表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/94

出航の朝

 






 早朝の水平線から太陽が顔を出し始める。

 快晴の朝を迎える三人の姿は港にあった。


「良い日和ね。旅立ちの日に相応しい快晴だわ」

「やっていることは旅立ちというより、逃亡だけど?」

「気分の問題よ」


 アメリアの言葉をセフィリアが訂正する。

 船が出るまでは油断出来ないと、周囲に気を配りながら。


「レイモンド卿が来ていたら、二人はもう死んでいるわ。貴女達が生きていることが、成功の証よ」

「嫌な証にしないでよね…レイチェル。隅で震えていても同じよ。こっちへ来なさい」


 三人は船の積み込みが終わるのを待っている。

 それが終わればいよいよ乗船となる。

 目立たないように木箱の隙間に身を隠しているが、レイチェルはその中でも袋小路となっている場所で蹲っていた。

 アメリアの発言を聞いて、小刻みに震えながら。


「レイチェル。あの程度の人間に怯えているようではダメよ。

 私達の旅はまだ始まってもいないのだから。

 ジークリンドを探す為に、これから何が敵となり障害となるかわからないもの。

 剣聖の上に立つ剣王が敵になる可能性もゼロじゃないのよ?」

「アメリア…レイチェルを無駄に脅すのはやめなさい。この子、人一倍ビビりなんだから」


 可能性の話をすればキリがない。

 セフィリアがそう諭すも、レイチェルで遊ぶことをやめないアメリアだった。


 レイチェルは長命種だが不死ではない。

 今日まで生き残れたのは、この臆病な性格故なのかもしれない。


 そんなレイチェルは二人から見たら立派な怪物なのだが、その二人はそんな様子を噯気にも出さなかった。


「もし、剣聖が来たら…全部燃やす……」


 アメリアが構い過ぎたのだろう。

 レイチェルから濃厚なテリトリーが広がり、フードは脱げ外気へ晒されたその長い銀髪は揺ら揺らと中空を彷徨っている。


「アメリア!なんとかしなさいっ!」

「あら…構い過ぎたかしら…?」


 その濃厚なテリトリーに触れた二人は、背筋に冷たいものを感じ、慌ててレイチェルを慰めるのであった。



「アメ……ゴホンッ。お嬢様方、準備が整いました」


 なんとかレイチェルを宥めることに成功した二人の元へ、漁港のまとめ役であるダレド・ブロードがやって来る。

 危うく皇女の名を呼び掛けるも寸でのところで言葉を飲み込み、難を回避した。


 船乗り達には三人のことを『やんごとなき身分のお嬢様方』だと伝えている。

 そうでも伝えておかないと、長い船旅だ。

 男だらけの船旅に色を添えるだけでは済まなくなる可能性もある。


 こう伝えておけば、三人に悪さをしようと考える者達は出てこないだろう。

 ダレドの心労は如何程か。


「一等客室をご用意しております。ですが、何分貨物用の船です。至らぬところも多々ありますがご了承ください」

「構わないわ。気を遣ってくれてありがとう。私達は船倉でも良かったくらいよ」

「…ご冗談を。貴女様をその様に扱っては、先祖に顔向けが出来ませんゆえ」


 今現在帝国内で隆盛を誇っている家々とは、それ即ち皇室に便乗を図られている家である。

 トップに気に入られるかどうかでその殆どが決まると言って過言ではない。


 上が白といえば、カラスも白くなる。

 ここはそういう国なのだ。


 いやここだけではない。大陸の殆どの国に身分制度があり、どの国でも似た様なもの。


 そんな大陸にある帝国内で、ただの漁場元締めが皇女を無碍に扱うことなど出来るはずもなかった。


 迎えに来たダレドの後を追い、三人とその側にある大きな木箱はゆっくりと大きな船へ向かう。

 木箱の中身は勿論スザク。


 可哀想だと駄々を捏ねるレイチェルを宥めるのに苦労したのは言うまでもないが、アメリアの『剣聖に見つかっても良いのかしら?』が決めてとなり、スザクは大人しく木箱の中へ入ったのだった。







「船って結構高さがあるのね」


 商船ということもあり、周囲の漁船とは姿形もその大きさも違う。

 乗船した三人は船の甲板へ姿を見せ、船から見下ろす景色に少しばかりの感動を覚えた王女組は暫しその眺めに魅了される。


「もう出していい?」


 そんな二人とは対照的に、レイチェルは景色よりも木箱に集中する。


 荷物は既に詰み込まれており、出航までは最終確認を残すばかりとなる。

 そんな中、甲板には大きな木箱の姿が。


 大型貨物を積む為の設備があったお陰で、スザクの入る大きく重たい木箱を無事に積むことが出来たようだ。


「ダメよ。出航するまでは隠しておく約束なのだから」

「えぇ…可哀想」

「レイチェル。船員にはまだ伝えていないのよ?パニックになって出航が延びればそれだけ私達が危険になるの。我慢しなさい」


 見た目子供の我儘を背の高い若い女性達が諌める。

 見た目的には何の不思議もない光景だが、事情を知る者が聞いたなら何を思うのか。


「スザク。もう少し待ってて」

『グルルル…』


 甲板で待機している船員は、銀髪の少女が木箱に寄り添う光景を見て首を傾げる。


『出航!』


 船長の声が何らかの方法により、船内へ響き渡る。

 それを聞いた船員達は持ち場へと駆け足で向かう。


 これにより、アメリアの逃亡劇は一端の終わりを迎えたのだった。












 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

         人物紹介

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 アメリア・ウイ・テリエ・ロカディリアス(ラヴ転生体)『165cm、金髪』


 レイチェル・ハントレー・ザルビスパ(吸血種、オーラの師匠、カーバインの元パーティメンバー、銀髪、150cm、270歳差)

 セフィリア・ミスティア・アルバート(第三王女、剣術武術好き、赤髪、168cm、同い年)


 モトリー・ナノ・テリエ・ロカディリアス(皇帝、銀髪、180cm、27歳差)

 エリザベス・ウイ・テリエ・ロカディリアス(皇后、青髪、165cm、25歳差)

 シュナウザー・ナノ・テリエ・ロカディリアス(第一皇子、白髪、−2歳差)

 テキサス・フォン・レイモンド(近衛騎士団長、レイモンド侯爵、剣聖、茶髪、20歳差)

 スザク(白狼、幻獣、白毛、−10歳差)

 ガーベラ・レミントン(クラスメイト、大店の一人娘、茶髪、同い年)

 ヴィクター(学院生、豪農跡取り、茶髪、1歳差)

 シューター・ブロード(学院生、水産元締め一族の後継者、茶髪、2歳差)

 ディケラ(精霊の里村長、ハイエルフ、白髪、785歳差)

 トゥーリー・レミントン(ガーベラの父、レミントン商会会長、燻んだ金髪、26歳差)

 ダレド・ブロード(シューターの父、元締め、茶髪、27歳差)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ