、ここにいるのは才能の塊達。

 ギルテン以外の上位の兄弟弟子達は既に習得していて、ギルテンが置いていかれている状況だ。


 それでもギルテンが強いのは、剣の天賦の才と心眼の習熟度の高さがあるから。

 それでも圧倒的なオーラ量を誇りその操作能力も高い僕とは相性が悪く、僕のテリトリーを使ったフェイントに毎回のように騙されていた。


 心眼は見えないものを見る力だからね。

 見えないテリトリーとは相性が悪いともいえる。


 そればかりを追いかけてしまうから。


「剣技はまだ拙いところはあるが…どうだ?一戦交えてみるか?」

「それは…」


 剣王と剣を交える。

 それは剣聖試験そのもの。


 つまり…認められれば剣聖?

 この僕が?


「…無理です」

「なんだ。またか。ジンのオーラに対する感受性の高さも難儀なものだな」


 僕は剣王と剣を交えることすら出来ない。

 それは僕の弱点によるもの。


 オーラに対する感受性の高さ故、剣王クラスがその気になれば、剣を振らずともテリトリーを伸ばすだけで僕を制することが出来るから。


 勿論、オーラ量もオーラの技術も僕の方が上だから僕も弾き返そうとするけど、持っている身体能力が段違いの為、僕が反応する前にいつもやられてしまっていた。


「アンタって、強くなってるようで、ここへ来た時と何にも変わってないわね」

「…ベル。これでも強くなったんだよ?」


 分かっている。

 本質的には何も変わっていないことくらい。


 上位陣の兄弟弟子は置いておくとしても、下位の兄弟弟子にならここへ来た時でも勝てていただろう。

 僕が強くなれたのは上辺だけ。


 言ってしまえば、ここに来て少し剣技を身に付け、テリトリーがあるので必要性が少ない心眼を習得しただけだね。


 ただ、剣とオーラの使い分けだけは確実に上達しているんだ。

 使い分けどころか、応用もまた上達している。


 間違いなく強くなっているけれど、それを素直に喜べないのは僕の生来の気性の所為なんだろうね。


「ジンにはガッツが足りないわ。強い相手にもがむしゃらに立ち向かう気勢とかがね」

「どうしても、身体より頭で考えちゃうんだよね…」

「ま。アンタが一番強いのは確かよ」


 それは全ての剣聖達が通ってきた道。

 彼等の背中に追いつくことは出来たけど、並ぶことは未だ出来ていない。


 広々とした戦場で、遠距離からなら何とでもなりそうだけど。

 逆に森の中や街中というありふれたシュチュエーションであれば、まず間違いなく勝てない。


 いや、そもそも敵対する気もないけれど……


 そんな僕は、今も前世の価値観に引き摺られている。


「これを言ったら…流石に嫌われるよね」


 本気を出せば、殺してしまうかもしれない。

 それが怖いんだ。


 誰でもなく、苦楽を共にする仲間達にそれを向けることが、僕にはどうしても出来なかった。


 僕がブレーキを壊して本気を出せば、剣に囚われず何でもするだろう。

 そうなれば何が起きるのか。

 僕が一番知っている。


 セフィリア。

 君を失くした時と同じことを起こしてしまうだろう。


 亡骸すら消失してしまっていた。

 剣王ですら耐えられないかもしれない。


 その可能性がある限り、やっぱり僕には出来そうもないね。


 どうでも良い相手なら躊躇なく殺せるけれど。

 それはこの世界で十六年生きてきた証でもある。

 やらなければやられる。

 守りたいからやれる。


 それがないと、どうも僕は前世に引っ張られてしまうみたいだ。


 悪い人がいればネットでも現実でも袋叩き。

 でも、何も無ければ虫も殺せない。


 その感覚が今も僕の中で生きている。


 あれ…でも、虫は殺していたね……あれは農家の敵だから仕方なく、ね?











「本当に出て行くのか?」


 あれからよく寝て、また起きてから三日三晩悩んでみた。

 それでも、やっぱり人は急に変われない。


 僕は僕でしかなく、人の命を奪いかねない攻撃は出来ないと結論づけた。


 そうと分かれば次に取る行動も単純。


 また旅に出るだけ。


「はい。師匠にも兄姉弟子達にもお世話になりました。強くなれたし、さらに強くなれるビジョンも視えたのでそれで十分です。

 剣聖にはなれませんでしたが、それ以上のものを頂けたと思います。

 不出来な弟子で師匠には申し訳ないですが、今までありがとうございました」


 僕は剣聖にはなれない。

 精神的にもう少し強ければ。

 オーラの感受性を誤魔化す手段を身に付けられれば。


 何となく方針は見えるけど、それは一朝一夕で身につくものじゃない。

 僕には大きな目標もあるしね。

 時間があるようでないんだから、修行は一旦ここまで。


 区切りをつけ、剣王グレナード・グレードへ頭を下げてからその場を後にする。


 そして次に向かうは兄弟弟子達の元。

 今日出て行くことは伝えてあるから、待っていてくれるならきっとあの鳥居で待っていてくれるはず。

 そこはここの正式な入り口でもあり出口でもあるから。





「そう。ジンにはその方がいいかもね」

「ベル、今までありがとう。君のお陰でここまで強くなれたと思っているよ」

「また嘘ばっかり。それ、みんなにも言ってんでしょ?」


 バレたか。

 流石に寝食を共にする仲間にはバレるよね。


「ジン。目標の一人が居なくなるのは、残念だ」

「僕もだよ、ギルテン」


 ギルテンと交わす言葉は少ない。

 口よりも剣で多くの会話をしてきたからね。

 僕らにとっての言葉は飾りでしかない。

 ギルテンとは握手を交わして別れとした。


「ジン。俺は剣聖になるからよ!いつかお前が居るところまで俺の名声を轟かせてやるぜ」

「アイン。君が声を掛けてくれていなかったら、ここへは辿り着けていなかったよ。

 それ以外も色々と助けてくれてありがとう。

 名声が聞こえたら、ちゃんと誤解だって真実の君をみんなに教えるね」

「やめろよな…俺のことはカッコよくて無口な剣士だって広めておいてくれよ」


 あははっ。

 アインとは笑ってお別れとなる。


「じゃあ、みんな。全員が剣聖になれることを願っているよ。

 また何処かで会おう」


 この世界は広い。

 物理的にも、インフラ的にも。

 二度と会えない人達もいるだろうし、また会える人達もいるはずだ。


 そう希望を持って、別れを告げる。


「ジン!近くに来たら絶対に寄れよ!」

「死ぬなよ!また一緒に剣を振ろうぜ!」

「若くてもあっという間に年を取るぜ!怠けんなよ?」


 様々な激励に背中を押され、初めての階段へ足を踏み入れる。


「降りたらオーラ量を測りなさいよ」


 そんな中、ベルの言葉に色々と思い出すものが。


「忘れてたよ!ありがとう!じゃーねー!」


 振り向いて手を振ると、ベルの困った様な表情と、アインの泣き顔と、元気に手を振ってくれる兄弟弟子達の姿が視界に飛び込んでくる。


 それを見て後ろ髪を引かれる想いが込み上がってくるけどなんとか堪え、僕は真っ直ぐ下を向いて走り出す。


 さあ。旅の再開だね。











「オーラ量を測りに来たよ」


 訪れたのは階段の下にある剣の里の為の小さな町。

 そこには剣の里で生活する為の必需品が揃えられており、勿論腕利きの鍛冶屋もある。


 この町の収入源は剣の里が定期的に購入する分以外に、メインの街道からこの町は少し外れるけどあの剣の里を見上げられる観光名所としての収入と、剣の里から旅立った歴代の剣聖達の寄付で成り立っている。


 利益率が高いので仕事量は少なく、また剣の里の麓という立地は大陸規模で見てもかなり安全な場所。

 そのことからも、働いている彼等は十分満足しているようだね。


「ジンさん。お久しぶりです。勿論、構いませんよ」


 僕が訪れたのは、そんな町の中にある唯一の役所。


 この山は治外法権としてどこの国にも属していない。過ぎた力は時として毒にもなるから、隣国は手を出してすらこないみたいだね。


 この世界にはオーラという第三のエネルギーがある。

 その力は強さだけじゃなく、人々の生活にも大きく関わっているのだから研究しないはずもなく。

 オーラ量を測る道具は多少の違いはあれ、大陸中に出回っているんだ。


 一番有名なのが各ギルド。

 冒険者ギルドでも、商人ギルドでも、そのどちらでもオーラの測定は仕事としてやってくれる。

 仕事だから、もちろん利用料を取られてしまうけどね。


 用途は多種多様だけど、一番はオーラの結晶を測定することに用いられる。

 冒険者だと、倒した魔獣から採取したオーラの結晶を納品した時の査定なんかが主だね。


 そして二番目の使い道としては、個人のオーラ量の測定。

 数値化されたオーラ量を知ったところで何かが変わるわけでもないと、僕はこれまで測定してこなかった。


 けれど、剣の里では毎月オーラ量を測定する決まりがあり、僕も体験していたのだ。

 これが結構面白かったりする。


 僕一人であれば何とも思わなかったけど、周りと比べるとその成長とか、個性とか、色んな差が出てくるんだ。


 僕も多少なりとも毎月伸びているから、この機会は少し楽しみにしていた。


 職員の方に促されるままに、何かしらの革の様なものを左右の腕に付けて準備完了。


「530,000です。相変わらず凄いオーラ量ですね」

「前回より20,000も伸びてるよ。ありがとう」

「いえいえ。里の方の役に立つことが我々の仕事ですから」


 瞑想が効いたのか、何なのか。

 その辺りは要検証なんだけど、オーラ量が伸びるのは成長期の間くらいでそれ以降は微々たるものだって聞くから、検証結果が出てもその時にはもうどうしようもなさそうだね。


 とりあえず、初めて測った時から50,000ほどオーラの総量が伸びているわけだ。


 一般的にオーラ量に男女差はなく、オーラが使える人の凡その平均値は10,000程。

 剣士に剣聖の称号があるように、オーラツールにはマスターの称号があって、その人達の平均が200,000らしい。

 勿論人によって質が違うから使いようではあるけれど。僕の場合、オーラツール自体全く使えないからマスターとは真逆だし。


「じゃあ、またね」

「はい。またのご利用お待ちしています」


 丁寧に頭を下げられたけど、僕はもうここへ来ないかもしれない。

 先のことなんてわからないけど、また来れたらいいなと思える場所があることは贅沢だよね。


 縁にも恵まれたことだし、またやる気を出してラヴ探しを再開しますか!

長くなり過ぎました……

説明回になるとどうしても……

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